ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
『621、仕事だ。ベイラム本社の作戦に参加する。ブリーフィングを確認しろ』
飼い主に言われるがまま、回線を繋ぐ。
視界に表示されるのはベイラム・インダストリーと、その専属AC部隊レッドガンのエンブレムだ。
『ウォルターから話は聞いているな!? では作戦内容を説明する。一字一句聞き漏らすな!』
レッドガン総長──部隊指揮官、
聞き覚えなんてない、これが初対面のはずの彼の声もまた、あるはずもない寂寥を呼び起こした。
知っている/知っているはずがない内容が語られる。
依頼内容はルビコン解放戦線の治水拠点、ガリア多重ダムの襲撃とインフラの破壊。
この作戦を任されるのはレッドガン部隊の二人、G4ヴォルタ、G5イグアス。
自分は臨時の補充以下、戦力になるならそれでいいし、無駄死にするならそれでもいい、二束三文のおまけだ。
そして、部隊の指揮を執るのはミシガン。彼は現場には出て来ないが、状況を随時監視している。
彼は50名以上もの部下──ナンバリングのコールサインを持たないAC随伴のMT要員に至るまで、全員の名前や特技を把握している、素晴らしい指揮官だ。死するその時、いや死して尚も仲間たちを思い続ける。自らに懸賞金を懸け、古巣ファーロンの仲間が受け取れるように取り計らっているのだ。
思い出す。あるはずのない未来の記憶を。
自分が彼の乗機ライガーテイルをパイルバンカーで貫いた後、彼は今わの際にこう言い遺す。
──ミシガンは転んで死んだ。伝記にはそう書いておけ。
ベイラム本社、レッドガンの残党、古巣のファーロン。彼らが仇討ちなど考えないように。
彼の仲間を守るために──“仲間”の内に、最後まで自分を入れてくれて。
『おまけである貴様には一昨日空きが出たラッキーナンバー、G13を貸与する。G13、復唱!!』
発話機能の排された身で復唱もクソもあったものではないが、脳波による交信デバイスを通じて律儀に復唱する。
ミシガンが交信データを音声再生しなければ、ただの文字列として表示されているだろうが──彼は獰猛な笑みを浮かべたようで、声を僅かに昂らせた。
『復唱したな! では準備を始めろ! 愉快な遠足の始まりだ!』
通信が切れる。
その直後、別の通信が入った。
視界に表示されるのは、見慣れた/徐々に見慣れつつある飼い主のエンブレム。
『G13か。名前が増えたな、621』
いつもの低い、落ち着いた声。
ほんの僅かに喜色が滲んだように感じたのは、コーラル漬けになった脳の誤作動だろうか。
そんな思考は、強化人間の戦闘本能が一瞬で塗り潰す。
それよりもっと優先して思考すべき命題があると。
この任務中、ルビコン解放戦線は自分にベイラム提示報酬の二倍の金額を積み、寝返らせようとする。
その取引に応じた場合、自分はルビコン解放戦線のMT部隊ではなく、レッドガンの二人を相手取ることになるのだが──この二人、滅法強い。ミシガン曰く並のMTの100倍は強い。
先のことを考えるなら取引に乗るべきなのだが、戦術眼が「面倒な相手と戦うことになる」と警鐘を鳴らす。
ただ任務をこなし、ただ生きるだけなら、レッドガンの“遠足”に従っていればいい。
けれど──それは駄目だ。
この依頼は、分岐点だ。
これから先の何もかもが、この依頼を切っ掛けにして変化していく。
確信がある、なんて甘い話ではない。
既知なのだ。チンピラの如くガラの悪い、しかし仲間思いなタッグの強さも。
これを発端として舞い込む、ある遠大な計画にまつわる依頼のことも。
大量のノコギリ車輪に囲まれて機体が削れる感覚も、“彼女”の悲しみを共有できないふりをしながら“彼女”の同胞を焼いたことも、“父”を欺いて敵となったことも。
虚ろなはずの胸に去来する様々な感情は、どれも錯覚のはずだ。
この、実感を伴う知識の数々も、全て。
けれど、確かなことが二つある。
一つ。自分はG13であること。
そして──自分は、“レイヴン”だ。
常にそう呼んでくれた“彼女”は、まだ居ないけれど──再会/初対面のとき、その名に恥じないように在りたいから。
自由意思の下に、選択する。