陰キャの女友達に催眠術をかけられた件について   作:赤砂の

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プロローグ
唯一の友達


 人間は残酷なまでに不平等だ。容姿、親、才能、学歴、あげだしたらキリが無い。容姿に悩む人もいれば、家庭環境に悩む人もいる。才能が無くて燻ってる人もいれば、学歴にコンプってる人もいる。上を見上げればキリが無いし、下を見下げたら底が無い。まともにこの不平等を相手していたら正気じゃいられない。だから、一旦不平等という現実から目を背けてみよう。何か自分の好きなことに逃げてみよう。そうすれば、きっと大切な何かが見えてくるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリリと鳴り響く目覚まし時計のアラームを力強く叩きつけて止め、ふわぁっとあくびをしながら背筋を伸ばした。カーテンの隙間から見える空模様は曇天。あまり良い天気とは言えないが、雨に降られるよりかは幾分かマシだろう。

 

 ベッドから降り、そのまま部屋着を脱ぎ捨てて黒と金のイカしたジャージへチェンジ。腕のストレッチをしながら階段を降りて外へと向かう。たった今から私の朝の習慣であるランニングが始まる。

 

 運動は良い。何も考えずに打ち込める上に、楽しいから。しかも健康に良いとまできた。ここまできたらやらない理由はないだろう。ランニングは毎日20〜30分程度、昔通ってた中学校と家を往復する感じ。雨が降っていた場合は自分の部屋の中で筋トレだ。

 

 すれ違う見慣れたご老人に挨拶をしたりしなかったりしつつ帰宅。家に帰ってから、シャワーで汗を流すのだが、正直この辺りのモーニングルーティーン見てても面白く無いだろうから登校まで飛ばそう。

 

 さて、時刻はAM7時30分。

 インスタントの味噌汁と炊いたご飯を平らげて歯磨きをし、家を出る。勿論シャワーから出たタイミングで制服に着替えてるのでご安心ください。

 

 ちなみにうちの高校の制服は女子が黒いブレザーと赤いネクタイと、灰色と白のチェックのスカートで、男子も黒いブレザーと赤いネクタイと灰色のズボンだ。

 

 5分ほど歩いて最寄駅に着くと、蟻のように列をなす人間達の群れがいるではありませんか。そう、悲しいかな。満員電車ですね。畜生、中学時代の私のことを知ってる人がいないであろう高校に行こうと遠目の高校を選んだのが間違いだったか。しかも何がムカつくって普通に私のこと知ってる人いたことだ。もっと言えば幼馴染だったし。まぁ地域のお祭り位でしか関わりなかったから幼馴染と言っても、只々家が近いだけの存在ってだけだけど。

 

 知らないおっさんと毎日のように密着してしまう満員電車と、私の中学時代を知ってる人間のいる高校生活では釣り合いが取れてないどころか、てこの原理で高校生活が跳ね上がって天井に突き刺さってしまうくらいだろう。もうまじ無理。

 

 もっとも、無駄に高い身長と筋肉やら何やらで引き締まったスレンダーなボディー、そして鋭い目つきによって痴漢とは縁が無いことが不幸中の幸いだ。もしされたら投げ飛ばすか関節決めてボコボコにしようと思っていたけどね。今女としての魅力が無いんだなって思った奴もボコボコにしていきたいと思いまーす。

 

 満員電車もつつがなくクリア。

 次は高校の最寄り駅から高校まで歩くのだが、ここでまた1つ問題がある。それは周りに2人組以上の生徒が多いというところだ。勿論私のようなはぐれメタルもチラホラいるが、所詮ははぐれメタル。本当に数が少ない。

 

 私は女の割にかなり身長が高いから避雷針のように視線を集めてしまう。だから、あぁあの人1人で来てるんだとか思われて鼻で笑われるリスクも他のはぐれメタルよりも高い。

 

 え、それなら友達と来れば良いじゃんとか思ったか?残念だったな!!私にはっ、友達などいない(泣)。いや、厳密に言えば電車で通学してる友達などいないになるな。友達はいるぞ。普通に。……1人だけだけど。

 

 なんだよ、文句あんのか?友達っていうのはよぉ、数じゃねえだろうが!!

 

 この友達は私が人生で初めて出来た友達だ。ってかもはや親友まであるかもな。あの子がどう思ってるかは知らないけど、少なくとも私は親友だと思ってる。まともに話し出してから10日も経ってないけどね。

 

 おっと話が脇道に逸れてしまったが、端的に言うと皆が2人以上で登校しているところを、圧倒的に視線を集めながら1人で登校してるので凄く気まずいってこと。

 

 気まずさをいつものことだと割り切り、曇天の空の下で綺麗に咲く桜のアーチの下を通り抜け、ついに私こと渡会怜火(わたらい れいか)の通う高校である紅華高等学校へと到着したのだった。

 

 私のクラスは1年A組ということで、ありがたいことに下駄箱のすぐ横にある教室だ。下駄箱で靴を履き替え、いつも通り教室ドアを開くと、やはり視線が凄い。その上こちらが視線の方を向くと目を逸らすのだからタチが悪い。逸らすならそもそも見ないでくれや。

 

 私は自分の席である窓側の1番後ろの席へと早歩きと普通の歩きの中間くらいのスピードで歩いて行く。

 

「おはよう」

 

 自分の席まで着くと、前の席で寝たふりをしている女の子の肩を揺らして挨拶をする。

 

「ふわっ、あぁ渡会さん。おはよう」

 

 机に突っ伏していた体をビクッと跳ねさせてから挨拶をしたこの女の子は、瑠璃川彩奈(るりかわ あやな)という名前でさっきも言った私の唯一の友達。

 

 黒髪のショートボブで可愛らしい顔立ちをしているが、少しだけ長い前髪を右に流していて右目が隠れてしまっているため、陰気なオーラが出てしまっている。いつも黒タイツを履いていて、身長は150cm弱と小さいのに、おっぱいがEカップと大きい。身長を伸ばすための栄養が全部胸にいったのではないかと私の中で話題だったりする。

 

 1人で寝たふりをしているというところから分かると思うが、彩奈も私以外の友達がいないらしい。彩奈にとってはどうか分からないけど,私にとっては人生ではじめての友達。絶対に喧嘩とかしないようにしないと。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 至る所に本が散らばっている部屋の中で私と瑠璃川は長机にお昼ご飯を食べていた。ここは図書準備室のお隣にある小さな部屋で、文芸部の部室でもある。

 なぜ私達がこの部屋でご飯を食べているのか。誰もいない部屋だから勝手に使ってるってことは無く、ただ単純に私達が文芸部の部員だからだ。しかも他の部員はみんな幽霊部員のね。

 

「それでね、朝霧くんは本当にかっこよくてさ。今日も挨拶してくれたんだよ」

 

 教室で寝たふりをしていたとは考えられない程に興奮した様子でお弁当をつつきながら話しているのは、顔を少しだけ赤らめている彩奈。

 

 彩奈は同じクラスの朝霧裕也(あさぎり ゆうや)がが好きらしく、毎日のように今日はなになにをされただとかを報告してくる。その様子はとても微笑ましく、私は娘の恋路を見守る母親のような目を彩奈に向けていたりする。

 

 なんか変に拗れそうだから彩奈には言ってないけれど、実はさっきのあんまり関わりの無い幼馴染が朝霧だったりもする。

 

「挨拶くらいは誰でも……いや、私は彩奈としかしてないな」

「ほらぁ、私も渡会さんと朝霧君としかしてないもん。多分脈あると思うんだよね。渡会さんはどう思う?ね?ね?」

「いやぁ、挨拶されただけで脈があるかないかって判断できない気がするけど」

「勿論挨拶だけじゃないよ。落としてたキーホルダー拾ってくれたし、不良に絡まれてるところを助けてくれたもん」

「不良に絡まれた?」

「実は昨日本屋さんに行こうと駅前まで寄ったんだけど、そこで柄の悪い先輩に絡まれたの。そこをシュッと通りかかりの朝霧君が助けてくれて、連絡先まで交換したんだよ!ほら、これ見て!!」

「おぉ、本当だ。すごい進展したじゃん」

「多分ね、朝霧君私に惚れてると思うんだよね〜。好きでもない異性に連絡先なんて渡さないと思うし」

 

(ラノベとかだと好きでもない異性にも連絡先は普通に送ったりしてるけど……現実ではどうなんだろうか。いや、まぁこんなに幸せそうに話してるんだから水差さないほうがいいか)

 

「なんか私にも出来ることがあれば手伝うから、困ったら言ってね」

「……良いの?」

「良いよ良いよ、私達友達だからね」

「ありがとっ、渡会さん」

 

 私は菓子パンを平らげてから、ずっと視界の端にチラチラ映っていた怪しげな本を手に取る。えーっと、タイトルは『ゼロから始める催眠術』?うわっ、胡散臭いなぁ。ペラペラと捲ってみると催眠術のやり方が載ってるっぽい。

 

「ところでこの本は何なの?催眠術とか書いてあるけど」

「あー、これは朝霧君に使えるかな〜みたいな?」

「スピリチュアル系は変な人だと思われて引かれる可能性が高いからやらない方が良いよ」

「べ、別に一応置いといただけだから!実際にやろうとか1ミリも思ってないから!!」

「それなら良いんだけどね」

 

 これ普通にやろうとしてた反応でしょ。

 催眠術なんて胡散臭いの引かれるからやめたほうが良いし、万が一成功したとしても、それで付き合ったとして朝霧は勿論、彩奈だって本当の意味で幸せになれないだろうからね。

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