土煙の向こうからギアが見えた時、ギアの顔つきは変わって見えた。そうだよね。そうじゃないと……ボクがここまでやった意味がないよね。
「夕ちゃん。私、戦うよ」
「そうこなくちゃ。ギア、悩んでても始まることはない。動かないと、何も変えられない……!」
ギアもボクも構えたまま動かない。歓声も収まり、静寂が闘技場を包む。
「だから、迷わないで……進むよ!」
「ッ!」
先に動いたのはギアからだった。地面を切り裂くようにビーム刃を放ち、ボクに回避を誘発させる。右に避けるにしろ左に避けるにしろ、その動きに合わせて風の刃を飛ばすんでしょ!
「エクスポート!」
読み通りギアはボクの回避方向に風の刃を飛ばしてくる。紅月を大剣にして面で受けるけど、ギアの一番厄介なところは剣から放たれる各種属性攻撃。距離も速度も威力も全部絶妙に違うのがほとんど同じモーションから出てくるから、一緒に戦った経験からどういう考えで技を撃ってくるのかを読み続けないといけない。今みたいに何回も見た動きなら対策はできるけど……アドリブになったときに間違いなく一手は遅れる。それはボクの間合いの問題でもあるし、ボクの戦い方による問題でもある。
「なら、これで!」
「させないよ!」
蒼陽も銃剣モードにし、炎を放ってくるところを迎撃する。次の一手は、どうする?どう来る?攻めてこないのならこっちから行くよ!
「さすがだね、夕ちゃん!」
「ギアこそ、それが本気だって言うのなら、もっと見せてよ!」
銃剣モードのまま蒼陽で斬りかかり、つばぜり合いに持ち込む。ギアの技は全部剣から出る。だからどの技を出すにしろ剣を振るという動作が必要だ。だからこそ振らせないためのつばぜり合い。だけど……この状況を続けられるわけではない。押し込んで距離を作って踏み込む……!いや、距離を取って撃ち込む……?どれにも裏目はある、戦いにくい……!
「ッ!なら!」
「やっぱりね!」
ボクの選択は後者。距離を取ったタイミングでギアはすかさず氷の刃を放ってくるけど、それを紅月の大剣モードで防いでさらにもう一歩距離を取った。
ボクの戦い方はお父さんが教えてくれた相手の選択肢を潰す戦い方だ。お母さん由来の相手の動きに即座に対応する動きも合わせて何かしてくるなら対応する、しないなら選択肢を減らしていく、そういう戦い方だ。だから素の選択肢が多い相手と、そもそも選択肢を持たない相手を苦手としている。ギアの場合は前者……それに対応し続けるとなると、ボクのほうが手札切れで一手遅れるのは明白。だからと言って無理に詰めていくのは……ギアの手札で捌かれるだろう。不味いなぁ……
「まだまだっ!」
今度は雷撃が飛んでくる。不規則な軌道だけど……く、右か左か読み切れない……!なら、いっそ止まって防いでから……次の動きを考える!
「防いだ、なら!」
「上でしょ!」
大剣の紅月を地面に刺して雷撃を防ぎ、そのまま斜め後ろに転がり出て落ちてくる氷を避ける。銃剣の蒼陽から数発撃って、紅月を掴むと同時に短剣に戻してまたすぐに大剣に展開、体重を乗せて振りぬく……!
「やっぱり……強い!」
「ギアだって……!」
振りぬいた大剣は空を薙ぐだけだが、その反動を利用して銃剣の蒼陽の銃口をギアに向けてまた数発放つ。闘技場の端までは追い込んだけど、剣で容易く弾は弾かれるんだから有効打はない。
……今ので結構ダメージ入ったな、ボクの右腕……遠心力で関節が外れかけた、痛い……
「でも、これで終わらせるよ!」
長期戦になるとこの痛みが確実に影響を及ぼす。なら、今ここで決めたほうがいい。紅月も蒼陽も短剣に戻して、技の構えを見せる。
「《
紅月に氷を、蒼陽に炎を纏わせて一気に突撃する。氷と炎の奔流は後ろに退路がないギアの左右を完全に覆っている。これが当たれば、ボクの勝ち……!
「なら、《スラッシュウェーブリパルサー》ッ!」
ギアの剣から放たれるのは衝撃波とビーム刃。これだけで防げるなんてギアは思っちゃいないはずだ。指向性を持ったビーム刃ならば、その指向性を歪めてしまえば、抜ける!
「せぇい!」
ビーム刃を捻じ切って突っ込んだ先にギアはいなかった。左右も後ろにも退路はないのに、ボクの短剣は二本とも壁に刺さる。てことは……上ッ!?
「やあぁあぁぁぁっ!」
振り向いたときにはギアの回転切りがもろに直撃していた。いくら闘技場仕様で出力は抑えられてるとはいえ、さすがに吹っ飛ばされる。おまけに紅月も蒼陽も刺さったままだから丸腰だ、これ以上の戦闘は継続できない。そう頭を回しながら、壁沿いをぐるぐると転がり、地面に打ち付けられる。
『勝者、ネプギア!』
闘技場のアナウンスが流れる。やられたよ、ほんと……
「夕ちゃん!」
歓声の中、ギアはボクのもとに紅月と蒼陽を届けてくれた。息はまだ少し上がっている。
「……負けたよ、ギア。次は……闘技場最強決定戦か」
「……うん」
「勝ってよ、ボクに勝ったんだから」
「わかった。必ず勝って……オーナーさんに会ってくるね」
「ふふ、そういえば、それが目的だったね」
ギアの手をとり、ボクは立ち上がる。次の試合まで時間はあるだろうし、少しゆっくりしてから応援席のみんなと合流しよう……
次回、第二十話「罠」
感想、評価等、お待ちしております。