マホの暴走の翌日。プラネテューヌでは女神全員が集まって会議をしていた。議題は二つ。犯罪神マジェコンヌがマジフォンの無償配布を始めたことと、灰色の女神のこと。
「灰色の女神については……ボクが考えた仮説があります」
「仮説?」
「はい。あくまでも仮説で、はたから聞いたら突拍子もないことだとは思います。でも、ボクが言うからこそ一定の説得力はあると思います」
「……聞かせて頂戴」
ブランさんの声に頷く。一呼吸おいて、昨日の夜にお父さんと通信して得た結論。
「結論から言います。あの灰色の女神は、別次元のマホ本人だと思います」
『えぇ!?』
「確かに、夕がこの次元の人間じゃないことからその可能性もあるけど……その考えに至った根拠を聞こうかしら」
「はい。これはアンリさんには伏せているんですが、昨日暴走状態のマホと会敵しました。その時の戦闘スタイルが灰色の女神の酷似している点、そして、ラステイションでマホが高熱を出した際にすぐ治っていた点。これは入れ替わったものだと考えればつじつまが合います」
「確かに、そうだけど……でも、そしたらアンリちゃんは!」
「うん、そこだけが少しおかしなところ。でも、昨日のマホの頭痛の原因だって、自分同士が接触したからと考えればおかしなことはないんじゃないかな」
他にも、犯罪組織の残党がマホに恐怖を抱いていたことも考慮に入れられることなどを話した。
お父さんはもう一個、灰色の女神の目的についても話していたけど……そればっかりはここで話すわけにはいかなかった。自分自身を消そうとするなんて……どこかの弓兵みたいなことするの、本当に……
「わかりました。夕さん、灰色の女神については引き続き私たちも調べることにして、夕さんにも引き続き協力をお願いいたしますね」
「了解です、イストワールさん」
もう一つの議題であるマジェコンヌによるマジフォンの無償配布を始めた件は、ギアたち女神候補生が調査を行うことになった。調査にはボクも同行して、いつ灰色の女神が出現してもいいように対応する。
……とはいえ、ボク視点では気になることが多すぎるから、ギアたちが会議している間、ボクはマホとアンリさんと話をすることにした。街を歩けば見つかってくれるといいけど……
プラネテューヌの住宅街、水路を眺めるようにマホはぼーっと立っていた。何かについての考え事をしているに違いない。きっと、灰色の女神のことだろう。
「やぁ、マホ」
「ゆーゆー……ちょっと、考え事」
「だろうね。はい」
カバンからネプビタンを渡す。マホの飲む様子を見ながら、ボクは話し始める。
「頭痛は引いた?」
「うん、今は平気」
「そっか。……昨日、ボクが合流する前に灰色の女神と話していたこと、覚えてる?」
「うん……そのことについて考えてたんだ。あーしの犯した罪ってなんだろうって」
「罪……?」
マホ曰く、灰色の女神はマホに対して『己の犯した罪に気づかずのうのうと生きている』と言ったらしい。……罪、か。
「記憶を失くす前のあーしは、何か悪いことをしたのかな?すっごく悪い奴だったのかな?そう考えてたら……つらたん」
ボクの推察では、きっとマホは何かの引き金になった。2年前にこの次元であったぴーしー大陸の戦いの元凶かもしれない。けれど、そうだからといって、記憶にないことで苦しむ必要はあるのだろうか。
「自覚のない罪だなんて、生きてたらいっぱいあるよ」
人は、生きていたら必ず誰かに迷惑をかける。大小問わず様々な迷惑を。それが時には大きすぎるもので、何かのルールを破ってしまうことだってある。人がしてはいけない行為、それを罪というのだろうけど、その尺度なんて時と場合でいくらでも変わるものでしょ。
「ゆーゆー……?」
「お父さんの、話だけどね。……自分の罪に自覚がないのは、もしかしたら許されないことなのかもしれない。でも、自分の罪に自覚しかないのも、許されないことだよ。だから……ボクの知っている、尊敬する『守護女神ネプギア』はお父さんを許したんだよ」
「え、ゆーゆーのいた次元のぎあちーって、女神候補生じゃなくて守護女神だったの!?」
「色々あってね……そんな色々の話は長くなるから今度にするよ。……マホ」
正直この次元で言うことはないと思ってた、ボクの尊敬する『守護女神ネプギア』への思い。あの人は、とても強い。女神の力を得て、本当にそう思った。
「この話は、ボク達だけの秘密だよ。ギアに聞かれたくないもん」
「おけまる!でも、びっくりした~……なんかゆーゆーも女神様だ~って知ったら急にこう、はは~って感じでさ!」
「そんな大層なものじゃないよ。いろんな次元を見てきたけど、ボクは『守護女神』としては何もできない。せいぜい近くの人を数人守れるかどうかだよ。それに、ボクに戦いを教えてくれた人は、守るための戦いは苦手だったしね」
穏やかな風が水面に静かな波を立てていく。考えてみれば、こうしてマホとちゃんと話をする機会なんてなかったから妙な気分ではある。こんなにも自分の、というかお父さんのはなしをすることになるとは思わなかった。
「……だからかな、ボクは灰色の女神がわからない。どうして戦っているのか、なんのために、戦っているのか……」
お父さんに灰色の女神の目的について聞いたとき、お父さんは即答していた。『自分自身で自分自身は消せない。だから、自分が消えるように世界が動くことを望んで動いている』って。そしてこうも言っていた。『いっそのこと消えてしまえればどれだけいいかと思う気持ちは、痛いほどわかる』って。でも、それはお父さんの見解だ。ボクは……多分、何か違う気もするんだ。
「灰色の女神……おぼろげだけど、あーしはあの人のこと、知っている気がするんだ。もしかしたら、本当にお姉ちゃんかもしれないね」
「だといいね。いいね、なのかな?」
「どーだろ。わっかんない!ありがとねゆーゆー。あーしは大丈夫だから、先に戻ってて」
「了解、話できてよかったよ」
マホと別れて道を歩いていくと、噴水に座ってアンリさんが何かしらの作業をしていた。
「隣、いい?」
「夕……えぇ、いいわよ」
マホの時と同じようにカバンに入ってたネプビタンを渡し、話を始める。
──そのつもりだったけどアンリさんのほうが早かった。
「昨日はありがとう、夕。マホのこと……」
「さっきマホにも会ってきたよ、頭痛は引いたようだってさ」
「そう、本当に良かった……」
アンリさんの様子は心底安心しているようだった。昨日の錯乱具合からはかけ離れた、安堵した表情。だから余計にボクは気になった。昨日ボクが着く前に起きたことを。
「アンリさん、昨日ボクがあの場所に来る前、灰色の女神と何があったの?」
「……あの灰色の女神はね、お父さんとお母さんの仇なのよ」
「ッ!」
アンリさん曰く、灰色の女神を初めて見たのはぴーしー大陸が崩壊した日。鳴動する地面と燃える街。そんな中を駆け抜けて女神のいる、両親のいるタワーに向かったところ、灰色の女神がタワーに攻撃する瞬間を見た。そして、周囲に住んでいた住民や、タワーで働いていた人間を全て巻き込んで、タワーは崩落していったというのが、アンリさんの話。
マホがうわごとのように言っていた話と繋がっている。
「……アンリさん、討とう。アンリさんの両親の仇を」
「夕……」
「ボクも両親はいるけど、いなくなってしまったらって考えたら……すごく嫌だ。本当に、苦しくて、つらくて、どうしようもないと思う。それがもし他人によって引き起こされたのなら、ボクはこの力の全てを使って仇を討ちに行くよ」
「驚いたわ、夕だって女神様なのに……復讐を肯定するだなんて」
「ギアたちとは、違う物差しを持ってるからね。それに……仇を取りたくて仕方がない人の様子なら、すぐそばで見てたことがあるからね」
だからこそ、ボクはその人を尊敬してるんだけど。なんてつぎ足しながら立ち上がる。
「……まさかそんな表情をされるなんて思わなかったわ」
「灰色の女神は、ボクが必ず正体を暴くよ」
「えぇ、私も協力する。……私はまだここでやることがあるから、先に戻ってくれるかしら」
「了解、プラネタワーで待ってる」
噴水から離れると同時に、イストワールさんからの連絡が来た。
マジェコンヌが動き始めたのなら、こっちも動き始める必要がある。戦場は、次の舞台へってやつだね。
次回、第十八話「潜入」
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