ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
ガリア多重ダム。
凍てついた水面とコンクリートの壁が寒々しい無機質さを醸し出すそこに、三機のACが投入された。
一つはG4ヴォルタの駆るタンクACキャノンヘッド。
一つはG5イグアスの駆る中量二脚ACヘッドブリンガー。
一つは自分、強化人間C4-621の乗機LOADER4。
両手に
誉は手術台で死にました。強化人間にそんなものは残っていません。
『これよりベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによる作戦行動を開始する。突入しろ、役立たず共!!』
ミシガンの怒声に弾かれたように僚機二つがABを吹かして飛翔する。頭部パーツのシェードを展開し、その後に続くと、すぐに敵の姿が見えてきた。
ダムの入り口にはMTと装甲車両による防衛線が張られており、ただの機甲部隊なら返り討ちにできそうな布陣だ。
だが、AC相手では木端に等しい。武器を使うまでも無く、ブーストキックだけで容易に駆逐できる。
楽しいなんて感情は端から持ちようがないものの、戦闘本能に基づく危機感さえ抱きようのない作業のような殲滅をしていると、通信回線が開く独特のノイズが走った。
視界の端に映るのは、クワガタの頭部を運ぶアリの群れが描かれたエンブレム。そしてG5イグアスという表示。
『独立傭兵かよ。野良犬の世話をしろってのか、レッドガンも舐められたもんだ』
『関係ねぇ。俺たちで終わらせればいい』
侮蔑の色を隠そうともせず、明らかにこちらを挑発する目的の通信が届く。
続く獰猛な声の主は、もう一人の僚機G4ヴォルタだ。
二人とも自分同様に退屈なのだろう。
同情なんて高尚な機能が残っていない脳で、淡々とそう考える。
『よう、野良犬。お前のような木っ端は知らんだろうがな、俺たちレッドガンは「壁越え」にアサインされている。こんな仕事はただの慣らしだ。終わったら土着共の要塞を落としにかかるのよ』
知っている。
「壁」と呼ばれる、ルビコン解放戦線の防衛拠点がある。
元は交易上の要衝だった巨大な、文字通り壁のような建築物だ。解放戦線はそこに多数の砲台、MT部隊、そして重装機動砲台“ジャガーノート”を配備して企業と戦っているのだ。
そして、ベイラムは「壁越え」に失敗することをも、知っている。
G4ヴォルタは戦死。ベイラム麾下部隊も壊滅。壁越えはルビコンに駐留するもう一つの有力企業、アーキバスが達成するのだ。
だが──自分はもう、“選択”した。
自由意思の選択者、“レイヴン”の名に恥じぬように──いつだって自分をそう呼んでくれる“彼女”に誇れるように、自らの選択を貫き通す。
尤も、恥じる、誇るなんて戦闘に不必要な機能は、自分の中には残っていないのだけれど。
そして強化人間C4-621は飼い主に通信を繋いだ。
◇
戦場の喧騒から少しだけ離れた飼い主たちは、兵士たちに聞かれない専用の回線を開く。
『ミシガン。621──いや、俺から一つ提案がある』
『作戦中に無駄話とは、らしくないな、ハンドラー・ウォルター。猟犬の手綱は握っていなくていいのか?』
言いつつ、ミシガンはウォルターの目が戦闘監督用デバイスから一瞬たりとも離れていないことを知っている。自分同様に。
だがミシガンは二人分の機体状況や乗員のバイタルを監視しつつ戦況判断もしなければならないのに対して、ウォルターが監督するのは一人だけだ。
お互い、多いときは五人や六人を同時に指揮するポテンシャルがあることを知っているから、彼の言葉はただの返事、或いは軽口だった。
『手綱は常に握っている。それより、本題に入らせてもらうぞ』
特に意味のない一言にも答える律義さに口角を吊り上げながら、ミシガンは無言で先を促す。
ハンドラー・ウォルターの指揮能力、そして子飼いの傭兵の強さは十分に知っている。
個人的な付き合いもあって、ミシガンは彼に一目以上のものを置いている。高く買っている。そんな男が作戦中に「提案がある」なんて言ってきたら、興味を持ってしまうのも無理はない。
『この作戦で621が強さを示したら、お前たちレッドガンの“壁越え”に参加させてもらいたい』
『──なに?』
ガリア多重ダムの防衛線は固定砲台とMT部隊。「壁」の防衛線とよく似た編成ではあるものの、やはり本物の「壁」とは密度が違う。
率直に言って、簡単な作戦だ。イグアスが言っていた通り、「慣らし」程度にしかならないだろう。いくら過去のウォルターの猟犬が精鋭揃いであり、彼の目利きに一定の信頼があるとしても、こんな作戦で「壁越え」に十分な力があるとは断定できない。
それに、ミシガン自ら厳しい訓練を課し徹底的に鍛え上げているレッドガンのメンバーでさえ、「壁越え」にはまだ早いというのが正直なところだ。
あのウォルターが──強化人間を使い潰すことに心を痛めるハンドラーに不向きな男が、それほど危険な作戦に猟犬を投入するということは、強さはあるのだろう。
だがこの作戦でそれを示すことは出来ない。
そこまで考えて、ミシガンの脳裏に電流の如き閃きが走った。
『……ウォルター。貴様』
『あぁ。621はルビコン解放戦線の依頼を受けた。あいつから伝言がある。──“愉快な遠足の始まりだ”だそうだ』
ミシガンが麾下の二人へ飛ばした警告は、飛来した大量のミサイルがキャノンヘッドに殺到するのと同時だった。