更に思いついたので書いたハッピーエンドのフィナーレエピソード。
B小町アイは、絶対無敵のアイドルだ。
「みんなー! 楽しんでるー!?」
十二歳で株式会社苺プロダクション、通称いちごプロの所属となり、アイドルグループB小町でデビュー。
「あはっ! 私、愛されてるなぁ! 私もみんなを愛してるよー!」
デビューから地道にファンを増やし、四年で中堅どころのアイドルグループに成長。
「それじゃあ次の曲は! 私から初めてB小町のセンターを奪った曲! ピーマン体操 signed with B! かなちゃん!」
その四年目には、絶対不動のセンターとなっていたアイの、活動休止というトラブルに見舞われるも、アイ復帰後は休止の影響など微塵も感じさせない躍進ぶりを見せる。
「あ、どもどもー。有馬かなでーす。……アイ先輩、先にMCがある時のタイトルコールは、こっちに任せてくださいって言いましたよねー?」
「あれ!? 今日は私の引退ライブなのにダメだしされたよ!? グループ最年少の子に!」
「これからは気をつけてくださいねー」
「だから無いんだよ!? これからはもう!?」
アイの、地上波ドラマへの出演。
「だいたいですね、アイ先輩は色々適当すぎです。ダンスの手の振りが、その時々で高かったり低かったりしますし、白い服でカレーうどん食べたりしますし、車で爆睡してる時は大口開けて寝ていたりしますし」
「え、私大口開けて寝てるの?」
「大丈夫です、それでも可愛い寝顔ですから」
「そういう問題じゃないよぉ!?」
アイの、ホラー映画への出演。
「それに……人のことムリヤリ引っ張りこんでおいて、自分はこんなふうに突然、アイドル、やめちゃうし」
「あ……うん、それは……ごめん?」
その映画がスマッシュヒットしたことによる知名度の上昇と、それによるテレビ等、大手メディアからの仕事の依頼の増加で、B小町はアイ復帰後、大きな躍進を見せていく。
「謝らないでください。ずっと最前線で頑張ってきた先輩のことは、尊敬していますから」
「あはは、そうだよねー……ねぇ信じられる? 私がデビューしたのって、かなちゃんが生まれる前なんだよ~? もっともっと、この芸暦が長い先輩のこと、尊敬してくれていいんだよー?」
「私も、年齢、イコール芸暦の女ですけどね。貯金額では負けませんよ?」
「ちゅ、中学生になったばかりの子に、経済力でマウント取られたよ……」
アイはB小町の絶対的エースとしてグループを引っ張り、万単位のファンと大量のフォロワーを抱える、押しも押されもせぬアイドルへと育っていく。
「それじゃあみんな! ピーマン体操 signed with B! いっくよー! 今日はアイ先輩が、スペシャルコーラスとして参加する特別バージョンでお送りします!」
「いえー! みんなもピーマン食べてスーパーアイドルになってね! アイムポップアイドル ザ ピぃーマン!」
「それはホウレンソウ食べる人です! 先輩! 応援歌の定番ではありますけど!」
推しに、推されまくるアイドルへと成長する。
「いやー、アイドル衣装で踊るピーマン体操は、また別の味わいがありますの~」
「いいなー、かなちゃん、私もピーマンみたいなあのスカート、着てみたかったな~」
「あ、アイ先輩、ひとまわり以上年下の子の衣装を着てみたいとな?」
「MEMちょ~、MEMちょだって、かなちゃんとは年齢差十近」「わーわーわー!!」
アイ、二十歳の時、B小町は初のドーム公演を成功させる。
その後のB小町は、まさに快進撃を続ける。ライブはいつも満員御礼、有名作曲家や有名ボカロPに提供してもらった曲は、各種チャートの上位へ常にランクイン。SNSでもトレンド入りの常連となり、年末のドームコンサートも毎年恒例となって、やがて新たな時代の国民的アイドルと呼ばれるまでになり、のぼりにのぼりつめていった。
「いや~、時が経つのは早いねぇ。私がデビューしたのも、今のかなちゃんと同じくらいの頃だったけど、それからもう、その頃に生まれた子供が中学……高校生になるくらいの時間が経っているんだよ?」
「どうして一瞬、中学生って言おうとしたのかな~? リーディング、サバですかな~?」
「みんな~! 公称十七歳とXヶ月になってるMEMちょの本当の年齢は二」「わわー! わわわー!!」
大手芸能事務所の仲間入りを果たした苺プロダクションは、ドーム公演が三回目を数えた翌年、TV局と組んで大々的なオーディションを実施する。これも、毎年恒例の年中行事となる。
それにより、後に発掘されたうちのひとり、MEMちょ……MEMは「お笑い」適正が高く、アイを含め、何人かのメンバーは、それに引っ張られる形でコメディエンヌとしての才能も開花させてきた。
「はーい、ふたりとも、そろそろ次の曲に行きますよー」
「あー、ましろん」「まなちゃん、かなちゃんの着替え、終わったの?」
また、MEMの同期には、こちらは正統派の優等生アイドルとして、アイ、MEMとはまた別のファン層をガッツリと掴む鈴城まなもいる。
「うん、ピーマンの妖精さんから、カブの妖精さんに大変身していましたよ~」
「ほほー、それはそれは~」
「カブ?」
アイよりも年上だったメンバーは、この十年で次々と引退していった。
初期メンバーのひとりであったきゅんぱんは、今でもグループへ曲を提供する形でB小町に関わっているが、彼女もまたステージからは去っている。
「こぉらー、誰がカブの妖精さんよー」
「あ、かなちゃん」
有馬かなは、オーディションとは別口でB小町に入った。
「どこから登場かと思えば、普通に舞台袖から走ってきたね~……全力疾走で」
「なるほど、真っ白なバルーンショートパンツ……というか、かぼちゃパンツ? 見ようによってはカブに見えなくもないね~」
「かわい~」
表向きは、有馬かなと何度か映画で競演をしたアイが誘い、誘いまくり、根負けした有馬かながB小町に入ったことになっている。……それによりアイの、百合でロリ疑惑がファンの間に広がったのは……また別のお話。
「はぁっ、はぁっ、だから誰がカブの妖精よ! 人を勝手に春の七草の根菜類コンビにしようとしないでください! スズシロ先輩」
「ひど!?」「おっと、これは思わぬ知的ギャグだね~」
「……えっ、どういうこと?」
だが有馬かながB小町に入った、その理由の真実は闇の中だ。実際は、もう少し複雑な事情がそこにはあったが、正確にそれを知る人間は、この世に片手で数えられるほどしか居ない。
「でもそんなツンツンのかなちゃんも可愛いよぉ~」
「……まな先輩って」「みなまで言わないであげて~。これでも正統派アイドルの看板しょっているんだよ~、あくまでうちの中ではだけどねん」
「え? スズシロって? こんさいるいって?」
「アイ先輩、今度私のお家で一緒に七草粥、食べましょ?」
「こ、コイツ、ステージ上で堂々と先輩をお家デートに誘いやがった」
ともあれ。
そうしてB小町は新陳代謝を繰り返しながら、平均では七人前後のグループとして十五年以上、活動を続けてきた。
「ではでは~、かなちゃんも戻ったところで! 次の曲、行きましょう!」
「了解にゃー」「はーい……」「はーい。アイせんぱーい、約束ですよ~」
そして今日、B小町においては不動のセンター、絶対的エースと呼ばれていたアイも、このライブを最後に……引退をする。
「それじゃあ、STAR☆T☆RAIN!! いっくよー!」
「……次の曲は、私が作詞をして、きゅんぱんが作曲してくれた思い出の曲、嘘つきの私、です」
「きゅんぱん先輩は今日、スタッフルームからステージをモニターしてくれてるよ~」
有馬かなに、経済力でマウントを取られていたアイだが、そこには有馬かなが、ドン引きするほどの資産家になっているという事情がある。どこぞのインターネット内職マイスターに、高騰する前のビットコインを勧められ、おまけに、最も高騰した時期にその売り抜けを成功させたためだ。……アイツ、なんかヤバイ神様でも憑いてるんじゃないか?
……それなのに、どこぞの誰かの口車にのせられ、なぜかアイドルデビューしてしまった有馬かなのことはさておき……だが、アイ自身の年収も、数年前からは既に億を超えていた。
「この曲、意味深なタイトルの割には、能天気な歌詞と曲調で地味に人気なんですよね~」
「まな先輩、能天気は褒め言葉じゃないですよ? 地味も」
「そうだねん。女の子に、よっ、太っ腹、って言うくらいに褒め言葉じゃないね~。あっはっはー」
「MEM先輩……言われたこと、あるんですね……」
「うぐっ。女子中学生の純粋な同情が心にささるぅ」
「能天気でいいよ? 能天気に、なっちゃおうって歌だし」
嘘つきの私を含め、B小町のヒット曲にはアイ作詞の曲がそこそこあること。
アイ単体で受けるCM、ドラマ、映画などへの出演の仕事が増えたこと。
そして、有馬かなにはハイリスクな資産運用を勧めておきながらも、自分自身は堅実な資産運用しかしない、どこぞの誰かが身内にいること……などにより、アイの資産は順調に膨らみ、今では家族三人くらいなら一生遊んで暮らせるほどの財が、既にできている。
「今日はそんな能天気な曲に、最近いちごプロ所属になった私達の後輩! ぴえヨン君が新しい振り付けをしてくれました! そしてななななななななななななななんと! 今日はぴえヨン君もステージの上で私の花道を飾ってくれます!」
「アイドルのステージに覆面筋肉男……前衛的ですの~」
「アイ先輩、実は筋肉がお好きなんですか? 可愛い女の子よりも」
「えっと、ちがうよー。どうして可愛い女の子が比較対象になるのかはわからないけど」
「まな先輩って……」「みなまで言わないであげて~。これもある意味~、優等生アイドルの王道だよ~。ましろんのは、ビジネスも営業も付かない、ガチ趣味だけどねん」
「ぴえヨンは~、あの一目見たら忘れられない、インパクトのあるキャラが好きなんだよー」
「あー、わかるー?……」
「絶対わかってない顔だ。まな先輩のこれ」
アイ公式アカウントのフォロワーは、三百万人を超えた。
「それでは登場してもらいましょう! みんなー! いっせいに、いっくよ~!!」
B小町はこの十年間で、年末の某歌合戦番組に八回、出場した。
「ぴえ~!」
「ヨーン!!!!!!!」
アイはもう、絵本のラストページにたどり着いている。
「ピヨピヨピヨー! カブの妖精に続きぃまシテェー! 筋肉の妖精がやってきたピヨー!」
「わ、私が前振りみたいな扱いにっ!?」
そうして彼女は、一生を、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
「ピヨピヨピヨ? ピヨピヨピーヨ? ピヨピィーヨ!!」
「だから私はカブの妖精じゃないから!? 妖精の言葉はわからないから!? そもそもカブと筋肉の妖精って言葉が通じる同士なの!? っていうか筋肉の妖精だったら言葉はピヨピヨじゃなくてムキムキとかモリモリじゃないの!? って、あー! ツッコミが追い着かなーい!!」
「ムチャなフリを完璧に返されテェー、ボク驚いてるヨー」
そういうページに、たどり着いている。
「それじゃあいっくよ~! 嘘つきの私! ぼくドラバージョン! ウィズぴえヨーン!」
中身も肉体も、アイと不釣合いの俺は、王子様には、なれないけれど。