ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
独立傭兵スッラを打倒した後、ウォルターの指示に従ってウォッチポイント制御センター内部へと侵入する。
巨大な槽のような空間を降りていくと、最下部に目標物であるセンシングバルブがあった。
『それだ、破壊しろ。621』
ACを上回る巨大構造物にブーストキックをぶちかまし、バルブを保護する外装を破壊する。重ねて何度かキックを叩き込むと、バルブは火花を散らしてバラバラになった。
槽状空間の内壁に浮かんでいた機械的な光が薄れ、消える。センシングバルブが破壊されたことでウォッチポイントとしての機能、コーラル潮位の監視・管理機能が無くなったのだろう。
そして──期待通り/不意に、周囲の地面が赤く染まる。
槽底部の部品の隙間から染み出す、鮮やかで、どこか神秘的な輝きを放つ赤い粒子──コーラル。
『まずい、退避しろ、621!』
焦燥に満ちた警告も虚しく、LOADER4は噴出したコーラルの奔流に巻き込まれた。
真っ暗に染まった意識の中、心中を埋め尽くすほどの激情を齎す“声”が届く。
どこか困惑したような、驚いたような“彼女”の声が、耳朶を打つことなく脳に染み入る。
『あなたは……? 第四世代、旧型の強化人間……』
大きな歓喜と、同じくらい大きな落胆が心中に吹き荒れる。
世界は美しいが残酷だと、柄にもなく叫びたい気分だ。
『あなたには、私の「交信」が届いているのですね。……私は、ルビコニアンのエア』
彼女──エアとはこれが初めての邂逅であると認識している主観と、もう一つ。何度も何度もこの邂逅を繰り返していると主張する主観もまた、同じくらい強固だ。
幾度となく彼女に導かれて戦場を駆け抜け、幾度となく彼女のために戦い、そして幾度となく彼女を殺して星を焼いた。
その記憶が、確信を持てるほどに強固な記憶がある。
『目覚めてください。貴方の自己意識が、コーラルの流れに散逸する、その前に』
幾度となく聞いた声に導かれ、目を開ける。
ディスプレイに映るのは暗い夜空と、ウォッチポイント制御センターのだだっ広い屋上だ。
COMの無機質な機械音声が主人の帰還を無感動に告げる。
『強化人間C4-621、生体反応を確認。オートパイロットを解除、ハンドラーへの通信を接──』
軽い耳鳴りの後、“声”が届く。
COMの機械音声でも、歓喜と興奮を齎す飼い主の声でもない、しかし特別な声だ。
『レイヴン、敵性機体の接近を……? 失礼しました、私の疑問は後回しで結構です。敵機は惑星封鎖機構の無人機体、バルテウス。ダメージを与えるには、展開しているパルスシールドを剥がす必要があります』
どうしたのかと、遠方から飛来する巨大な機影を眺めながら問いかける。
汎用MTに巨大なブースターとミサイルユニットを大増設した防衛兵器、バルテウス。ぼーっと突っ立っていたらミサイルの弾幕に押し潰されること必至だが、問題ない。
彼女は『戦闘モード再起動』と言った。
ならば自分は──LOADER4は、戦える。
そして戦えるのなら、バルテウス程度、敵にはならない。
『いえ、今は眼前の敵に集中を……。……、』
不要だ。
バルテウスとは散々遊んだ。攻撃も動きも何もかも知っている。
そんなことより、エアと言葉を交わすことの方が何百倍も大切だし、なにより自分がそうしたい。
そう告げると、エアは感情の読めない溜息を吐いて暫く考え込む。
ややあって返された答えは“是”、肯定だった。
『……分かりました。では、一つ質問をさせてください』
肯定を返すが、エアは暫く沈黙していた。
言葉を選ぶのに時間を要したのか、或いは別種の沈黙なのか、それは分からない。
しかし、黙考の末に投げられた問いは、これまでのどの記憶にもないものだった。
『──あなたは、以前から私のことを知っていたのですか?』