視点A   作:ZenBlack

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 ※前書き

 これは「推しの子の星野アイを、自分好みに書いてみた(あるいは魔改造してみた)」という類の二次創作小説です。ただ、当方の「自分好み」はかなり変です。拗れてます、捻れてます、色々な意味で。

 原作のアイは広く万人に好感を抱かれるヒロインであると思いますが、これは「そうでない」方向に、強くデフォルメを効かせています。ルビーなら「は? ママはもっと神聖で尊いんですけど?」と言って低評価爆撃をしてきそうな表現です。

 改めて原作の、「何を描き、描かないか」「何を秘し、何を表すか」そのバランス感覚は神なんだと思います。それは真似出来ない領域のものなので、当方は真似、してません。

 そういうわけで、多少重たい話になっています。自分の好みを優先し、好きなように書いたらそういう風にしかなりませんでした。





1 : アイドル

 

 小さい頃、お母さんが窃盗で捕まった。

 

 その時、自分が何を思ったかはもう覚えてない。けど、気が付くとお母さんはいなくなっていた。

 

 

 

 私は、頭が良くない。

 

 窃盗なんて言葉は、今でも予測変換に出てくれば「あー、こういう漢字だったな~」ってわかる程度。算数も国語も得意じゃなくて、勉強は苦手な方。

 

 なにより、人の名前と顔が覚えられない。

 

 だって、人の顔は、大体どれもみんなおんなじ。男か女かだって、本当に小さかった頃は、髪が長いとかスカートをはいてるとか、そーゆーのでしか掴めなかった。

 

 おまけに、空気も読めない。

 

 最初に、その言葉を聞いた時には、他の人にはみんな、空気が見える特別な目か鼻か耳があるの? って思ったくらいだよ。だから、これも本当に小さかった頃は、心に思ったことを口にすると、どうして他人が怒ったり、泣き出したりするのか、理解できなかったんだ。

 

 だからお母さんが釈放されて、だけど私を迎いには来てくれなかったって知っても、私はそれを「当然だよね~」って思った。こんな変な子に生まれちゃって、ごめんね~、って思う。

 

 

 

「アイちゃんはいいよね、可愛くって」

 

 いつからか、そんなことを、色んな人から言われるようになった。

 

 感じたのは、あれ? なんか、面倒くさい?……ってこと。

 

 私は変な子だから、普通に擬態して、自分が普通であるという嘘をつき続けていないと、生きてはいけないと思った。そうしていないと、みんなお母さんみたいにどこかへ行ってしまうんだって思ってた。

 

 人は、好きじゃない。むしろ、嫌いだったし。

 

 でも私には親がいなかった。いなくなってしまった。だから他人を拒絶して生きるのも、それはそれで難しくて。施設には施設の人間関係があって、施設には他人と他人と他人しかいなくて。だから、そこでやっていくには、みんなおんなじよーな顔の、みんなみんなおんなじよーな人と、無理にでもやっていくしかなくて。

 

 だから、私の、なけなしの脳細胞は、そんな中でも生きていける嘘を、たくさんたくさん、いくつもいくつも生み出そうと、編み出そうと、組み上げようと、いつもいつも必死で必死で動いていた気がする。それはもう、九九や漢字の、入りこむ余地がなくなるくらいに。

 

 空気を読むことは相変わらず苦手だったけど、変なことを言ってしまった後は「可愛らしく」「あれー?」って笑ってれば、なんやーかんやーで場は収まってくれる……らしい……というのは、結構早いうちに気付いていた。

 

 可愛く、振舞うのは大事なんだなー、って思った。

 

 可愛いって何か、その頃にはまだ、よくはわからなかったけど。

 

「アイちゃんはいつも笑ってゴマカシテばかり! あたしたちのこと、バカにしてるの!?」

 

 そんな風に言われても、困ったように「えー、違うよー」と笑っていれば、周囲の人がなんやーかんやーで場を収めてくれる。そういうことにも、小学生の低学年の頃にはもう気付いていた。

 

 可愛く、振舞うだけでもダメなんだなー……って思ったけど。

 

「ごめんね、私が悪かったの」

「アイちゃん……うん! 私もごめんね! 仲直り、しよっ」

「うん」

 

 気が付けば私は、怒った人と和解することが得意になっていた。

 

 私は人の顔と名前が覚えられない、だから怒った人への特別な感情も、何もない。

 

 私はバカで、世間様にはいつもご迷惑をかけている。自覚はあるんだ~、困ったことにね。

 

 だから、バカがバカでごめんねと、心からの言葉を、いつでも、どこでも、誰にでも、伝えることができた。それは、でも、本当は嘘なんだけど、けど、それも、心からの言葉であることは本当で、だからか、それは、どうやら少なくとも、同じ子供相手なら、意外と、それなりには効果があったみたいで。

 

 私は、他人のよくわからない感情を、そんなふうに受け流す技術をたくさんたくさん、生み出し、編み出していった。何かの法則だとか、社会常識だとかを学ぶ余裕がなくなるくらいに。数学? 古文? 知らない子ですねぇ。

 

 

 

 気が付けば私は嘘で、自分自身を塗り固めていた。

 

 気が付けば私は嘘でできていた。私には嘘しかなかった。

 

 だけどそれを、どうにか本物のように振舞って、世間を騙すことで生きている。

 

 そうすることで、そうしていることを許されてる。

 

 それが私。

 

 それが、特別な目や鼻や耳を持たず、生まれてしまった私の生き方。

 

 父親がいなかったからこうだったんじゃなくて。

 

 母親がいなくなってしまったからこうなったわけでもなくて。

 

 私の、頭が良くなかったから、こうなってしまっただけ、なんだよね。

 

 そんな嘘つきでも、私は私なりに、人の輪の中で、なんとなーく普通に過ごせたらいいな~、って思ってた。

 そんな嘘つきでも、私は私なりに、人の輪の中で、波風立てずに生きていけたらいいな~、って思ってた。

 

 思って、いたんだよ。

 

 

 

 だから。

 

 外見も、普通に溶け込めるふつーな感じの方が、色々と都合が良かったのになって、何度か鏡の向こうのその顔に思った。私の顔は、特に目が、瞳がひとめ見たら忘れられないくらいに印象的……なのだそうだ。私からすれば、どこが人と違うのか、よくわからないな~……って、その程度の顔だったんだけど。

 

 悪目立ちしたくなかった。

 

 注目されてしまえば、私が嘘の塊であることが、バレてしまうから。

 

 人の輪の中から引きずり出されて、お前は嘘つきだからって排除されてしまうから。

 

 それで、お母さんのように保釈されることもなくって、一生を……それがどれくらいの長さかはわからないけど……ひとりっきりのまま、オマエは嘘つきであると咎められながら過ごす。

 

 誰にも愛されることなく、誰も、愛することができずに。

 

 それは、私みたいな人間には、ほんとーに当然の結果なんだろうけど。

 

 それでいいやって開き直ったら、当然のように辿り着いてしまう終着駅なんだろうけど。

 

 でも、それはやっぱり、私にはとても恐ろしいことのように思えたんだよ。

 

 

 

 だから私は嘘に嘘を重ね、積み重ねて、そんなことを重ね重ね、繰り返し、繰り返し重ねて、そして。

 

 

 

 そうして。

 

 

 

「スカウトって言うから、何かと思えば」

 

 だからね。

 

「アイドル~? 私が? 笑っちゃう話だね」

 

 最初はそれを、本当にタチの悪い冗談みたいって思った。

 

「今、ウチの事務所の中学生モデル達で、ユニットを組もうとしてるところでな」

 

 ブリーチした髪色、そのせいで額は少し後退して見える、黒眼鏡。

 

 スカウトさんの、変えようと思えば(額の後退も増毛でなんとか)いくらでも変えられる顔の、特徴を言語化して、私はそれ以上、記憶しなくてもいいかなって思った。この時は、どうせもう二度と会うこともないなー、って思ったから。

 

「君なら、センターも狙えると思う」

「興味ないでーす」

 

 雑誌やテレビやモニターの向こうには、私以上に可愛い人がいる。そういう人がどんどん現れ、どんどんと消えていっている。多少、顔が人より優れているくらいでやっていけるほど芸能界は甘くない。それくらい、バカの私にもわかってた。

 

 芸能人の顔は、なぜか覚えられることもあって。

 

 画面に現れると、そこだけが特別な形を持っているように感じられて、それが心に焼き付いてしまう。その名前も、自然と頭に入ってくる。

 

 画面の向こうには、そういう特別な人達がいる。

 

 でも、それでも、そういう人達であっても、あっさりと消えていったりする。

 

 人から可愛いと言われる私が、鏡の向こうには抱かないような感情を、抱くほどに可愛い子であっても、一瞬でいなくなったりする。

 

 なら、私がどうなるかなんて、推して知るべしじゃない?

 

 

 

 それに……。

 

「やめといた方がいいと思うよ~? 私、施設の子だし」

 

 この時は思ってた。

 

 私の抱いているアイドルのイメージは、笑顔を振りまいて、みんなを笑顔にする、純粋な存在。私が研究に研究を重ね、鏡の前で、ミリ単位で調整して作り出した、この気持ち悪い嘘の笑顔とは、なにもかもが違う笑顔を浮かべられる人達。

 

「元々片親だったんだけど、小さい頃にお母さん窃盗で捕まっちゃって、その間施設に預けられて……でも、お母さん釈放されても、迎えに来てくれなかったんだ」

 

 嘘つきで人嫌いの私とは真逆。

 

 嘘しかなくて、人なんか好きじゃないのに、人の輪に加わることでしか生きられないニセモノの私とは正反対。

 

「人を愛した記憶も、愛された記憶もないんだ。そんな人に、アイドルなんて、出来ないでしょ」

 

 こんな私はきっと、ファンを愛せないし、ファンからも愛されないよ。

 

 嘘つきの私は嘘しかつけないから、愛してるって言っても、それも嘘。

 

「いーんじゃねーの?」

 

 だけどそんな私に、スカウトさん……後の社長は、ひとつの答えをくれた。

 

「?」

 

 そもそも普通の人間に向いてる仕事じゃないし、云々。

 

 そういう経歴も、個性じゃん、云々。

 

 きょとんとする私に、社長は普通じゃないことを並べ立ててきた。

 

 その言葉に、頭がクラクラしたのを覚えてる。

 

 心がグラングランに揺れたのを覚えてる。

 

 そうなの?

 

 アイドルって、普通じゃない人に向いている仕事なの?

 

 信じられないという気持ちが、信じたい言葉の前で臆病に震えていた。

 

「むしろ、客は、綺麗な嘘を求めてる。嘘をつけるのも才能だ」

 

 才能。

 

 嘘をつくことが求められる、仕事?

 

 私は嘘でできている。

 

 だとしたら、私の天職は。

 

 嘘つきの私が、そのままで生きられる場所は。

 

 この世界に、どこにも居場所がないと思っていた私が、いてもいいかもしれない場所は。

 

 

 

「それに、みんな愛してるって言っている内に、嘘が本当になるかもしれん」

 

 私に、私が進むべき道を示した社長は、私の心にそんなふうな呪いをかけてくれた。

 

 

 

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