ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき   作:ルビコニアンソルトピラー

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 『左手ショットガン、残弾75%。右肩ショットガン、残弾80%。残りAP90%、リペアキット残数3。順調なようだな、621』

 

 そりゃあそうだ。

 前線部隊を単身で殲滅したAC、そして『レイヴン』の情報は、既にルビコン解放戦線「壁」防衛部隊の中に広まっている。

 

 こちらを認識した瞬間に脱出レバーを引く奴、攻撃せず回避に徹する奴、命乞いの通信を飛ばしてくる奴。そんなのばかりだ。

 

 尤も、根性を見せて攻撃してきたところで、所詮は雑兵のMT。ショットガン一発で片が付く。

 

 こんな連中を相手に順調に事を運べないようなら、とっくのとうに死んでいる。──これがルビコン3を訪れて以来、最も厳しく大掛かりな作戦のはずなのだけれど。

 

 『市街地の方はアーキバス部隊が順調に侵攻している。解放戦線はお前を仕留めようと、市街地の部隊を配置から動かしていたようだな。伏撃ではなく移動陣形になっていたところをV.IVが刈り取ったようだ』

 

 流石だと口の中で転がし、視界に映る灰色の鉄塊を見つめる。

 AC数機分の巨大な鉄塊だ。しかも高速で動くし、ランチャーだの機銃だのを撃ってくる。

 

 『お前の方も会敵したな。それが重装機動砲台“ジャガーノート”だ』

 

 雪煙を立て、稜線を越えてやってくる鉄の塊。

 背面のロケットブースターを吹かし、雪と泥を蹴立てながら突撃するその速度は、あれほどの巨体でありながらACのABにも匹敵する。

 

 そして速度が同じなら、重量が桁違いである以上、威力もそれだけ勝る。いくらACが頑強とはいえ、まともに正面衝突すればスクラップだ。

 

 だが、この世に完璧な防御など存在しない。

 前面装甲はほぼ全ての攻撃をシャットアウトするほど堅牢だが、構造上装甲で覆えない部分がある。

 

 背面──あれほどの質量を突き動かすブースターは、勿論、装甲で覆うことが出来ない。弱点はそこだ。

 そして図体がデカいだけあって、ブースターも巨大だ。背面はほぼがら空きと言っていい。

 

 EZPG。

 張りぼてにも程がある。

 

 そういえば初めから一人なのは初めてだ。

 いや、ジャガーノートとの対面自体、これが初めてなのだけれど。

 

 そんなことを考えていると、視界の端に警告表示が瞬き、ハンドラーから通信が入る。

 ロックオン警告ではない。機体接近──友軍の接近を示し、誤射を防ぐためのアラートだ。

 

 『621、そちらに接近する機体がある。この識別信号は──』

 

 HUDに映る識別信号は──キャノンヘッド/G4ヴォルタ。そしてヘッドブリンガー/G5イグアス。

 

 通信が繋がり、見慣れた──本当にここ数日ですっかり見慣れたエンブレムが二つ、表示された。

 

 『クソみてぇな不意打ちで勝った気になってんじゃねぇぞ、野良犬。「壁」を越えるのは俺たちレッドガンだ。テメエはそこで、骨でも咥えて眺めてろ』

 『ご丁寧にコアの中核だけきっちり避けてくれやがった所為で、機体の修理が一瞬で済んだんでな。……話は後だ。まずはこのデカブツをぶっ潰す。舐め腐った新入りをボコボコにするのはその後だ』

 

 ちり、と、脳の片隅が熱を帯びる。

 彼らの憤怒に当てられたわけではない。同情も共調も、戦闘機械にはない機能だ。

 

 仕事を仕損じたことに対する苛立ち? 彼らをもう一度排除しつつジャガーノートを撃破し、脱出したパイロットを守らなけばならないという難題への嫌厭?

 

 違う。どれも違う。どれも、排除された感情のはずだ。

 

 それに──胸がざわめくこの感覚は、ハンドラーの声を聞いたときや、“彼女”のことを想っているときに近しい。心地の良いものだ。

 

 操縦桿を握り直し、ディスプレイに映る鉄塊を見据える。

 しかし戦いの火蓋を切る前に、また視界の端に通信開始を示す表示が瞬いた。

 

 相手は──V.IIスネイル。

 

 『──ハンドラー・ウォルターの駄犬。こちらはアーキバスグループ専属AC部隊、ヴェスパー第二隊長スネイルです』

 

 最高の、或いは最悪のタイミングで邪魔が入った。

 もし表情筋が正常に機能していたら、思いっきり眉根を寄せていただろう。

 

 アツい展開がどうとかではなく、ABを吹かそうとしてジェネレーターに熱を入れ、丁度いい具合に回っていたのに。

 

 『我々は市街地を()()突破しましたが、「壁」内部にも防衛線が展開されています。そこで貴方に新しく与えられた任務は、我がヴェスパー部隊の第四隊長、V.IVと共に壁の内部の掃除をすることです』

 

 ラスティと協働。

 そう考えると、是非ともそちらへ行こうと自分の中の何かが声高に主張する。V.IVとは言葉を交わしたことさえないはずなのに。

 

 そして通信の続きが聞こえてくると、その欲求──いや、戦術的判断はますます高まった。

 

 『──フロイト。貴方は壁上のジャガーノートを……は? フロイト貴方、今何処に居るのです?』

 『“ジャガーノート”のところだ』

 『は? いや、壁上のジャガーノートは未だ健在──』

 

 ぶち、と、嫌な音を立てて通信が強制遮断された。

 

 『──魅せてくれるじゃないか、ハンドラー・ウォルターの猟犬!』

 

 また新しい友軍機体が接近してくる。

 コバルトブルーの二脚機体──HUDに表示される識別名は、ロックスミス/V.Iフロイト。アーキバス、ヴェスパー部隊のトップ──アリーナランク1位、最強のACパイロット。

 

 『張りぼての「壁」を壊しても楽しくないと思っていたところだったんだ。お前となら……遊べそうだ』

 

 ACの視線は真っ直ぐにこちらを見据え、今にも突撃してきそうな“ジャガーノート”には一瞥も呉れない。

 

 面倒だ、と、戦術眼も別の何かも意見を一致させる。

 フロイトとは何度も戦った/これが初対面だが、特に苦戦する相手ではないのだ。いや──相手は文字通り、“遊ぶ”気概で来る。ACのアセンブルが微妙なのだった。

 

 操縦技術や戦闘技術は、まあ、あるのだろう。

 ACパイロットとしてそれなり以上に優秀なAIを瞬殺するほどだ。そのAIとエンジニアのタッグに苦戦したことがある身としては、そこは素直に認められる。

 

 だが武装が……アセンブルが……。

 大方、本人の戦闘センスが高すぎて、ガチガチに固めたら一瞬で終わってつまらないとかそんな理由なのだろうけれど──だからこそ、こんなW重ショ肩パイル(誉もクソも無い装備)で戦うのは気が引ける。

 

 もうちょっと“遊べる”タイミングで絡んできてほしいところだ。

 

 そんなことを考えていると、突如、高空から飛来してきた「何か」が上空で爆発──いや、炸裂した。

 

 『何っ……!? 支援爆撃だと……!? しかもこれは、榴弾ではない……!?』

 

 数発連続して降り注いだのは、爆風と破片によって広域を制圧するための爆弾ではない。

 中空で炸裂し地上に舞い散るのは薄く軽く滞空時間を追求して加工された無数の金属片と、きらきらと輝く粉末の混じった白煙。

 

 ウォルターの用意していた“フォロー”。

 621をルビコン解放戦線の大軍から撤退させるための支援爆撃だった。

 

 『チャフとスキャン遮断スモークだ。解放戦線ではなく友軍に向かって撃つことになるとは想定外だったが──「壁」へ向かえ、621。そちらに行きたいのだろう』

 

 この上なく適切な支援に。そして“我儘”さえ完璧に読まれていたことに、心がざわめく。

 

 ハンドラー・ウォルター。

 その人物眼と戦術眼は、自分など到底及ばないものなのだと理解できる。尊敬の念など抱きようもない身ながら、最大限の脅威判定を以てその代わりとする。

 

 『G4、G5! お前たちも「壁」へ向かえ! そこはV.I一人で十分だろう!』

 

 ち、と舌打ちが三つ重なる。

 一つはヴォルタ、一つはイグアス、もう一つはフロイトだ。

 

 フロイトの視界には「こいつ分身出来たのか?」と思う量の通信がV.IIからひっきりなしに届いていた。デカブツを無視して猟犬を追いかけたら、流石に後が面倒臭そうだ。

 

 『またの機会にしよう、猟犬』

 

 悪くない誘いだ。

 お互い“遊べる”時にまた会えたら、きっととても心が躍るだろう。

 

 踊る心が芽生えた後になら、是非だ。

 

 そう頭の内だけで考え、無言のままに飛び去ったLOADER4を一瞥して、レッドガンの二人がフロイトを振り返った。

 

 『悪いがV.I、このクソ野郎をぶっ殺すのは俺たちだ』

 『邪魔するならテメエも殺すぞ、企業の飼い犬』

 

 シンプルな暴言と殺意を受けて、フロイトは愉快そうな笑い声を電波に乗せた。

 

 

 

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