遊戯王GX 霊術使いに使われて。   作:どるねお

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TURN0 試験前夜

「つかれしたー」

 

既定のシフト時間を終えると、俺はリーダーに軽く挨拶を済ますと仕事場を

後にする。いや、今日も働いた。働いた。

 

「はい、どもね」

 

そんな言葉を背中で受け、俺は走る。何故急いでいるのか? 何故なら今日は、

遊戯王OCGの新弾の発売日だからだ。遊戯王OCGは所謂TCG。トレーディングカード

ゲームの一種だ。まぁ、交換したり対戦したりして楽しむカードゲームだ。

 

「まぁ、交換する人も対戦する人も居ないんだけどね……」

 

俺は昔から専らコレクション専門だった。まぁ、自分でデッキを組んで

悦に浸ったりはしてたけど……自分で悲しくなりますよね。

 

「マックさっさと帰った方がいいぜ~。サビ押し付けられるかんな」

「分かってるよ。お疲れ~」

 

自虐に浸っていると後ろから同僚にせっつかれる。ちなみにマックとは俺の渾名だ。

なぜそう呼ばれるかと言えば、「アメリカに居そうな体型」だからだそうだ。

小学生のいじめかよと思ったが、今では気に入っていたりする。

とりあえずスクーターに跨ると家から一番近いカードショップへ走る。

 

「~♪」

 

軽く鼻歌を歌いつつ目的地を目指し、急ぎつつ安全第一で県道を走る。

だが、後ろから凄く加速したスポーツカーが接近してくるのがミラー越しにみえた。

 

(あぶないなぁ)

 

そう思いながら少し歩道寄りに逃げる。が、その車は――――何故か歩道に寄ってきた。

恐らく時速120以上は出ているので?というレベルで速い。その車はその間も加速を

続けているようであっという間に俺の後ろに迫る。そして……

 

―――――けたたましい音と共に天へ舞い上げられた辺りで俺は気を失った。

 

『本日午後9時ごろ、S県県道○番で原動機付自転車が車に追突される事故が発生しました。

この事故で原動機付自動車の運転手、光井拓真さん(20)が搬送された病院で亡くなりました。

車の運転手は、事故当時居眠り状態にあったと思われ現在も取り調べが続いています――――』

 

 

「は~い。いらっしゃい」

 

そこは真っ白な部屋だった。限りない白、白、白……

 

「天国?」

「ちょっと違うかな~」

 

思わずつぶやいた一言に返事が返ってくる。ちなみにそこには誰も居ない。

あるのは白い空間だけ。遠くを見ても白しかない。きっとこの空間の端には

どれだけ頑張っても辿り着けないと思う。

 

「それじゃあ一体?」

「細かい話は抜き抜き! 面倒くさいじゃない?」

「はぁ……」

 

適当にあしらわれる。

 

「じゃあ、3つお願いを叶えてあげちゃうね」

「それはどういう――――」

「質問はナッシングね~。面倒くさいから」

「………」

 

お願い3つか。しっかしどうしたものか? 確か俺死んだよね?

車にバーンとやられたよね? どうしてこうなった?

 

「あ―――――」

「質問は無しね」

「………」

 

「あの」って言おうと思ったら止められました。もう、適当に決めよ。

そう言えば結局カード買えなかったんだよね。なら、それ関係で適当に。

あ、そう言えばこの願い使えば彼女を作ることも……まぁ、適当でいいよもう。

 

「決まりましたけど……」

「あらそう? じゃ、後は頑張って」

「え、言わなくていいんでしょうか?」

「いいのいいの! 分かるから。それに……面倒でしょう?」

 

……この人面倒くさがり過ぎでしょう。いくらなんでも。

 

「はい、じゃ~」

「うわッ!」

 

眩い光に包まれる。眩しッ! 目がおかしくなりそうだ。

 

「しかし面白い子ね。願いが「デュエルを沢山したい」「生まれ変わりたい」

「彼女が欲しい」だなんて。滅多に居ないタイプよね。とくに最後のが笑えるわ」

 

 

街の一角にある、小さなカードSHOP。

 

「う~ん……どれも高いな、これ」

 

壁にずらっと並んだショーケースの前で僕、光井拓真は唸る。

 

「何言ってんの、タクマー。どれも相場だぜ」

「いやいやいや、おかしいでしょうよ。物心ついたときから思ってたけどさ。

どう考えても《ブラッド・ヴォルス》が5000円とかはおかしいと思うんだよね」

「それはタクマーだけだよ」

 

どうにも僕には昔の……15年よりも前の記憶がある。それはどうにもよくわからない

けどあるのだからしょうがない。どうやら、その記憶によれば僕は一度死んでいて、

その時白い部屋で3つの願いを叶えて貰ったらしい。記憶の世界とこの世界は

根幹は一緒。同じような日本だった。きっと生前の願いが関係してるのかも

知れない。まぁ、それは小脇に置いて。

《ブラッド・ヴォルス》の話だよ。このカード。僕の記憶じゃ100円にも満たない。

だからどうにも納得できないのだ。だって、この世界の人々はこの値段でこのカードを

嬉々として買うんでしょう? 詐欺だよ詐欺!

 

「下級で1900も攻撃力があるんだよ? このくらいはするでしょう?」

「納得できない!」

 

下級で1900打点? なら、ゴブリンとか後は、《アレキサンドライドラゴン》とか

どうなるのさ? けど、後者はこの世界に無かった。どうやら、生前の世界には

あってもこの世界に無いカードが多くあるらしい。例えば、エクシーズとかシンクロとか

後はペンデュラムというものもこの世界には無い。

 

「また君かい?」

「あ、おっちゃん」

 

店の奥からニコニコとしたおじいさんが出てきた。彼はここの主人で、皆から

「おっちゃん」と呼ばれ親しまれているのだ。本名は知らない。

 

「今日はどうしたい?」

「アカデミア受験のためのカードを買いに来たんだ」

 

アカデミア。それはプロのデュエリスト育成のための教育機関《デュエル・アカデミア》。

僕は、今年そこの高等部に受験する。

 

「そうかそうか。それは大変だねぇ」

「うん。でも前々からの夢だから。……僕は、プロになるんだ!」

「そうかいそうかい。プロにねぇ」

 

おっちゃんは孫を見るような顔で笑っている。

 

「っと。こんな時間か。じゃ帰るわ」

「もう行くのかい?」

「あぁ。テスト明日なんだよな」

「そうか、頑張ってな。お、そうだそうだ。待ちなさい」

「え?」

 

そう言うとおっちゃんは店の奥へ消えて行った。暫く待っていると、おっちゃんは

戻って来た。

 

「これをやろう」

「え? カードパック?」

 

それはカードパックだった。カードがランダムに5枚一組になったセットだ。

 

「これやるから頑張れよ」

「あ、ありがとう! 頂きます!」

 

僕は大きくお辞儀するとSHOPを後にした。

 

 

「カードパックをタダでもらえるなんてラッキーだったな」

 

俺はパックの開封式を行う。パックは大体1p150円ほどだが、中学生の

財布事情ではそんなに多くは買えないのだ。生前だったらそれこそ箱単位で買えたが……

ベリっと景気がいい音がしてパックが開く。このドキドキ感は本当にくせになる。

カードを裏返し一枚目から順にオープンしていく。

 

「一枚目は……う~ん今のデッキには合わないなぁ……」

 

その後も二枚目、三枚目と見ていくがどれもデッキにはかみ合わない。

 

「これが、最後のカードだな……オープン!」

 

脳内でババン!というSEが響く。最後のカードは……

 

「《火霊使い‐ヒータ》か……イラストは可愛いんだけどなぁ」

 

なんというか……

 

「単体じゃ機能しないんだよね」

『ンダとおい!』

 

「!?」

 

部屋には僕一人なのに少女のような声が響く。え、怖いんだけど!?

 

『もう一度さっきの言葉聞きたいんだがなぁ。ん?』

「え、? ッグハ!」

 

背後からケリを喰らったようだ。僕はそのまま冷たいフローリングへ倒れる。

 

「イッタ……前歯がッ、前歯痛って……」

『ふん』

 

声なんか気にせず打ち付けた歯の痛みに耐える僕。

 

『たく、こんな奴が主人だとか……今生の不幸だなホント。おい。お前!』

「いてぇよ……あーぐらぐらしてるよ、これ……」

『聞けよオイ!』

 

はっとすると僕は背後を振り返る。そこには機嫌悪そうな少女が立っていた。

ん……このビジュアル何処かで……僕は、手に握られてるカードを見る。その後に

彼女を見て……

 

「母さん! 誰この人! 勝手に僕の部屋に人を入れないでって言ってるじゃん!」

 

部屋のドアを開けてそう叫んだ。すると下の階から『えー? 知らないわよー』と

言う声が聞こえた。

 

『待てこら! なんでその発想に至った!』

「歯に響くよその声……」

 

耳元で叫ぶ彼女に非難の声を上げる。

 

『ふん! 兎に角だ。さっき言った台詞は取り消せ。めちゃ不本意だが、

この先長い付き合いになるんだからな。けじめはつけて貰う』

「はぁ……すいません。でもヒータさん?は単体じゃどうしても……」

『あぁ?』

「いえ、なんでもございません!」

 

怖いよこの人……番長系の番長だよ。女番長だよ。その時、助け舟と言わんばかりに

部屋のドアが開く。

 

「拓? 明日、あんた試験でしょう? 早く寝なさい」

「あ、母さん! ここに居る人誰なの!? 不法侵入だよ!」

「はぁ? 寝ぼけてるの? 早く寝なさいよ。朝早いんでしょう?」

 

バタンと部屋のドアが閉まる。なんてこった……

 

『お前以外の人間にゃ見えねぇよ』

「くッ……こうなったら塩でも振りかけてやる! 待ってろよ!」

『霊体でもねぇよ。私らはな、精霊ってんだよ』

「精霊?」

 

精霊は僕の勉強机の椅子に座ると語りだした。

 

『いいか? そのカード。まぁ私の本体だな。世の中にはそういうカードが

多く存在すんだよ。で、そいつらは気ままに適当したり、主見つけてそいつの下に

つく奴もいる。で、今回お前が私の主になった。めっちゃ不本意だけどな。決まりだから

しょうがねぇ。質問は?』

 

そこまで一気に話すと、顎をしゃくって質問を促してくる。

 

「え、と……つまり僕が主で君は……下っ端?」

『は? どの口が言ってんだ……?』

 

ゆらっと立ち上がると僕の前に立つヒータ。え……おこなのかな。

 

「え、だって今の話の要約ってそんな感じじゃ……」

『くッ……間違っちゃいねぇけど……ムカつく!』

「がはッ!」

 

ぐーで鳩尾を殴られる。僕はたまらず倒れこむ。精霊って力強い。

く……攻撃力500のくせに! 攻撃力500なのに!

 

『おい、今攻撃力500のくせにとか考えただろ? 二回も』

「か、考えて……ないで、す」

『ならいいんだよ。ふん! もう寝る! あ、お前床で寝ろよ。後の話は明日だ』

「え?」

 

そのまま部屋の僕のベッドに倒れこむ彼女。なんて女王様なんだ……

民主主義だった僕の部屋が一瞬で絶対王政になった気分だ! こうなれば……

 

「独立戦争だ……カードに戻れ! 戻れ!」

 

ベッドで倒れている彼女の頭を彼女の本体でぺチぺチと叩く。

こうすれば吸い込まれて戻るんじゃないだろうか? 戻ったらあの店に売ってやる!

きっと精霊のカード?だから高く売れるだろうさ! フハハ! 人間をなめるなよ!

 

 

『あ?』

 

 

「すいません。もう。殴らないでください……」

『チッ……さっさと寝ろよ。お前明日テストとかいうのなんだろ? 私のせいで

寝られなくてできなかったとか言ったら許さねぇかんな』

「はい……」

 

僕は床に寝かされたのでなく、転がされた。残りの体力を振り絞ってクローゼット

から毛布を取り出してくるまる。

こうして僕の入試前夜は過ぎていく。明日はいよいよアカデミアの実技試験だ。

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