MAD(完結)   作:稗田之蛙

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 アンタ一体だれ?

 

 ……ふーん。

 この突飛な現象の状況理解に付き合ってくれる"お相手さん"ネ?

 ま、真っ赤なタグ付けをいっぱいしてんだから『耳心地良い、行儀の良いウマ娘チャンのオハナシ』なんて聞けると思わないでネ。

 オカエリはアチラ。チップはソッチ。とりあえず2000マニーくらいくれればワタシは助かるかな。お星さまなんて、洒落たモンはイラナイ。

 

 じゃ、はじめよっか。

 

 

 

 

 

 

 

 まず初めに。アタシ達は"双子"だった。それも単なる双子じゃない。ウマ娘サ。

 二人ともウマ娘として持って生まれた。お父さんやお母さんから、「お前は特別だ」っておチビの頃から言われてたきたヨ?

 そしてアタシも、そんな自分を誇りに思ってた。なんたってね、漫画でもよく言うジャン? 『双子は特別な存在』だから。

 デモネ。

 

「知ってる? 『双子のウマ娘は走らない』んだって!」

 六年生の始業式が終わった直後、クラスメイトの男児がゴールデンタイムのドラマか何かで覚えたのであろう故事を得意げにアタシ達に披露した時、その言葉の意味を理解した瞬間……生まれて初めて、他人の頬を本気で引っ叩いた。

「な、なにしてるのお姉ちゃん!?」

 イトシイイトシイ妹の声なんて聞こえても止まれなかったよ。だって、その時は怒り心頭ってヤツだったカラ。

「ふざけんナッッ!!!」

 いや、じゃれ合い以外で他人ぶん殴ったのがアレが唯一だよ。マジでマジで。お姉ちゃんだからさ。普段はやさしーんだ、アタシ。

 

 そっからはもう大喧嘩。取っ組み合って、殴りあって、泣き叫んで。

 先生達が止めに入ってくれなかったら、さすがに青あざ一つで済まなかったかもしれない。

「あんたらは! ウマ娘なんだぞ!?」

 ……結局、その後すぐにお互いの親が呼び出されて、担任教師や相手の親にこっぴどく叱られたけどサ。

 何を言われようが、謝らなかった。妹やお父さんお母さんはずっと謝りっぱなしだったけどね。

 

「どんな事があろうと。誰かを殴っちゃだめよ」

 帰りの車で、膝抱えて後部座席に乗ってるアタシにお母さんが言った。お父さんは運転に集中してるのか何も言わず、ただ黙って俯いていた。

「それは、ワタシがウマ娘だから? 不公平ダ」

「そうじゃないわ。ウマ娘の血が流れていようといまいと関係ない。人間でも、ウマ娘でも、それは同じ」

「違うヨ。同じなんかじゃない」

「どうしてそう思うの?」

「男子達が喧嘩した時と、私達ウマ娘がヒトを殴った時のオトナ達の怒り方、ぜんぜん違う。フコ~ヘ~」

 わざとらしく舌を出しておどけてみせた。……そうじゃないと、その時は悔しくて泣きそうだったカラ。

「いいえ。ウマ娘だろうと、人間だろうと同じよ。だって、殴られた人は痛かったでしょうから」

「…………」

「痛みを感じた事のある者にしか分からない事もあるのよ。あなたの気持ちも分かるけれど……やっぱり、暴力はいけないわ」

 お母さんの言葉を聞いて、言い返した。

「ジャ、侮辱するのはいいのかい? まるでヒトの事を"カタワ"みたいに――」

 

「カタワなんて言葉、絶対に使うな」

 

 お父さんはアタシの言葉を遮って、言った。普段は寡黙なお父さんのその言葉が重たくて、みんなしばらく黙った。

「……イヤ、ワタシがそう言われるのは、正直ゼンゼン構わない。これホント」

「だったらどうして殴ったりしたんだ?」

 ヘラヘラと嗤うワタシに対して、お父さんが詰問してくる。ま、当然だと思う。ケド、アンタも分かってんダロ。

「妹が馬鹿にされて、ムッチャクチャムカついた」

 そう答えたら、お父さんはハンドル握ったまま、赤信号を目の前に目を閉じてため息吐いてた。

「そうか……そうだな。確かにあの子の言い方はよくない言葉だ」

「デショ? ダッタラ、悪いのは妹をバカにしたあの子の――」

「だが、それ以外はお前が間違っている」

「……ハ?」

 意味が分からなくて聞き返したけど、お父さんはそのまま話を続けた。

「妹は、その男の子の事を殴ろうとしたか?」

「……」

「お前は妹を侮辱されて腹が立ってその男の子を殴った。そうだな?」

「……ソダケド」

 お父さんは、ワタシの隣で縮こまっている妹をじろりと見て。それからワタシの方を睨んだ。

「お前は、妹の名誉の為に怒ったのか? それとも自分の怒りを沈める為に殴ったのか?」

「……」

「答えろ」

「……」

 アタシは、答えなかった。答えられなかった。ただ黙って俯くしかできなかった。

 だってさ、答えは明白じゃん? 妹、言われた事に対してぜんぜん怒ってなかったんだもん。単に「シリアスなウマ娘スポ根モノでたまに使われる故事」とかいう感覚でさ。

 

 でもアタシはムカついた。それだけの話。

 

 そっからは、まぁ、お父さんとは全く話さなくなったさ。"ウマが合わない"ってヤツ? 元々、あんまり話さなかったケドサ。

 とにかく、そんな風になってからは家でも学校でもひたすら独り。妹やお母さんはしょっちゅー気にかけてきてくれたけど、気まずくて仕方なかった。

 学校の友人はアタシを腫れ物扱いした……ま、それは自業自得カナ? 力の強いウマ娘が他人に暴力をふるったなんてさ。耳に入れたくもない、痛ましい事件で……。

 

 ――うん。これじゃあ、ワタシの周囲の人達が悪者みたいな語りぶりだね。卑怯だ。訂正する。

 

 正確に言うよ。腫れ物扱いだったっていうのは。たぶん、その時期のワタシの自意識過剰。

 たぶん、クラスメイト達も先生達も、アタシが反省する素振りを見せてたら、ふつうに受け入れてくれたんだと思うヨ。

 なんたって、ヒトミミは、みょーにウマ娘に優しいカラネ? それに応えるように、ウマ娘もヒトミミに優しいヤツが多かった。

 ま、ガラ悪いヤツはアタシみたいにホント悪いけど。そりゃ、アウトロー。よくある例外ってヤツなんだろね。

 

 ……ともかく。

 この時はアタシは反省しなかったよ。自分が悪いなんて思いもしなかったからネ。たぶん、今もそう。

 ただ、何がどうあれ、そのまま小学校卒業まで誰とも仲良くなれなかったのは事実ダネ。

 

 で。

 

 ワタシ達双子の姉妹には昔から一つの夢があった。『中央トレセン学園に入学する事』。

 もっと正確にいえば、妹の夢は『クラシックティアラのいずれかの勝者になる事』……ま、可愛げのある夢じゃない?

「お姉ちゃん、菊花賞とか目指した方がいいと思うナァ。あれ、なんだっけ。一番運の良いヤツが勝つって……」

「ふふ、それはダービーだよ。お姉ちゃん」

「あー、ソッカ」

 妹はアタシと違って頭いいカラ。よく分かんないけど、何か色々調べてたみたいダヨ?

 ま、とにかく。それが当時のワタシが抱いていた夢だった。

 そんなワケで、二人仲良く受験したわけサ。『中央トレセン』ってヤツ。

「……ねぇ、お姉ちゃん」

「ン?」

 正門に続く長い坂道を歩いてる時、妹が立ち止まってワタシを呼び止めた。

「……あの、もし、私達……あるいはどちらかが入学出来なくても……私達……」

「ハァ、何いってんの? 二人とも受かるに決まってんジャン。アタシは同年代と比べてもバツギュンに脚早いし。アンタは頭がスゴクいい」

「え……で、でも」

「でもじゃないヨ。もし二人とも駄目なら。そん時は――キラキラな女子校にでも行く?」

「……うん」

 イトシイ妹はアタシの冗談を聞いて、くしゃっとした笑顔になった。ま、心配いらないって思ってたしネ。たぶん自信があったワケじゃナイけどサ。とにかくこの時はそう思ったんだヨ。

 

 オチが見えてる? ま、唯一のワライドコロだから聞いてよ。で、結果。

 

「……ナイ」 

 アタシは目を皿のようにして自分の受験番号を二回も三回も見直したけど、それでもやっぱり無かった。

「ナイ……ナイナイナイ!!」

 自分の受験番号を百回見直そうとしたけど、やっぱなかった。

「ない! ナイ!! ない!!! ナいッッッッ!!!!」

 周囲がドン引きするくらいの大声で嘆いた。あんまりにも悲しかったモンでさ。ホント、それだけ。別に期待してたワケじゃないケドサ……それでも……ね?

「……」

 妹はさ、そんなアタシを哀れむような目で見てたヨ。

「お姉ちゃん……」

「ナイ! ダメダッタ! ダメダッタカァア!」

 受験票握りしめて、その場でうずくまった。ま、そん時は「妹と一緒に女子校探すしかないかー」なんてまだ乾いた笑いを浮かべてたね。

「…………ごめん、私、受かった……」

 見事狭き中央の門を合格した妹は、笑うべきなのに顔がぜんぜん笑ってなかった。

 

 

 ま、そりゃそうダヨネ。

 あの、世間じゃ名門扱いの中央トレセン学園なんて、受からなくたって不思議じゃないくらいの感覚さ。

「……」

「……」

 お互いに口を噤んで、黙り込んで。しばらくそうやって向かい合ってたヨ。気まずいネ。

 妹は何か言いたげな顔だったけど、結局何も言わなかったし。

 そうこうしてるうちに、遠くから拍手が聞こえてきタ。どうやら合格者同士で祝ってたらしい。

「帰る」

「え……」

「アンタも、ガンバってネ」

 妹は無言で頷いた。たぶん、それはあの子なりの精一杯の返答だったんだと思う。

 

 

 そっからは、まぁ、私は酒瓶何本も空けた酔っ払いみたいに歩道橋の"手すりの部分"を綱渡りで渡ってた。

 片足でケンケン歩きして、曲芸師もかくや。ホースショーでやれば拍手喝采だったろうね。

 でも拍手なんて一つもないんだ。聞こえるのは橋の下の道路で車が通り抜けていく風切りの音。

 もちろん、「落ちて倒れたところに車が通ったら轢殺される」なんて考えてはあったよ。あるいは、カワイソウな狂人を演じてオトナたちの気を引きたかったのかもシレナイ。

「危ないですよ」

 ワタシはたぶんその声掛けを期待していたんだろうね。だから、声がした方を振り向いた。

「そこは、降りた方がよいです」

 まぁ、風体を見るにどこぞの事務員さんか何かだったのかな。整った身だしなみ。茶色に寄った綺麗な黒髪。端正な顔立ち。優しい声色。たぶん20代後半辺りか……年食ってるとしても30代前半といった年頃の女性。

 それが、ワタシがその人に抱いた第一印象。ま、その点についちゃ今も変わってないけどさ。

「ダイジョーブ。見ての通りウマ娘ダカラサ」

「危ないです。本当に」

「カガクノハッテンニギセイハツキモノデ~ス」

 ワタシは、本当に酔っ払ってたのかもしれない。それくらい、自分の身がどうでもよくなってた。

 

 まぁ、下半身から抱き上げられるようにして手すりから降ろされた。中学一年生間近のワタシを軽々と抱き上げるアイツは、今思えばウマ娘だったんだろうね。ウマミミ隠してたけど。

「ダイジョーブ。もう、ダイジョーブダカラ……成功率は30%……」

 ワタシは、自分が情けなくて戯言を言いながら泣いてた。

「……何があったかわかりませんが、間に合いますよ? 人生、これからです……」

「間に合わなイ。絶対、間に合わなイヨ……」

 結局さ、ワタシはトレセン学園の受験に失敗したんだ。何か特別な事情がない限り、だいたい人生で一度っきり。取り返しはつかナイ。

 ただ、幸いな事に。妹はスゴクいい学校に受かったんだ。名門校さ。まぁ、そのせいなのか……今に至っても『妹とワタシは違うん』だって……。

 

「……これを、どうぞ」

 泣きじゃくるワタシに、その人はアタッシュケースから取り出した"銀色の機械"を渡してきた。

「目覚まし時計? なに。あんた、親切ウーマンに見せかけたセールスマン? アタシ1マニーたりとももってないよ。残念ダッタネ」

 

「……違います。これは"未来を切り拓くための道具"です」

 

「ハ? ゲームやりすぎて頭狂ってんの? 今ドキ流行んないよそんな設定」

 ワタシが呆然としていると、その人は腕時計を見てから"銀色の機械"をワタシの手に握らせた。

「それでは。お元気で……また会いましょう」

 そう言って立ち去っていった。

 ワタシはしばらくの間、その銀色の機械を見つめていた。

「はんっ」

 ……それから、ワタシはそいつが渡した機械を歩道橋の下に叩きつけてやった。

「何が『また会いましょう』だヨ! バカにしやがって!」

 トレセン学園のすぐ近くだった事から、彼女はトレセン学園の事務員か何かだったのだろう。アタシを慰める為に備品に逸話をそれっぽくつけて渡しただけに過ぎない――その時はそう思った。

「みんなフザケやがって!!!!」

 まー、過不足なくオハナシするんだったら……涙ボロボロ流しながら泣き叫んでたね。『双子のウマ娘は走らない』っつー言葉通りだったからさ。

 

 

 ――他の、双子を持つウマ娘達の為に、ここでは誤解がないようにわざわざ忠告しておくよ。

 双子のウマ娘は、そりゃ一人よりも産む時に大変だって話は当然ある。赤チャン二人分の負担だからね。でもそこは人間と同じ。

 だからこその大昔――たぶん、出産っていうのがそれこそ命がけだった時代……今も……? まぁ、なんにしても――に、双子の死亡率が高かった事からまことしやか語られたであろう"風評被害"。

 まー、どっかの民間伝承にでもありそうな『双子は不吉』とかそういう類みたいな話さ。――たぶんね……。

 

 

 ともかく、そんな下らない話を鵜呑みにしたくなくってさ。

 何を思ってたのか、ワタシはトラックが歩道橋の下を通りかかるタイミングを見計らって。

 

 身を投げた。

 

 

 

 ま、気のいい話じゃないダロ? かわいそうに、かわいそうにね。カワイソウな双子のお姉ちゃん。

 

 そこで終わってれば、『悲劇のヒロイン気取りの構ってチャンの中身の無い物語』でオシマイ。聞いててなーんも面白くない、おひねりもお星さまの展望も見えない駄作。

 でも、まぁ……それでもワタシは、"アンタ"に状況整理を求めてる。

 

 とにかく、そこで死ななかった。――たぶん、おそらくは……。

 かといって、お涙頂戴ヨロシク病院行きになったワケでもなかった。

 ならば奇跡的に無傷だった?

 うん、まぁ、それが一番近いだろうね。

 

 

 

 

 

「知ってる? 『双子のウマ娘は走らない』んだって!」

 

 卒業したはずの小学校の教室。クラスメイトがワタシ達双子に対して『双子のウマ娘は走らない』という風評被害を悪意なしに、得意げに語っていた。

 そんな光景が、目の前にあったんだ。

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