八葉を継ぐ者──A2──   作:クラウンドッグ

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八葉を継ぐ者──After Apocrypha──

 

 

 

「答え合わせ、するか?」

 

 

「普通に夢に出て来てんじゃねーよビビるだろが」

 

 

 

ナギトが悪態を吐いたのは願いの化身──特異点の核たる存在にだった。周囲はあいも変わらず白いんだか黒いんだかわからない空間だ。

 

ナギトの身の回りの事が一段落したある日、願いの化身は当然のようにナギトの夢に現れて話しかけてきた。

「はあ」とナギトは嘆息しつつも、これまで腑に落ちていなかった答えを得られるかも、と化身に向き直る。

 

 

「なあ俺よ──あ、ナウシカって呼んだほうが良かったか?」

 

 

悪ふざけで言った名前は前の世界で死んだはずのナギトを蘇生する際に一時的にナギトの肉体を乗っ取った化身が名乗ったものだ。

“ナウシカ”という名前はナギト、ウィル、シュバルツァー、カーファイの頭文字を取ってつけた簡素な名前である。

 

 

「よせ。……あの時は時間もなかったしな。ようやく腰を据えて話をできるかと思ったんだ」

 

 

「あー……まあ、気にならなかったって言うと嘘だな。聞かせてもらおうかね」

 

 

ナギトの返事を聞いて化身は話し始めた。

1205年3月、ナギトのトールズ士官学院卒業をもって化身は消えるはずだった。本来なら願いを果たした“特異点”はまるごと消える定めだったが、その“特異点”は幸か不幸か記憶喪失しナギトとして刻んだ年月が重石となってこの世界に定着する事になった。

 

 

「ここまではいいな?」

 

 

化身の問いかけに首肯する。

ナギトが生きる事を許された世界。しかしそこに化身の居場所はなかった。“特異点”──願いの化身としての本懐を果たし、消えた。──と、そう思っていた。

 

 

「で、俺たちがそのままこの世界に……お前の中で生きてた理由はわからん!」

 

 

ばん、と効果音でも出そうな勢いにナギトは仰け反った。「わからん!」と言われても…といった感じだ。

 

 

「……だけどな、それはそれで幸運だと思った。この世界はすでに俺たちが知る本来の軌跡とは違う道筋を歩んでいて、そこにナギトという異物がいるのも面白いと思った。……だから俺たちはお前の中で物語の行く末を見届けようと思ったんだ」

 

 

化身は語る。ナギトという異物が介在する軌跡という物語の続きが見たかったのだと。だから自分は傍観者に徹したのだと。

 

 

「とは言ってもお前が不慮の事故で死んだりしたら台無しだ。中の俺たちもたぶん一緒に消えるし、なによりクロウたちが悲しむ」

 

 

「……なるほど」とナギトは頷く。話が見えてきた。

 

 

「だからお前は傍観しつつ、俺の中で術式を編んでいたのか」

 

 

天上天下唯我独尊(ジ・オール)”、そして“天上天下唯我独尊(オールフォーワン)”。

9割9分死んでいたナギトを甦らせた化身の奥義。言霊を紡ぐ事により肉体に、あるいは魂に刻みつけた術式を自動で発動させる手法。

 

その効果は─────

 

 

 

「───世界との合一」

 

 

 

化身は言ってのけた。“特異点”ならではの反則技だ。

“特異点”とは世界の異物──というのは過去の話。クロウが生存したまま“閃の軌跡Ⅱ”が完結した事で、この世界は正史閃の軌跡からズレてしまった。言わば世界そのものが特異点化したのだ。だからこそ可能になった、比喩ではない世界との一体化。

それによりナギトは世の理を改竄する代償として喪った、自らを構築するデータを補充──肉体の修復ができたのだ。

 

 

「つまり俺って不死身?」

 

 

「あんまり調子に乗るな」

 

 

おどけたナギトに化身が釘を刺す。前に言われた事を思い出していた。

 

 

「“特異点”の肉体は世界の運命を変えるほどのもの……要はそれだけ容量がいる」

 

 

「俺の肉体を補充するにはそれだけ世界というリソースがいるわけだな?」

 

 

「そうだ。世界を構築するデータを徴収して肉体に変換してる。つまり使い過ぎると世界が壊れる。あと2回が限度だな」

 

 

天上天下唯我独尊(オールフォーワン)”で肉体の補充ができるのはあと2回。油断できる回数ではないとナギトは自身を戒める。

 

 

「………まさかとは思うけど、前の世界が壊れたのって俺の復活が原因だったりする?」

 

 

「一因ではあるな、おそらく。……前の世界ではギリアス・オズボーンは《時の至宝》の力を使ってキーアを《零の至宝》に戻し、あの子を脅して《リベル=アーク》、《碧の大樹》、《煌魔城》を出現させた。その“あり得ないこと”の積み重ねと騎神大戦による力の衝突によって世界の定礎は揺らぎ、“時獄牢”次元に繋がる孔が穿たれた」

 

 

化身の説明にナギトはなかった事になった世界でのラストバトルを思い返す。あの時にオズボーンが抱いていた願いも。

 

 

「“崩界率”…だったな。それが上がったからこの世界は別次元と繋がった」

 

 

「“高位次元”や“煉獄”と違う次元だったのはオズボーンの仕掛けだったか。《時の至宝》の権能を用いて繋がる別次元の指向性を操ったが……肝心なのはそこじゃないよな?」

 

 

 

そうだ、とナギトは首肯する。今、問いただしているのはリベールでルトガーにやられた際に化身のおかげで生き返ったナギト──その復活が世界にもたらした影響についてだ。

 

 

「推測にはなるが。さっきも言った通り“特異点”の肉体の修復は世界を構築するデータを奪うに等しい。つまりそれだけ世界が壊れ易くなる。……オズボーンの狙った“崩界率”の上昇に一役買ったのは間違いないだろうな」

 

 

「たまんねーな」

 

 

「そうだな。だから言った、調子に乗るなってよ。本当に死ぬって時にしか使うなよ?」

 

 

「だけども本当に死ぬって時は容赦なく使えと」

 

 

「……そうだ。これからも俺たちが、お前の軌跡を見続けるために」

 

 

いかにも癪っぽい表情をした化身は、しかしナギトにとって最大の言葉を贈った。

これで話は一段落だったが、やはり気になる事のあったナギトは突っ込んだ。

 

 

 

「そういやあお前、本当に俺の中に残ってる理由わからんのか?」

 

 

「わからん!」と先程宣言されたばかりだが、どうしても気になっている。ふとした時に己の内に潜むもうひとりの自分に話しかけて、もし消えていたりしたら、そんなに寂しい事はない。

 

 

「………確たる事は何も言えんが心当たりはある」

 

 

化身は自分がこの世界に未だ存在している理由についてわかっていない。されど推測はあった。

 

 

「そうだな……いちから説明するか。まず、この世界は観測で成り立っている。これはいいな?」

 

 

「そんな前提みたいに話されてもわからんぜ」

 

 

間を置かないナギトの返事に化身は渋い顔だ。そんなにナギトのIQを疑うような表情をされてもしてやれる事はない。

 

 

「……例え話するぞ。6回目の特別実習、お前はどこに行った?」

 

 

6回目の特別実習。トールズⅦ組に課された特別な実習。その6回目の行き先は──

 

 

「オルディスに行ったな」

 

 

「違う。俺たちが行ったのはルーレだ」

 

 

1+1=2がわかるように、当然のごとく答えたナギトに化身は正答を提示した。

 

 

「あ?あー……うーん………もう一声」

 

 

ナギトが6回目の特別実習で行ったのは間違いなくオルディスだ。だがさも当然のように返した化身の言葉に答えを掴みかけるが思考を放棄。正解を求める。

 

 

「いったん“ナギトの軌跡”について忘れろ。俺たちが“閃の軌跡”──リィンの物語として行ったのはルーレだな?」

 

 

「そうだな」

 

 

「つまり俺たち(プレイヤー)はオルディスを観測してない。そういった地名の都市がある事は知っている。だが行った事はない。少なくとも俺たちが知る閃の軌跡Ⅱまでは」

 

 

ここまで言われてナギトはようやく化身の推論が理解できた。

 

 

「俺たちが観測したから──いや、観測した時点でオルディスという街が形成された……?」

 

 

「おそらくは。ゲーム的に言うとプレイヤーが行った街は存在し、行った事のない街は存在しない」

 

 

「だが“特異点”──プレイヤーの化身たる俺が現地に行った…観測するとそこは存在が確定する……って事か」

 

 

「逆に言うと、俺たちが観測しなければそれは存在しない事になる。………あの時獄牢次元でオズボーンが妻を探し出せなかったのも、俺たちがその存在を観測していなかったから…と俺は考えてる」

 

 

──本当に観測していなかったか?

ナギトは湧き上がった疑問を無視して議論を進める事にした。

 

 

「──つまりは俺がお前を観測しているから、お前は今も存在できている、って結論?」

 

 

「たぶんそうだ」

 

 

化身の論はどこまでいっても推測でしかない。だから確かな事は言えず「おそらく」や「たぶん」と言った表現になるのだ。

 

 

 

「あるいは──別の誰かがこの軌跡を観測しているのかもな?」

 

 

 

「別の誰かって誰だよ」

 

 

 

「さあな」と化身はお茶を濁し、続けた。

 

 

「俺たちの推測はこんなもんだ。……一応言っておくが俺たちが望むのはお前の軌跡の続き……物語に積極的に関わる気はない。……お前はナギト(お前)として生きろ。俺たちはそれが見たい」

 

 

「わかったよ」

 

 

とナギトは二つ返事。なんだかんだで化身には借りがある。それに一心同体である彼にこの先も見守ってもらえると考えると心強い。

 

 

「これからも頑張れよ“八葉を継ぐ者(ナギト)”。応援してる」

 

 

 

「ありがとう俺たち───プレイヤーたちの願いの化身よ。これからもよろしく頼む」

 

 

 

純粋な応援と、それを受け取る者の返答によって場は終焉を迎えた。意識が白み、彼我の境目が曖昧になっていく。

その中でナギトは己に深く決意を刻む。これからも自らの人生を斬り拓いていくことを。

 

 

 

☆★

 

 

 

「ん…………」

 

 

目を瞬かせる。どうやら眠っていたようだ。

手近な机に乗った本に指を栞にするようにして、そのまま寝ていた。

 

 

「は、たるんでんな」

 

 

ナギトは自嘲した。

トールズ士官学院を卒業して一年が経過していた。

世の中は概ね平和だ。

 

 

「ナギト、いるか?」

 

 

「ラウラか、どした?」

 

 

コンコンとノックをして間を置かずラウラがナギトのいる書斎に入ってきた。

ナギトは本に正しく栞を挟んでラウラに応対する。

 

 

「……さては眠っていたな?寝坊だぞナギト、門下生たちが待っている」

 

 

「もうそんな時間か」

 

 

ナギトは時計を確認し、今日の予定を頭の中で整理した。もうこの時間はアルゼイド流の門下生を練武場でしごいているべき時刻だった。

 

 

「寝過ごしたか。悪いなラウラ、すぐ行くよ」

 

 

「うん、すぐに支度するが良い」

 

 

ナギトとラウラは婚約している。ヴィクターに正式に許してもらい、なんならシュバルツァー男爵や老師ユンにも報告済みだ。

 

先日届いたリィンからの卒業の報告の手紙にはそれについての短い祝辞もあった。

 

とは言えまだ籍を入れたわけではない。互いの指に婚約指輪を着けてはいるが、それは結ばれた証ではなく結ばれる約束のものだ。

 

 

幸せだ。

なんでもない1日が過ぎていく。

こんな日々が愛おしい。

争いから離れ、剣が遠ざかり、感覚が鈍っていく。これがいい歳の取り方をするという事だろう。

 

願わくはこの平穏が永遠に続かんことを。

 

 

 

 

ナギトはラウラと一緒にアルゼイド子爵邸を出て門下生の集う練武場に向かう。

 

眼下のレグラムの町は長閑で風光明媚だ。この玲瓏なる景色が心に馴染んだ時、真の意味でナギトは平穏を勝ち取ったと言えるのかもしれない。

この平和で愛おしい毎日が、退屈を覚えるほどに続いたのなら。

 

 

 

このハッピーエンドの続きに、いつまでも身を置けたのなら。

 

 

 

この幸せの続きを余生とできたのなら。

 

 

 

それは八葉を継ぐ者の軌跡ならずとも、素晴らしいものになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

THE END

 

and

 

to be continued in 八葉を継ぐ者──AAA──




まずはここまで読んでくださった読者の方々に感謝します。ありがとうございました。

これにて当初(何年前だ…?)から予定していたナギトの物語は完結となります。


ですが軌跡シリーズは今現在でも続いており私も「バチクソおもしれぇ!」とプレイした所存であります。
つまり何が言いたいのかと言うと「軌跡本編にナギト突っ込みてぇ!」であります。

ので、ナギトの物語(苦難)はまだ続きます。
ナギトの“その後の異聞”はこれにてお仕舞い、これからは“もうひとつのその後の異聞”としてナギトの軌跡は続けさせていただきます!


その名も“八葉を継ぐ者──AAA──”!!乞うご期待!!!


という事で後書き的な駄文を締めさせていただきます。


今後も八葉を継ぐ者をよろしくお願いします。
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