ごすずんとエアちゃんは共に救われるべき   作:ルビコニアンソルトピラー

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 ルビコン解放戦線の占拠した巨大構造物。

 防衛拠点として改造された「壁」。

 

 その屋上に5つの機影があった。

 

 一つはルビコン解放戦線の切り札、防衛拠点の要、重装機動砲台“ジャガーノート”。

 

 対する四つは並び立つ。

 G4ヴォルタのタンクAC“キャノンヘッド”。G5イグアスの中量二脚AC“ヘッドブリンガー”。独立傭兵レイヴンの“LOADER4”。

 

 そして敵だらけの市街区を突破してきたV.IVラスティの駆る軽量二脚AC“スティールヘイズ”。

 そのスマートな機影が視界に入ると同時、ディスプレイ端に見慣れた/見覚えのない、口枷を嵌めた狼のエンブレムが表示された。

 

 『ハンドラー・ウォルターの子飼いとは聞いていたが、あれほどの大群を蹴散らすとはな。共働できるのは心強い。共に──「壁越え」と行こう』

 

 そこから先は単調な作業だった。

 ジャガーノートの弱点は全員が共有しているし、タンク──文字通りの意味ではなく、比喩的な、所謂“囮役”が二人もいる。回避能力に優れたラスティと、装甲の厚いヴォルタだ。

 

 二人がジャガーノートの気を引き、イグアスと自分で後ろを取って有効打を叩き込む。

 

 EZPG。負ける要素が見当たらない。

 おかげで無線にはイグアスとヴォルタから自分への大量の罵詈雑言が流れている。まあ二度も後ろから撃ったのだから、彼らの憤怒はとても正当なものなのだけれど。

 

 ジャガーノートのAPが目に見えて減っていき、遂に半分を下回る。

 狭い壁上を踏み均すかのように疾駆していた鉄塊は壁の角を背にして籠城の構えだ。が、別にどうということはない。

 

 ラスティとヴォルタが機銃やバズーカの照準を引き付けてくれている隙に、跳んで上から攻撃すればいいだけだ。

 

 脚部パーツRC-2000 SPRING CHICKEN(重量逆関節)の跳躍力に任せて鉄塊の前面装甲()を飛び越え──背後で爆音を聞く。

 

 HUDに映る友軍機の情報を一瞬で読み取る。

 V.IVラスティ──残りAP75%、健在。

 G5イグアス──残りAP45%、損傷拡大。

 G4ヴォルタ──残りAP30%、損傷大。A()C()S()()()()()

 

 『クソが! 地雷だ!』

 

 ジャガーノートが撒き散らした地雷を踏み抜き、キャノンヘッドはそれまでに蓄積していたACS負荷と合わせてスタッガーしていた。

 

 その隙を見逃すことなく、ジャガーノートの背部ブースターに火を入れる。

 大質量による突撃は如何な重装コアパーツ『天槍』と言えど耐えきれるものではない。直撃すればアルミ缶のようにペシャンコになるだろう。

 

 『ヴォルタ! 間抜けが──野良犬!?』

 

 舌打ち交じりにジャガーノートへ攻撃を加え、突撃を阻止しようとしているイグアスを押しのける。

 

 運の悪いことに、ジャガーノートのACSはたったいま再起動したばかりだ。

 ここから負荷限界へ持ち上げるよりは、流石にブースターが火を噴く方が早い。

 

 ジャガーノートの巨躯が火花を散らしながら滑り出したのは、LOADER4がシェードを展開してABを噴かしたすぐ後だった。

 

 『止せ、621!』

 『うおッ!? テメエ、何やって──ッ!?』

 

 バーニアを噴いて方向を変え、ブーストキックでキャノンヘッドを蹴り飛ばす。

 逆関節のしなやかな蹴りが鈍重なタンクをジャガーノートの突撃線上から押し退け──自分が避けるほどの余裕はない。

 

 だが、問題ない。

 残りAPは少々心許ないが、リペアキットはまだ残っている。ターミナルアーマーで時間を稼ぎ──いや、待て。

 

 両手ショットガンに肩パイル(Homare is Dead)のアセンブル、何十回何百回と使ってきた武装で、咄嗟に判断してしまったが──過去数百回の戦闘とは違い、今はターミナルアーマーを積んでいない。レッドガンを護衛するために、パルスプロテクションに入れ替えていた。

 

 それを思い出した時には、左腕の捥げた機体は巨大質量との衝突で拉げながら宙を舞っていた。

 

 『ジェネレーター破損! 機体が爆発するぞ! 脱出しろ、621!』

 

 ウォルターの声に、身体が勝手に動く。

 アリーナで脱出ポッドの射出位置を確認する時に初めて触った──現実世界ではこれが初めて触ることになる脱出レバーを引いた。

 

 十数個以上の何かの接続が一斉に外れる音、炸薬の音、経験したことのない方向にかかるG。地面と激突し、火花を散らしながら滑っていく感覚。

 

 遠くで爆発音を聞いて、どうやら脱出は成功したらしいと他人事のように理解する。

 だが、“ジャガーノート”が生きていたら、脱出ポッドなんか踏み潰したことにも気付かないうちに踏み潰されて死ぬだろう。

 

 最後の最後、激突する瞬間、前面装甲の僅かな隙間にパイルバンカーを叩き込んではみたが──きちんと装甲の隙間に刺さっていれば、残りのAPを吹き飛ばしているはずなのだが。

 

 そして──ややあって、真っ暗な脱出ポッドの上部が気密音と共に開く。

 覗き込むのは、NACHTREIHER/44E、スティールヘイズのスタイリッシュなヘッドパーツだ。

 

 『……ベイラムの「壁」攻略部隊を単独で壊滅させ、解放戦線の大部隊を退け、そして「壁」を越えた傭兵。どんな化け物なのかと思っていたが……君は、そんな顔をしていたのだな。おめでとう、君の……いや、私たちの勝ちだ。()()

 

 戦友、と。

 ラスティにそう呼ばれて、脱出の時にも勝ったと知った時にも動かなかった表情筋が不随意に綻んだ。

 

 

 

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