次元の旅人。ボクがそう名乗ったのは何もお父さんみたいに世界を壊して世界を繋ぐ……なんて大それたことを考えているわけではなく普通に事実として述べただけ。
さっきあんなことを言った手前そんなに反応はなかったけれど、ブランさんだけは一言「そう……」と言って考え込んでいた。
「イストワール」
「はい、ブランさん。どうかされましたか?」
「……この子たちを助けるときに、彼女には手伝ってもらったということよね?」
「はい。ネプギアさんをはじめとした女神候補生の皆さんを救出する際、バズール現象の発生もあって一度は撤退も考えたのですが、居合わせた夕さんによって無事に遂行できました」
「バズール現象を単騎で……なるほどね、なら……」
「えぇ。すでにアンリさんには話しています。もちろんネプギアさんたちにもお手伝いいただく予定でしたが……」
「仕方ないわ、私もよく知っている。ネプギアがどれだけネプテューヌを好きだかということはね……今のネプギアには時間が必要よ。そんなに多くはないけれど……それでも」
「ブランさん……」
「そうね、わたしもお姉ちゃんに会えなくなったって思うと……」
「いやだ、こわい……」
「大丈夫よロム、ラム。私はここにいるわ」
ぎゅっとロムちゃんラムちゃんを抱きしめるブランさん。なら……ボクは次にやることをやらなければならないようだ。
「じゃあ、イストワールさん。ボクは次、どうすればいい?」
「そうですね……本来この次元とは関係のない貴方にお願いするのは筋違いかもしれません。ですが……」
「気にしないよ。突きつけて終わりにはしたくないしね」
「ありがとうございます。では、こちらについてきてください」
「これは……」
ついていった先にあったのはたくさんの機械と配線。いわゆるスーパーコンピュータなのだろうか。ボクはそのあたり疎いから下手に触らないようにしないと……
「アンリさん、いらっしゃいますか?」
「はい、いますよ。……そちらの方は?」
「バズール現象の解明に協力していただける、凍月夕さんです」
「協力……まさかモンスターと戦うんですか?この子が?」
「はい。……信じられないかもしれませんが、私はこの目で見ましたので、実力は確かなものです」
「見た感じマホと同年代なのに……凄いわね。初めまして、私はアンリ。ここでバズール現象のことについて調べてるわ」
「よろしくお願いします、アンリさん。……バズール現象って確かあのモンスターが出てくる現象ですよね?」
「えぇ。規則性も何もなく散発しては被害を出していくバズール現象は、女神の加護が切れたぴーしー大陸とここプラネテューヌを襲っては爪痕を残していった……私たちはそれをどうにか食い止められないか調べているわ」
「ボクが見た限りだとあれは空間が歪んでモンスターが出てきていた……確かに出てから倒すのは後手後手だから、先手を打つために必要なことが、解析……」
「そうね。善は急げよ。マホ!観測機を持って出るわよ!」
──沈黙。返答はない。
「こんな時に……またどっかほっつき歩いてるのねマホは……ごめんなさい夕さん、しばらく待ってもらえるかしら?」
「大丈夫ですよ、その間にボクはボクの道具のメンテナンスをしたいので……あーでも粉とか出るから機械の近くじゃないほうがいいか……」
「それなら奥の部屋を使っていいわ。全く……外に出るなら私と一緒に行けって言ったのに……」
ボクはアンリさんに礼を言って奥の部屋に入る。物置みたいだけど、かえって落ち着く。一人で状況を整理したかったし、採取したサンプルを磨くこともしたかった。
まず、この状況。女神の加護がなくなったということはやっぱりここもあんまり安全とは言い切れないだろう。散発的に起こるバズール現象は予知ができない。例えば今直上で起きたとしてもそれは防げない。
「解析と構築、か……」
鉱石の研磨をしながら思考を沈めていく。空間のシェア量が少ないからコンソールフォルムで解析を入れることができない。手間はかかるけどお母さんの領域把握に遜色ない情報を得られる解析はボクの武器だけど……今使うのは悪手だしタイミングが悪い。最悪ボクがマジフォンのシェア元だと勘違いされてしまう。それはよくない。
鉱石が輝きを増していく。紫色に輝くのなら、これはアメジストだろうか。いや、不純物が紫色の石英であることも否定できない。けど、それ自体はボクにはどうでもいい。大事なのは色をもって輝くこと。そして、磨いたときに表面が綺麗であること。
「磨くということは、細かな傷を付け続けること……美しく、綺麗に見えても、削られたものが確実に存在する。その石の一部が削ぎ落されている。なら……きっとそれは誰にでも言えることだと思う。お父さんだってお母さんだってネプギアさんだって……」
照明の光を受けてキラキラと輝く紫の鉱石。本来の形から大きく削られた、しかし本来の姿よりも輝くそれは、結局人を表すのではないか。
「よし、できた」
趣味に没頭した満足感と思考が整理できたクリアな感覚。文字通り時間を忘れていたボクはすぐに片づけて部屋を出る。
「お、ちょうどいいタイミングね」
「お待たせしました……」
「あ、夕ちゃん……」
出た先にはいつの間にか全員そろっていた。出る扉を間違えたかとも思ったけど扉は一つしかなかったし全員がこっちに移動してきただけか。
「……それでこそだよ、ネプギアさんは」
「……?」
「立ち上がったのなら、進むんだよ、次は。そうでしょ?」
「うん……お姉ちゃんはいなくても、私は私のやるべきことをやらなきゃって」
「おー!ぎあちーめっちゃカッケー!って、あんりー!この子誰!?めっちゃかわいいんだけど!てかどこ住み?マジフォン持ってる?連絡先交換しね?」
「……誰?」
「うぉぁこっわ!?その顔からその声はギャップやばみざわなんですけど!?」
「はいはい、そのくらいにしなさい。ごめんなさいね夕さん。この子がマホ。うるさいけどちゃんとやることはできる子だから……」
「あぁ、なるほど……ボクはこのタイプは初めてだからどうすればいいかわからないですね……」
「ちょっ!?ボクッ娘!?ギャップ萌えの塊か!?」
「コホン。それでは皆さん、バズール現象の調査、よろしくお願いいたします」
「……はい。行ってきます!」
「ここがバズール現象の発生地点、か……」
「う~へ~なんか螺旋階段とかやけに多い街じゃね?ってか廃墟だよ廃墟!」
「こういうの見ると、くるものがあるわね……」
「あ、カブトムシ……」
「え?どこどこ?」
「あそこ……」
「ほんとだ!ドロローサって書いてる看板にいっぱいいる!」
「そうなってくるとイチジクのタルト欲しくなんね?いやあーしはイチジクそんな好きじゃないんだけどさー、ノリってやつ?」
「マホ。……コホン。その周辺がバズエンサーがいるとされているあたりです。すでにたくさんのモンスターを倒していると思いますが……重ねて用心をお願いします」
まるで天国に向かう方法のような言葉の羅列の先に、バズエンサーが近くにいるという報告。事前に戦うだけでいいと聞いてるから楽だけど……ここまでの大所帯となると、あえてボクは動かないという選択肢もとれる。
「っと、言ってるそばからでかいのが……あれだね」
「見つけたよアンリちゃん……行きます!」
ネプギアさんたち女神候補生の四人が一気に戦闘を開始する。ネプギアさんが突っ込んで残りの3人が銃撃や魔法で援護していくワントップ構成……でもそれは後衛に攻撃が集中するなら瓦解するはず……
「ラム!」
「おっけー!任せなさい!」
けれど、瞬間的な判断で援護組は互いに互いの援護ができる。よくできた陣形だ。けど、おかげで崩しやすくもある。
「あれ?ゆーゆーは戦わんの?」
「ボクの出る幕じゃないよ。あの四人だけで十分。ボクはそう思う。それに、ボクがいなかったら誰が観測途中で入る邪魔をどかすのさ」
こちらに気づいて接近してくるモンスターを銃剣モードにした蒼陽で撃ち落とす。
「わーお、ゆーゆークール!かっけー!」
「マホも、黙っていればいいんだけどね……」
しかし、やっぱり粗が目立つ。ボクの知ってるネプギアさんは……あんなに甘くない。それが認識と現実の乖離、次元が違うのだからそれが当たり前だとわかっていても、同一の呼称を使うのは……ネプギアさんと敬意をこめて呼べるかと言われたら……『守護女神ネプギア』を知っているボクからすれば、無理だ。あのネプギアさんのような覚悟を求めることはできない。なら、いっそ呼称を変えてしまうのはどうか。ボクの中で『ネプギアさん』というものに乖離が起きなくなるのなら、それは喜ばれることだ。少なくともボクにとって。それに、きっとボクは無意識に『守護女神ネプギア』としての立ち回りを求めてしまいそうだから。一人で世界を繋ぎとめ続けるなんてことを、今一緒に戦ってる友達を失うことを、求めてしまいそうだから。それが『ネプギア』なんだと。
「ボクも大概だよ……」
ははっ、なんて笑ってしまう。お父さんみたいだ。なら……いっそここにいるネプギアさんもお父さんに倣って『ギア』って呼んでしまえばいいんじゃないか。あぁ、そうだ。それがいい。よくわからないけどしっくり来た。
「ゆーゆー、へいゆーゆー!」
「っと、考えすぎてた。無事?」
「無事も何も全部終わったって!急に小難しい顔しているもんだからウケてぱしゃりが止まんなくてさ!ほれ、これがゆーゆー。今見てもウケる、草」
「わ、お父さんそっくりだこれ」
「マジ!?ゆーゆーのお父さんこんな渋いの!?」
「渋い……?いや、どっちかっていうとこう……いや今はそんな話してる場合じゃないでしょ、全部終わったのなら……長居する理由はないよ、そうでしょ?"ギア"」
「えっ、あっ、うん!観測データもとれたっていうからみんなで帰ろう!」
「それにしても、なんでアンタは戦わなかったのよ?」
「余裕っぽそうだったから。ご不満?」
「いいや?アタシ達にかかればお茶の子さいさいよ!」
「つよかった……」
「けど、らくしょーよ!」
なんて、談笑しながらボクたちは拠点に戻るのだった。
次回、第三話「歪みの先にあるもの」
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