ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
特に更新頻度とか! 考察の甘さとか!
強化人間C4-621とその機体LOADER4は、べリウス南部汚染市街のとあるビルの屋上から、遠くに見える輸送ヘリとテスターACを見下ろしていた。
天候は曇天だが足元には雨水と工業廃水の混ざり合った汚水が溜まり、グリップに多少の問題がある。重量二脚であれば何の障害にもならないが、いま装備している重量逆関節脚部では多少気を払わねばならないだろう。
何かの作業をしているテスターACを見ながら、621は何かがおかしい、と考える。
ハンガーで不具合を起こして以降、妙な感覚に襲われ続けている。
ルビコン解放戦線の移動型砲台を潰し、グリッド135の大豊核心工業集団のMT部隊を掃討し、解放戦線の輸送ヘリを全滅させ──どの仕事をこなしていても、妙な既知感がある。
自分はたった数日前にこの惑星、ルビコン3へと投入されたばかりだというのに、周囲の地形を完全に把握できているばかりか、敵の位置、武装、行動パターンまで完璧に理解できている。
そして──
『目標を補足した。621、仕掛ける好機だ』
ハンドラーの声を聞くだけで、心が少しだけ軽くなる。嬉しい、というのだろうか。
強化人間の中にはハンドラーへ忠誠を尽くすよう洗脳された個体や、それを好意や愛情であると錯覚する個体もいると聞いたことがあるが、自分は脳をコーラルで焼かれ、戦闘機能以外はすべて排した人形だ。忠誠心さえありはしない、ただ命令に従うだけの機械。
──そういえば、この話は誰に聞いたのだったか。
ハンドラーではない。この惑星に降りて以降、そんな話をした記憶はない。
『……どうした、621?』
なんでもないと応じ、ありもしない記憶の走査を中断する。
テスターとはいえACだ。これまで相手してきたMTとは基礎性能からして違う。油断していい相手ではない。
……そう教わったはずだが、ではどうして自分の機体は殆ど非武装なのだろうか。
武器らしい武器がないどころか、左手以外、右手と両肩は
舐め腐っているとしか思えない装備状況だが、しかし、焼かれた脳に慢心や油断なんて高等な機能は残されていない。
そして戦闘機械、殺戮臓器の戦術眼は『これで十分』と判断している。
背面ブースター展開と同時にヘッドパーツのシェードを装着、
無線から聞こえるのは聞き慣れた/知らない、年若い青年の声だ。
先手を取ってブーストキックを喰らわせ──パンチ。武器を何も持っていない右手による、純然たるパンチ。からのパンチ。もう一度パンチ。
巨大な重機械同士の激突だ。音と衝撃こそ凄まじいものだが、絵面はなんとも地味だ。
思考にノイズが走る。
強化人間C4-621と関係がある人物は、ハンドラー・ウォルターと調整担当の医者だけだ。どちらも、想うだけで心が安らぐほど親密な女性ではない。今はいない彼女、なんて想う相手ではない。
そんなことを考えている間に、テスターACのACSが負荷限界を迎える。
被弾時の自動姿勢制御によるダメージコントロールが出来なくなった状態だ。
『──直撃を狙え、621』
エンジンが咆哮し、対のチェーンソーが駆動する。
金属が悲鳴を上げながら削れ、抉れ、弾け──テスターACの、絶対不可侵でなければならない部分を削ぎ落した。
『俺も……コールサインが、欲しかっ──』
テスターACが爆発し、輸送にアサインされた訓練生の今際の言葉を掻き消した。
感慨を抱く機能は、コーラルに焼かれているのだから。