陰キャの女友達に催眠術をかけられた件について   作:赤砂の

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3話 友達とは

「お待たせ」

 

 文芸部の部室のドアを開いて、中で待っている彩奈に声をかける。彩奈は自分の作ってきた弁当を食べずに、近くの本屋のブックカバーがついた本を読んでいた。

 

「あれ、食べてなかったのか?」

「渡会さんと一緒に食べようかなって……」

 

 どうやら私と一緒に食べる為に待っていたらしい。なんて優しい人なのだろう。

 

「そうか、ありがとな。なら早速食べようか」

 

 私は唐揚げ弁当を机の上に置いて椅子に座る。

 

「今日はお弁当にしたんだ」

「まぁちょっとな」

 

(お弁当のおかず交換がしたいからお弁当にしてみたなんて恥ずかしくて言えない。でも、おかずの交換はしたい。一体どうすれば良いんだ)

 

「その唐揚げ美味しそうだね」

 

 弁当の蓋を外して割り箸を袋から取り出したところで、彩奈が唐揚げを見てそう言った。

 

(こ、これはもしかしたらおかず交換のチャンスじゃないか?)

 

 ごくりと息を呑む。

 

「な、なら1つやるよ」

 

 私は箸で唐揚げを1つ掴んで彩奈の口元まで持っていく。その瞬間、自分の中で後悔という感情が溢れ出した。唐揚げをあげるってだけなら、私の弁当から勝手に取って貰えば良かったってだけの話だ。それをどうして私は、わざわざ箸で掴んで彩奈の口元までもっていっているんだ?

 

「そ、それじゃあいただきます」

 

 動揺しているうちに、彩奈は私の箸ごと唐揚げを咥えてしまった。

 

「うん、やっぱり美味しいね。ありがとう渡会さん」

「あ、あぁ。いっぱいあるから全然良いよ」

 

 躊躇のないあーんに少々麺食らって動揺してしまった私だったが、おかず交換のまたとないチャンスだということで彩奈の弁当のおかずをどうやってもらおうかと改めて考える。

 

 まず思い浮かんだのが、お腹が空いたからおかず1つくれない?というものだ。これは私が人の物にまで手を出してしまう食いしん坊だと思われかねないから、出来るだけやめておきたい。

 

 次に正直にありのまま全部言ってしまうというもの。欠点としてはおかず交換という自然な友達同士のやりとりが、人為的なものになってしまうので感動も薄れてしまうこと。

 

 私は考えに考えを重ねながら、落ち着く為に唐揚げを1つ食べる。

 

(あれ、これって間接キスじゃね?)

 

 彩奈の口の中を通って唾液がついた箸は、間違いなく私の口と接してしまった。それが間接キスだと自覚した瞬間、何故か自分の体が熱くなっていくのを感じ、心臓がドクドクと激しく動き始める。

 

「わ、渡会さん大丈夫?」

「だ、大丈夫だ。なんでもない」

 

 心配してくれている彩奈に申し訳なく思いながら、私は体の異常に目を逸らすように弁当を食べることに集中することにした。

 

「あのさ、渡会さんにもう一回催眠術かけても良い?」

「催眠術?」

 

 弁当を食べ終わった私に、一足先に食べ終わっていた彩奈がそんなことを言ってきた。昨日は催眠術のおかげで誤解も解けたのだから、もう一度くらいはかけられてみてもいいかもしれない。ただ、彩奈と触れ合った時とかに発生する変なドキドキも、催眠術をかけられてから起き始めた気がするが……それは流石に考え過ぎか。

 

 友達に催眠術をかけて、こんな意味の分からない状況になる筈がない。

 

「ほ、ほら、なんか今日渡会さん変な感じだからさ。催眠術でどうにかできないかなって」

「いや、まぁ別に変な感じとかでは無くいつも通りだけど、せっかくやってくれるならかけられようかな」

 

 やることも本を読むくらいしかないしな。

 

「じゃあやるよ?」

「おう」

「渡会さんこの指ずっと見ててね?」

 

 昨日と同じように8の字に動き始めた人差し指を視線で追っていく。その指は酷く綺麗な指で、少しで良いから触ってみたいとすら思ってしまう。

 

『じゅ〜う、えっと、だんだんあなたの体はリラックスしていきます』

 

 耳元で囁かれるのがとても気持ち良い。彩奈の甘い声に、脳がとろけそうになってしまう。

 

『きゅ〜、このカウントダウンが進めば進んでいくほどどんどんどんどん気持ち良くなります』

 

『は〜ち、気持ち良くなってきましたね。でもまだまだ浅いです。もっと深みへ堕ちていきましょう』

 

『な〜な、体から力がゆっくり、ゆっくり抜けていきます。手足に力が入らなくなり、プラーンとした状態になってしまいます』

 

『ろ〜く、あれ、目の前にいるのは誰だろう。そこにいるのはあなたが1番安心できて甘えられる人だ』

 

『ご〜、やっと折り返しだよ。お母さんもあなたのことをなでなでしてる』

 

『よ〜ん、とぉーーーーっても気持ちいい。ずっとここにいたい。ここ以外には居たくないよ〜』

 

『さ〜ん、今凄く気持ちいい、さらに下に行けばもっと気持ちいいものを味わえる」

 

『に〜、あまりの気持ちよさに、どんどんどんどん意識も薄れていきます。お母さんもあなたにもっともーっと気持ち良くなって欲しいと思ってる』

 

『い〜ち、あとは最後の数字を言うだけだよ。これを言うと、気持ち良すぎて頭の中が真っ白になっちゃう。真っ白になったら当たり前だけど、意識も無くなっちゃうよね?それじゃあいくよ?』

 

『ぜ〜ろっ!!』

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「…………かからないな」

「ど、どうしようどうしようどうしよう」

 

 催眠術の言葉を紡いでも、とってもエロかったというだけで昨日みたいに私の意識が途絶えると言うようなことは無かった。彩奈は何故か、焦っているのと困っているのを同時に顔に出しながら頭を抱えている。

 

 この反応を見てしまえば、誰でも分かる。昨日の催眠術からの異変は、きっと彩奈が原因なのだろう。だけど、今日彩奈はこうしてそれを解除しようとした。結果はまぁ失敗に終わった訳だけど、そうと分かってしまえばどうってことはない。

 

 このまま私が何事もなかったかのように接してれば良い。そうすれば誰も悲しまない。

 

 それが()()の役目な筈だ。

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