ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
質問の内容を理解した瞬間、思考が停止するほどの衝撃に襲われた。
半ば無意識に機体を操縦し、バルテウスの多重ミサイル砲撃を躱していたのはやはり“慣れ”だ。
敵を前に慣れに任せた適当な操縦をするほど、彼女の──エアの言葉は衝撃的だった。
『私はあなたの脳深部コーラル管理デバイスを通じて、あなたの脳波と同期しています』
絶句するほどの驚愕を察したか、或いは単にこれが初めての会話だからか、大前提を説明してくれる。
確かに初めての時には通信デバイスを介さないどころか、鼓膜さえ介さず聞こえる“声”に大層驚いたし、ハンドラーに「幻聴が聞こえる」と相談までした。
だが、今や彼女の声は聞こえて当たり前──聞こえないと寂しいほどだ。死んだ心で寂寥なんて抱きようがないと思っていたというのに。
声は続く。
『勿論、私はあなたのスタンダードを知りません。ですから、的外れなことを言っているかもしれませんが──レイヴン、貴方は私と会話するとき、少し寂しそうにしていませんか?』
そんなはずはないと頭を振る。
エアと出会えたことを喜んでいるというのなら分かるし、脳波が歓喜の形に揺らいでいるなら納得できる。
だが寂寥となると──いや、心当たりは、ある。
過去、彼女と過ごした時間を。彼女と共に駆け抜けた戦場を、闘争を、彼女がまるで覚えていないのは確かに悲しい。
その悲哀が寂寥感に由来するというのなら、きっとそうだ。
自分に起こった異常を、彼女とも共有していたかった。
だが──もしかしたら、今からでも共有できるかもしれない。
『記憶を読み取ってほしい、ですか? ……残念ですが、それは不可能です、レイヴン。記憶は脳波を解析すれば映像情報化できるような、単純なものではありません。相手がデータ形式で映像を保存する記憶媒体であれば、侵入・解析してみせますが』
可能性が一つ潰えた。
そりゃあそうか。
でなければ、彼女は自分を「レイヴン」とは呼ばなかった──自分が「レイヴン」などではないことを、封鎖機構より先に看破していただろう。
だが、まだ手はある。
『脳深部コーラル管理デバイスの
──いや、そんなはずはない。
技研都市を突破しアイビスシリーズを撃破する『集積コーラル到達』は勿論のこと、『ザイレム撃墜』、『封鎖衛星阻止』、そして『コーラルリリース』に至るまで、全てのミッションでSランクを取った。
オールマインドに貰った“PERFECT MERCENARY”のエンブレムだってある。使ってはいないが。
だが、エアが嘘を吐くはずもない。
ならば現時点で見られる
……仕方がない。
少なくとも今は、エアを信じさせるだけの材料を提示できない。何か未来でも予言すれば信じてくれるかもしれないが、ぱっと思いつくものはない。
バルテウスの動き……は、根拠としては薄いか。所詮は無人機、行動は予めプログラムされたパターンの組み合わせだ。それを言い当てるのは予言ではなく、予測だろう。
企業人──戦友や、あのいけ好かないV.II辺りなら、立て板に水に滔々とプレゼンして信頼を勝ち得るのかもしれないけれど、野良犬に過ぎない自分には無理だ。
がっくりと項垂れ、八つ当たり気味にレーザーブレードを振るってバルテウスのAPを半分以下に削る。
パルスシールド再展開時の衝撃に巻き込まれないようエアの警告と同時にQBを噴いて距離を取り、彼女に思うままを告げた。
荒唐無稽な話になるし、信頼させるだけの証拠も無い。忘れてくれと。
しかし彼女は神妙な溜息を吐き、否定を返した。
『……いいえ、レイヴン。私はどういうわけか、貴方のことを信じられると確信しています。貴方が私に嘘を吐くはずがない、私と敵対する時には、きっとそう告げてくれる……そんな確信があるのです。ですから、私は貴方を信じます』
言われて、自分でも思い出す。
確かに、だ。
確かに彼女と敵対し、『企業勢力迎撃』のミッションを選ぶとき、それを隠そうとはしなかった。
ならば、なるほど、彼女の推察は正しい。
『教えてください、レイヴン。貴方の知っていることを。貴方の望みを。私は貴方がそれを叶えられるよう、全力でサポートします』