並列世界の放浪者   作:Feldelt

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第十八話 潜入

マジェコンヌがマジフォンの無償配布を始めたこと。何を目的としてそんなことをしているのかなんて多数の憶測が立つが、今ボクの中で有力なのがシェアの取り合い。女神ではなくマジフォンにシェアを集中させることで女神の力の上限値を下げようとしているんだと思う。もし最悪その目論見が思った以上に進んでいたら……ボクの解析から再構築でそのシェアをエネルギー源にすることも視野に入れておきたい。そんなことしたらボクの身が危なくなることは……まぁマジェコンヌを討つためと考えれば、か。あまり使いたくはない手段だ。

 

「っと、到着。ここがアイエフさんの言っていた闘技場か……」

 

マジフォンの無償配布はマジフォン自体の調達から始めないといけない。無在庫で人を集めて悪いことしてますとかではなく、本当に配布されているものだから、どこから調達しているのか、そして調達してるとして資金はどこから来るのか。イストワールさんはその資金の流れからマジェコンヌを追うことを諜報部に指示していたらしく、現在見つかった資金源と思われる違法闘技場に足を踏み入れた。イストワールさんからの依頼は、まず先行してこの闘技場に潜入して闘技場のオーナーと会うことで情報を引き出してくること。とはいえ、どうやってオーナーに会うかは全く見当がつかない。観客や選手に聞き込みを入れるところから始めよう。

 

 


 

 

「やぁ、みんな。待ってたよ」

「お、ゆーゆーお疲れー!なんかすっごい食べ物持ってるじゃん!」

「情報の聞き込みついでに闘技場観戦とかしてたからね……郷に入ってはなんとやらだよ。おかげで欲しい情報は手に入った。みんな、心して聞いて……食べ終わったらだけど」

「えー、夕ズルいわよ!わたしたちにも食べ物ちょーだいよ!」

「ラム、遊びに来たわけじゃないのよ」

「でも、見てるとお腹すいちゃうのはわかるなぁ……」

「ポテトあるよ?そうだね。それじゃあ観戦席で話そうか」

 

フランクフルトを食べ終わり、みんなを観戦席に案内する。周りが盛り上がっていてくれた方が、ボクが話す内容も聞かれる心配はなさそうだしね。

 

「それで、手に入れた情報って?」

「オーナーに会うための方法だよ。単純だった。ここに選手として登録して、勝ちあがるだけ」

「わかりやすいわね……でも、アタシたちは潜入調査できてるんだから、みんなで参戦はできないわ」

「だね。実はもうボクは選手登録してるから、次の枠から戦うことになるんだけど……まぁあと一人くらいは参戦してもらったほうがいいかな」

「じゃあぎあちー!任せた!」

「えぇ!?私!?」

 

ボクの情報と考えを伝えると、とんとん拍子にギアが選手として出ることになった。当のギア本人は固辞していたけど、ユニとマホ、ロムちゃんラムちゃんにも背中を押されて結局ギアが折れたという形。

 

「うぅ……でも、みんなが私に任せてくれたのなら、頑張るよ!」

「それじゃあこっちおいで、登録のための機械に案内するよ」

「うん」

 

選手登録用のデバイスに選手名と参戦リーグを入力するだけだよ。なんて言いながら、参戦リーグは一番上のものにしておいた。その方がオーナーに会える可能性が高いからね。

 

「相手は、みんな強いかな……」

「大丈夫だよ。変身はなしだとしても、ボクたちが潜ってきた修羅場と比べれば大したことはない。それじゃあ、ギア……」

「ッ!?」

 

紅月をギアの鼻先に向けてニマリと笑う。

 

「ボクと当たるまで負けないでよ?そしてもし当たったら……その時は本気だよ」

「夕ちゃん……」

「ボクは、本気のギアを相手にしないといけないんだ。ボクの認識を新しくするためにも、ね。じゃあ、楽しみにしてるよ」

 

紅月をしまい、選手の控室に向かう。ここからは、真剣勝負の世界。負けるものか。そしてギアと戦うんだ。『守護女神ネプギア』の幻影を引きはがすためにも、ボクはギアに負けたくなんてない。

 

──そんな思いで戦い続けて、決勝までやってきた。

 

 


 

 

『赤コーナー!新進気鋭の短剣使い!凍月夕!』

『青コーナー!プラネテューヌの女神候補生がここまで上がってきた!ネプギア!』

 

決勝のアナウンスが響く。闘技場の真ん中で、歓声の渦巻く檻の中で、ボクは静かに呼吸をしていた。

 

「ぎあちー!ゆーゆー!どっちも頑張れー!」

 

闘技場全体が鳴動してるかのようなうなり。観客のボルテージは最高潮。そんな中で、ボクは目の前のギアがくっきりと、周りの情景はぼんやりと見えていた。ここまでの戦いは紅月を大剣にするまでも、蒼陽を銃剣にするまでもなく戦えてきた。ギアもそうだろう。ここまでは基本的な剣術で上がってこれている。けど、ここからはそうもいかない。そんなことがお互いにわかっている戦いだ。だからこそ、余計に神経を鋭くさせる。

 

『3!2!1!レディ……ゴォォォォォッ!!』

 

開始のアナウンスとともにボクは『音速たる隠密の痛撃(ソニック・スニーク・ストライク)』を放つ。どうせ読んでるんだろう、ギア!

 

「ッ!」

 

だが、想定に反してギアの反応は2テンポ遅れていた。ギリギリで防いではいたけれど、何本かギアの髪の毛が切れて地面に落ちる。

 

「遅いッ!」

 

勢いのままもう一度同じ攻撃をギアの後ろから放つ。初撃はギアを越えるように、この二発目は確実にギアの中心を狙って刺すように!

 

「くっ……!」

「いい反応だよ!でも、遅い!」

 

初撃でバランスを崩してたギアは剣を逆手持ちにすることで最低限の動きでボクの二発目を正面から防いでいる。テンポが遅れてこの反応なんだから、ぴったり合えば多分これは通用しない。それがわかったから左手の蒼陽で下から切り上げる。

 

「夕ちゃんッ!」

 

切り上げに合わせて剣を押すことで軌道がずれてまた数本ギアの髪を切るだけにとどまる。だけど、今のでだいたいわかった。

 

「棄権なんて認めないよ、言ったでしょ。本気だよって」

 

まだギアはボクと戦うことに躊躇してる。

 

「でも……!」

「そう、なら嫌でも出させてあげる」

「ッ!?」

 

三回目の音速たる隠密の痛撃(ソニック・スニーク・ストライク)。今までとは違って確実に首に刺すことを目的とした攻撃。抜き身の殺意が出たからか、ギアの反応も一段階上がる。それでいい。

 

「そう、それでいい!」

 

左手の蒼陽でもう一度首を狙うと見せかけて防御したところを手薄になった左脇腹をめがけて蹴りを放つ。うまく体をひねられたことで想定してた半分くらいしか入らなかったが、それでもようやくギアに一発与えられた。

 

「ここまでやんないと一発も入んないんだから……ギアは強いんだよ。それに入ったって言ったって全然軽いでしょ?ボクはここまでやるよ、だから……越えてきてよ、女神候補生!」

 

土煙の中で立ち上がる影を見据えながら、ボクは構えなおした。

 

 




次回、第十九話「決着」

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