ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
正面と右手側にエネルギー砲台、周囲をMT部隊が取り囲む窪地になっているそこは、SG部隊が想定した
その只中に、サーチライトを浴びながら悠然と立つ機影がある。
ネイビーブルーに塗装され、傷一つない中量二脚AC。HD-011 MELANDERの朴訥なヘッドパーツが動き、自身を取り囲む銃口と砲口、敵意を眇めた。
『このACは、まさかV.I……!? 歩哨部隊と砲台を突破してきたのか!? コード18、総員戦闘配備!』
まただ、と思う。
そりゃあ勿論、こんな仕事をするにあたって識別信号を垂れ流しにはしていないけれど、こうも騙されるものなのか?
……いや、そういえば、と思い出す。
自分が“レイヴン”の名を騙っているだけだった頃、惑星封鎖機構が「別人がライセンスを偽っている」ということに気付いたのは、もっと後の話だ。何度も会敵した後に、精鋭たる特務部隊のパイロットがようやく気付いたのだった。
あの時とは少しばかり状況が違うが、要は、人間は一度思い込むと中々そこから抜け出せないということなのだろう。
『コード31C、被害甚大!』
ぼんやりと思考を回しながら、作業のようにSG部隊と砲台を破壊して回る。
火力、移動力、装甲、どれを取ってもぱっとしない機体構成だが──明確な弱点もまた存在しない。
乗ってみて分かったが、これはこれで悪くないアセンブルだ。
ACに乗ることそのものが、強敵と戦うことそのものが楽しいというのなら、アセンブルに拘りがないのも頷ける。
如何に効率的に敵を殺すか、如何に素早く敵を殺して被弾を減らすかばかり考えていて、つい忘れかけていたが──そうだった。
パンチと複合チェーンソーで敵に何もさせずに削り殺すのも、Wショットガンとパイルバンカーで敵APを吹っ飛ばすのも悪くはないが──殺戮ばかりでは飽いてしまう。偶には「戦って」見るのも悪くない。
『笑っているのか、621。……感情が戻ってきたようだな』
飼い主の言葉が頭蓋の中を滑っていく。
笑っている? 自分が? コーラルで脳を焼かれ、戦闘機能以外の全てを排除された自分が?
──あぁ、ならばそれは、この胸の昂ぶりは戦闘に必要な機能なのだろう。
『こいつ、戦いを楽しんでやがる……! やはりV.I!?』
『落ち着け! シミュレータと微妙に戦形が違う、別人だ!』
『V.Iのシミュレータなんてやってねえよクソ!』
焦りから統率を欠いたMTが、ドローンと、バズーカと、ライフル弾によって破壊される。
ロックオン警告を聞くまでもなくQBを噴いて機体を急転身させると、残像も残らない虚空を敵レーザーが虚しく駆け抜けた。
『コード44! V.Iの情報を至急……クソ、通信妨害か!』
『コード5、戦闘ログを送信! こいつ、V.Iじゃ──』
混乱に塗れた通信は爆音に呑み込まれ、そして、星夜の下に静寂が戻る。
惑星封鎖機構がウォッチポイント防衛のために配置したキルゾーンは、暴れ狂う猟犬──否、はしゃぎ回る駄犬一匹に踏み荒らされて壊滅した。
『……思ったよりも視覚的欺瞞が効いているようだな。夜襲と通信封鎖が上手く噛み合ったらしい。これを見越していたのか、621?』
そんなことはない。
これは単に、確かめてみたかった──やってみたかっただけだ。
そう答えると、通信越しのハンドラーの声に、また僅かばかりの喜色が宿った。
『……好奇心が出てきたのか。良い兆候だ。だがその感情は時に身を滅ぼす毒にもなる。気を付けろ』
肯定を返し、またABを噴かして構造物の壁を乗り越える。
遠くに見える灰色の建物、目標地点のウォッチポイントへ一直線に飛翔する。漸くだと、待ち焦がれた瞬間を強く想いながら一心に駆け抜け──。
『ウォッチポイントを襲撃するとは、相変わらずだな、ハンドラー・ウォルター』
煮詰められた悪意の籠った声に、立ち止まらざるを得なかった。