……『貴女は現実と向き合うべき』?
うーん、ワタシの事はぶっちゃけもうどうでもいいんだけどさ――そうだね。ここまで聞いてくれたんだし――アンタが言うなら。
振り返ってみれば、そこに何かヒントを得られるかもしれない。あんまり振り返りたくないけどサ。
結局のところ、その時のワタシは『ワタシがエナーよりいい点とったら、文句ないんだね?』とかだいそれた事は言えなかった。
時間を巻き戻して、シコウしてみよう!
「……お前が合格すると思ってるのか?」
ワタシは、お父さんと向き合って話そうかと思ったけど――やめた。
「ちょっと……そんな言い方ないんじゃない……?」
……今だから言えるけどサ、初めてお父さんに対して心の底から怒ったんだヨ? 生真面目なヒトでさ、正直、怖かったし……。
「ワタシは、確かにエナーよりもゼンゼン、頭悪い。でも、他の子達よりずっと脚早いよ。それで、その、合格のできるわけがないって言いたいわけ? エナーと違って、受験料の無駄だから?」
「……すまない、言い方が悪かった」
お父さんは、今まで聞いた事がないくらい……そう、まるで懺悔するみたいな声でこう言ったんだ。
うん、分かってる。そういう、お父さんは不器用なヒトだって。だから、お父さんにはこの人生で一回たりとも殴ったりしてない。しようとも思わない。
お父さんの気持ちは分かってるつもりだったヨ。……でもさ、言い方があるジャン……?
「ただ、お前には……あまり無理をしてほしくない」
ワタシはそれに対して、何も言わなかった。あんなヤツ、知るもんか。それよりも向き合うべき事がアッタカラネ!
「……エナー。お姉ちゃん、やっぱり、トレセン学園の受験、しない……」
ワタシがそう言うと、妹はひどく驚いた顔をしたんだ。そりゃあそうサ。二人で頑張っていこう! って、今までずっと言ってたのに。
「え……どうして?」
妹は、不思議そうな目でこっちを見てたネ。そりゃそうだ。小学六年生に上がってから、ワタシの意見は二転三転してる。
――そういうもんじゃないかい? だってさ、人生の岐路なんだ。特に、ワタシ達ウマ娘にとっては重要な意味を持つ……アンタにとってもそうだったりしない?
「なんで、そんな事言うの……?」
妹は不思議そうにワタシを見てた。そりゃそうだよネ。だってさ、今までずっと頑張ってきたのにさ。こんな事を言われちゃ、そりゃそうなるよネー……。
「えっと……受験料とか……色々かかるシ……」
「なんで……お母さんや私はラウディーお姉ちゃんがトレセン学園に行くのは、大賛成だよ……? お父さんだって、お金の事なんて――」
「私だって……本当は一緒に行きたいよ」
「だったらなんで? お勉強だって、始業式の時からずっと頑張ってきたよね……『ワタシ達が双子は走らないなんて風評被害を払拭してみせる!』って……それに、模擬だって、可能性は、十分に……」
……頭がじくじくする。現実と向き合うのって辛いよね。
ネェ、この話面白い? ワタシの過去話って。つまんないでしょ。キラキラしたウマ娘のオハナシとかさ、そっちの方から聞かせてくんない? たくさん知ってんでしょ。
……まぁ、いいや。さっさと終わらせよう。
「……もし片方が落ちて、片方が受かったら……ううん、違うね……もっと正確に言うヨ。『もしエナーが合格して、私が不合格だったら』……私、立ち直れないと思う……」
「お姉ちゃん……」
お父さんの言う通りだと思った。彼と早々に向き合うべきだった。もっともっと早い段階から。でも、そうはならなかった。
……結局のところ、複数日かけて母親と妹から説得されて、受験はするだけ受験してみようかと思った。
これも一つの瑕疵だと思う。最初からさ、すっぱり諦めとけばさ、何のオチもない、一人のウマ娘がトレセン落ちただけっていうバカバカしい話が繰り広げる必要性もなかったのに。
いや、違うね。最初から諦めるなんて、それじゃ――うん――だめだったんだ。
妹は、ワタシが諦めた途端にトレセン学園を目指す事への意欲を極端になくしていた。
――だから、ワタシが、諦めて逃げたら――妹が、不合格になるなんて事は容易に予想がついてて……。
……双子ってさ。こういうところでダメだよね。
頼れる時は頼もしいけどさ、落ち込んじゃう時はホントだめ。お父さんだって、片方が落ちて片方が受かったら、両方立ち直れなくなるんだろうって予想はついてたんだろうね。
……うん。こういう事があるから、『双子は走らない』なんて憶測も生まれるんだと思う……。
あぁ、巻き戻してどう行動するかだってね。そういえば。
で。
結局、そうだね。
お母さんとキチンと話し合う事があったんだ。
「ディーさん。……本当にトレセン学園に行きたいの?」
今更なにを言ってるんだと思った。
「うん。行きたい! 当然でしょう! だってさ、『双子は走らない』なんて言われたんだよ? ワタシ、あれが悔しくって……それで、日本ダービー? 一番強いウマ娘が勝つヤツさ! その辺り勝ったらさ、きっとみんなもさ、『あの双子は走る』ってなるでしょ。そしたらきっと、もうワタシ達がバカにされる事もなくなるじゃん! だからさ、お母さん……」
「ディーさん」
お母さんの声は優しかったし、優しいだけだったと思う。
「……ナンデスカ?」
「よく考えなさい、そんな事しなくても、貴女は十分強いじゃない」
「……ナニヲイイタインデス……?」
――違う違う違う違う。これじゃあ巻き戻してやり直してる意味がない。
モット、コウ、快傑に展開を繰り広げるべきだ。さぁ、声を張り上げて。
「大丈夫! なんたって、勉強だって完璧で! 模擬も一番だったし! それにさ、日本ダービー! 一番運の良いウマ娘が勝つヤツ! あれに勝ったらさ、もう誰もワタシ達をバカになんかしないよ!」
「そうね。ディーさんなら、きっとトレセン学園に合格出来るわよね」
「ウン! ワタシならできる!」
馬鹿馬鹿しい。
「それに……日本ダービーに勝つのは大変よ? たくさん勉強して、模擬レースもいっぱいやって……それでも大変なのよ?」
「ウン! 分かってる! でもワタシってば、受験する選択肢しかないじゃん! なんたって双子のウマ娘デスモノ~♪」
やめてよ。マジで。ワタシにはわかってるからサ。やめてよ。そんな事言うの。
結局のところさ。
ワタシは安易な気持ちで受験に挑んだんだ。で、結局はさ。予想通りの結末に帰結する。
「エナー、ごめん、ごめんなさい……ごめ、……!!」
掲示板にワタシの番号が無いのを確信してからさ、ワタシ、地面に膝ついて、妹に怯えるようにひたすら泣いてた。
受験に落ちたから? 不甲斐ないお姉ちゃんを許してってー? うーん、なんでだろう。それは、なんか違う気がする。
なんでだろね。えぇっと――そうだ。考えの整理整頓しなきゃ。
……んっと、助言くれる? もう少しで、心の整理がつきそうなんだ。
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「ちゃんと、向き合うべきです」
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「辛いなら逃げてもいいんです」