並列世界の放浪者   作:Feldelt

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第十話 理想と現実

「ごめん、見つけられなかった」

 

ユニを探すために教会から出て近くを歩き回ったけど、全く見つかるそぶりはなかった。地の利がないボクが出てわかるわけがないと気づいたのはその時だったから……ボクもだいぶ冷静さを失ってたらしい。もちろん女神化してシェアの流れを追えば見つかる可能性もあるけれど、ボクの安全のほうが難しいだろう。結局、収穫がないことをギアたちに伝えるだけになってしまった。

 

「そっか……ありがとう、夕ちゃん」

「……心配はしてるよね」

「もちろんそうだけど……私はユニちゃんのこと、信じてるから」

 

そう話すギアの目からは確かに強い信頼を見て取れた。向こうのブランさんが、影さんのことを話してるときの目のように。

 

「そっか。それで、どうするの?」

「うん。みんなと相談して、ノワールさんのお手伝いをしようと思って教員さんにお話ししたところだよ」

「了解。当のノワールさんは?」

「ノワールは半ば強制的に休まされましたわ」

「たいへんだったのよー!ノワールさんいきなり壁をこわそうとするんだもん!」

「こわれなくてよかった……」

 

大方ユニに嫌われたのが相当なダメージだったのだろう。……ボクも嫌な想像をした。家族に嫌われるのは耐えられないね。なんて思っていると、奥の方から教員らしき人たちがやってくる。

 

「皆様にお手伝いいただけるなんて本当にありがたい限りです」

「それで……具体的に何をすればいいでしょうか?」

 

教員の人たちが提示したのは二つ。

一つは凶暴化したモンスターの退治。そしてもう一つが……

 

「待機命令に応じない住民の説得……」

「はい。現在ラステイションはバズール現象の対応こそ間に合っているものの、住民の皆さんに被害が出ないよう、自宅待機を命じております。しかし……」

「聞く耳持たず、ということですわね」

「はい。ですので説得をお願いしたいのです。女神様じきじきの声とあらば、耳を傾けてくれるかもしれませんから……」

 

教員の人からは疲れがありありと見て取れる。

 

「わかりました、やってみます」

「こちらからはユニの捜索をお願いします。どこに行ったかわからないんじゃ心配でしょ?」

「そーね!もしかしたらどこかでまいごになってるかもしれないし!」

「まいご、やだ……」

「ラステイションでユニちゃんが迷子になるとは考えにくいですが……そうですわね」

「かしこまりました、最善を尽くしましょう」

 

双方の合意で話をつける。じゃあ、すぐに行動しよう。

 

「手分けする?全員で一個ずつ行く?」

「まずはみんなでモンスターさんを倒しに行きましょう。直接的に被害が出るかもしれないものは、早急に取り掛からないと」

 

ボクの考えでは、手分けしてやった方が時間効率がいいという結論が出た。そこら辺のモンスターならばこのメンバーであれば対処可能だと思ったから。でも、ギアは効率ではなく安心を重視した。女神の在り方は、勉強になるね……

 

「了解」

 

 


 

 

モンスター退治にやってきたのはラステイションの外れの都市近郊の洞窟。火山性の鉱石がよく採れそうな地質だったけれど、洞窟の中に入るとちょっと様子が違っていた。

 

「ゆうちゃん、さっきからうごいてないよ……?」

「じーっと壁を見て、いったいなにをみてるのかしら」

 

地図と照らし合わせてもここは火山が近い。だから火山性の鉱石、つまりは溶岩が多く占めているのだと思っていた。でも違う。中は砂岩や礫岩など水中だったかのようなものが壁の下から3割を占めていた。

 

「確かに、上と下で色が違いますがそれを見ているのでしょうか……?」

「ゆーゆー、石を見てるときは目がぴかぴかー!ってなってるもんね~眩しすぎて太陽みたいな!?」

 

これから推察されることは、ここはかつて水中で、火山の噴火によって火砕流が湖を埋めたという地殻変動があったことを示している。だから、この境目で混ざったような地層が見られるんだ。

 

「あ、カバンからいろんな道具が出てきた」

「ピッケルにブラシにハーケンに虫眼鏡……やば、本格的すぎる、撮っちゃお」

「夕ちゃん……そういうのはちゃんと教員さんにオッケーをもらってからのほうがいいんじゃないかな……」

「大丈夫だよギア。あとで戦闘があったかのように細工するから」

「そういう問題じゃないよ!あぁ、ドリルまで出てきた……」

「いっぱいはいってる……」

「重くないの……?」

 

ギアたちの当惑の声に「重いよ、とっても重い」なんて返しながら境目の地層を採取していく。近くで見たいならとゴーグルを貸して掘り出していく。一つ、また一つとサンプルを採取していってそのたびにメモを一緒にケースに入れる。楽しい、ボクはこれをやってるときが一番楽しい!

 

「今までに見たことがないくらい生き生きとした笑顔ですわね……」

「どっかで見たことあるな~って思ったらメカ見てる時のぎあちーと一緒だこれ、クリソツ」

「そうなの!?……そうかも……?でも、そっか。夕ちゃんにとってここは基盤の廃棄場と同じように輝いて見えてるんだね!?」

「よくわかんないね、ロムちゃん」

「わかんない、ね」

 

ざっと15~20くらいのサンプルを採ったところですべての工具をしまう。いろんなポイントで採ったから洞窟の中を右往左往していて実は全く進んでいないんだけど……もし奥の方がより深かったらそれもそれで採取したいからね。名残惜しいけどここはここまで。

 

「さぁ、行こう!語りたがりの石たちがボクを待ってるんだっ!」

「……もしかして、夕ちゃんはここに来た理由を忘れてる?」

「もしこの状態の夕ちゃんにモンスターさんが遭遇したらどうなるんでしょう……?」

「すきなことを、じゃまされる?」

「やだー!ぜったいしかえししてやるんだから!」

「つまり、ゆーゆーがブチギレカムチャッカファイアーってことに……?」

『…………』

「なんでしょう、嫌な予感がします」

「そういう話をしていると、決まって遭遇するのがオチですわ」

「うぅ、怒ったおねえちゃん思い出してきた……」

「おねえちゃん、おこると、こわい……」

 

あー!楽しい!こんな地層は見たことない!あるかもしれないとは思っていたけどお目にかかれるなんて!ボクの想定通り奥に行けば行くほど砂岩系統の割合が増えてきているしそれに、たぶんだけどこの境目にある大きな岩は化石が埋まっている気がする。だからまずは岩を取り出すところから……

 

「夕ちゃん!」

「ん、なぁにギァ!?」

 

呼び止められて振り向いた方向とは反対、背中に強烈な衝撃を受けて壁に叩きつけられながらギア側へ吹っ飛ぶ。うかつだった、ここそういえばダンジョンだったじゃん……!

 

「だいじょうぶ……?」

「大丈夫、治療ありがとうロムちゃん……」

 

軍手を外し、ロムちゃんの頭をなでる。幸い工具を取り出す直前だったから中身はたぶん大丈夫なはずだ。お母さん特製の量子格納カバンだもの。もし工具を出していたらボクに刺さってたかもしれないと思うと運が良かった。治った傷がまだ痛むのをこらえながら、目の前のモンスターを見る……前にボクの目に映ったのはさっき取り出そうとした岩が割れ、推測通りに中から化石が出てきているところだった。当然乱雑にモンスターが叩いたのだから化石は粉砕されていたけれども。

 

「じゃあ、あれはボクの獲物だから」

「ひとりでやる気!?」

「そうだよ、ラムちゃん。ボクは今、さっきまで楽しかったんだから……八つ当たりするんだよ、巻き込まれたくなかったらじっとしててほしいな……!」

 

言うが早いかモンスターの懐に入り紅月と蒼陽をめった刺しにする。皮が硬くてうまく刃が通らないけれど、さして問題じゃない。

モンスターはすぐに暴れてボクを引きはがすが、想定内。その勢いを利用して飛び上がり、グロウ-Cに雷銀式炸薬弾を装填する。狙いは口の中。

当然モンスターはただ口を開いてるだけではなく叫びながら空中にいるボクをはたき落そうと腕を振るってくるわけだけど、グロウ-Cの反動を利用してその腕をかわし、爆発がモンスターを襲う。

 

「よっと、とと」

 

反動のままにバク宙したボクは着地のバランスを崩しながらも遅れて落ちてくるグロウ-Cをキャッチして、紅月をエクスポート、大剣モードにする。確実にとどめを刺す。そう決めた一歩を踏み出す……!

 

「待って夕ちゃん!」

「……?どうしたのギア。どうして待つの?」

「あれ見て。たぶん、モンスターさんの子どもだよ」

「……それで」

「きっと、子どもを守ろうとして暴れてただけなんじゃないかなって」

「……だからとどめを刺すのをやめろって?」

 

モンスターを睨むと口から黒い煙を出しながらも、ちゃんと子どもを守ろうとする構えでボクと相対している。すでに腰は引け、脚も震え、目からは恐怖すらも感じとれるが、その意志は強固に見えた。

 

「はぁ。じゃあギアが最後なんとかしてよ、あんなの見せられたら八つ当たりも興ざめだし」

「うん、任せて」

 

大剣は担いだまま、モンスターのほうに歩み寄るギアを見送る。

ギアはまず目線を合わせて敵意がないことを伝えていた。次に軽く治癒魔法で傷を治していた。その効果もあってか治ってもギアに攻撃することはなかった。はぁ、ほんとに。

 

「八つ当たりはするもんじゃないね……」

「珍しいものが見れたとは思っていますわよ?」

「はは、誉め言葉として受け取っておくよ」

 

全ての武装をしまい、上着のポケットに手を突っ込んで踵を返す。帰って採取したサンプルを眺めて気を紛らわせよう。

 

「これで一件落着ですね」

「なんか、ゆうにふりまわされてただけな気がする……」

「でも、とちゅうまでほんとにたのしそうだった、ね」

 

そんな会話を背に受けながら、ボクは本当にばつが悪くて洞窟を出るまで一言もしゃべらなかったとさ。

 

 




次回、「外にしかないもの」

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