ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき 作:ルビコニアンソルトピラー
『クソが……汚ねぇ戦い方しやがって……』
ACヘッドブリンガーのHUDに大量に明滅する警告表示を睨みつけながら、G5イグアスは舌打ちを漏らす。
こちらの攻撃を余裕をもって回避できる距離を保ち続け、大量のミサイルをばら撒くAC、タンク型のLOADER4。
どんな面のクソッタレが乗っているのかは知らないし興味もないが、戦い方はなんとも気に食わない。
こちらは雨のように飛来するミサイルを避けながら、どうにか近づいて有効打を叩き込む方法を考え、そして実行しなくてはならない。それに対して、相手は一定の距離を保ちつつ、両手と両肩武器の再装填が終わり次第トリガーを引いて、あとは適当に距離を取っていればいいだけだ。
裏切りと不意討ちというだけで好感度は底値だが、クソみたいな戦い方をされて嫌悪感も倍増だ。
加えて、無線から響く大音量の怒声も苛立ちを増す要因だった。
『G5! 戦い方の清濁を論じるのは負け犬のやることだ! 勝った後の捨て台詞なら別だがな!』
喧しいと吼え返してやりたいところだが、相手のミサイルは片手に13門、片肩に12門、片腕だけで25門もある。
無駄口を叩く余裕はない。
一発や二発喰らったところで即座にどうにかなるほどACの装甲はヤワではないが、爆発系武器は
一発や二発と侮っていたらあっという間にACSが処理限界を迎え、無防備になったところに50発のミサイルを叩き込まれる。
それは分かっていた。
だが、イグアスは侮っていた。
相手の武装をではなく、相手そのものを。たかが野良犬、毎日地獄のような訓練を受けている自分とは違う雑魚だと。
四方八方をコーラルオービットに取り囲まれ、有人機では有り得ないインチキ臭い高機動と常時飛行状態を併せ持つインチキ臭い機体とタイマンを張って、遂には近接武器一個だけで倒し切るに至る、それこそ地獄のような経験を知っているとは、まさか思えるはずもないのだけれど。
ミサイルの弾雨を目隠しに、ABを噴かしたLOADER4が急速接近する。
だが相手はミサイルタンク。近距離武器もなく、ヘッドブリンガーのAPはキックやタックル程度では削り切れない程度には残っている。ACS負荷は蓄積しているが、こちらも一撃で負荷限界に至るほどではない。
馬鹿か、と思ったのは一瞬。
ACS負荷を一瞬で増大させる方法は、あるにはある。
だがミシガンもヴォルタも使わない武装で、経験ではなく知識としてしか知らなかった。故に一瞬だけ、判断が遅れた。
LOADER4の背部ユニットが展開され、機体を中心に青白い光が爆発する。
全速力で後退操作をしたイグアスだが、その範囲からはギリギリ逃れられなかった。
弾丸を消し去るほどのパルス爆発、コア拡張『アサルトアーマー』。その強烈な衝撃はヘッドブリンガーのACSを処理限界へ至らしめた。
『クソッ、避け損なったか……!? 野良犬如きが……!』
イグアスが吼える。
直後、ACヘッドブリンガーは50発のミサイル群に呑み込まれて戦闘限界を迎えた。
『イグアス! 格下ナンバーにやられたぞ! 数学は出来るか? 相手は幾つ下だ!? 貴様はいつまでその番号をしゃぶっているつもりだ!?』
怒声を飛ばすミシガン。
イグアスはチンピラ同然だが、その反骨心──根性の強さは部隊随一と見込んでいる。それ故の期待が、彼の檄の強さに現れていた。
『こいつ、戦い方は確かに汚ねえが、そもそも動きがタダモンじゃねぇ……! ミシガンの野郎、何を拾ってきやがった……!?』
ヴォルタが慄いたように呟く。
僚機を落とされる間、彼とて棒立ちだったわけではない。イグアスと連携して、金で寝返ったクソ野郎をブチ殺す気で戦っていた。
なのに、まだ落ちていないどころか、数的有利だったこちらが一機落とされた。その事実は素直に驚愕に値する。
LOADER4が再びヘッドパーツのシェードを展開し、ABを噴かす。
残りは一機、G4ヴォルタのタンクACキャノンヘッドだけだ。
中遠距離武器に特化したタンク同士の争いは、装甲の厚さ、回避の巧さ、そして総火力で決まる。
装甲ではキャノンヘッド。火力は僅かにLOADER4。そして回避能力ではLOADER4──否、強化人間C4-621が圧倒的だった。
『チッ、機体がイカレやがったか……! 脱出するしかねぇ!』
『お前の性能もイカレたか、ヴォルタ! 「おまけ」に土を付けられるとはな!』
二人が戻ったらみっちり鍛えてやるというミシガンの声に出さない内心は、どういうわけか全員に伝わった。
『G4およびG5二名の排除を確認。ミシガン、機体の修理費は俺に回しておけ。……それから、621、お前の言っていた件、話を付けておいたぞ』
◇
ガリア多重ダム襲撃──もとい、レッドガン部隊二名の排除を終えてハンガーに戻ったLOADER4の中で、強化人間C4-621は未だコクピットから出ていなかった。
じっと見つめるディスプレイの端に、見慣れたエンブレムが表示される。数多の手綱を引く腕の図柄、ハンドラー・ウォルターだ。
『……621。さっきから戦闘ログを執拗に見返しているようだが、何か気になることでもあるのか?』
単純化、そして戦闘用に最適化された思考に基づき、肯定と質問を返す。
『脱出ポッドの射出位置? ……お前が所有しているパーツと同じはずだ。塗装や多少の外装は替えられても、コアの基幹部分、とりわけ取り外しや加工を想定していないパーツを弄るのは無理がある。設計段階からの組み直しになるからな』
道理だと頷く。
だが、脱出ポッドは使ったことがない。一度もだ。これまでの仕事でも、
アリーナで検証すべきかと頭の片隅で考えながら、もう少しだけ飼い主に──“父”に甘える。
『量産MTの設計図だな。すぐに手配する。……まだあるのか。いや、遠慮はするな。仕事のやり方はお前に任せるし、必要な支援は惜しまない』
言い終えて通信を切ろうとするハンドラーに感謝の言葉を伝える。
“父”と言い添えたのは、ハンドラーには聞こえなかったようだ。