ギアに負けたボクは観客席に戻っていた。アンリさんも合流していて、みんなは健闘をたたえてくれた。
「戻ったよ、あれ?マホは?」
マホの姿だけは見えなかったけど、どうせどっかそこらへんをほっつき歩いてるとは思うし、ボクたちはギアの最後の戦いを見ることにする。
ギアの対戦相手はこの闘技場最強と言われてるらしい。そいつを倒せば、オーナーに会える。目的を達成できる。
「少し席を外すわ、ついでにマホも探してみることにする」
「ん、了解」
そう言ってアンリさんは席を離れていった。一緒にユニもついていったから安全面は大丈夫だろう。
戻ってきたのはユニだけだったけど、そのタイミングで観客がどよめきはじめる。
「今のギアなら、まぁ、何が出てきても……どんな敵でも大丈夫だと思うよ」
「そうね。って、夕!あいつ!」
「……ッ!そうかい……」
観客のどよめきをかきわけるように現れたのは鎧の騎士。いつか戦ったことのある、あの鎧の騎士。
「あいつが出てくるとなると、この闘技場のきな臭さは本当に跳ね上がったね……ユニ」
「えぇ。何があってもいいように備えておくわ」
こくりと頷き、ギアに視線を送る。
闘技場である以上、ここからギアを援護することはできない。ボクに勝ったんだ、さすがになんとか勝ってほしいところだけど……あいつも相当強かった。
「でも試合についてはどうこうできたもんじゃない、なら考えるべきは」
「ネプギアの試合が終わった後、ね」
「うん。あの鎧の騎士がいるのなら、十中八九奴もいる」
なら、できる備えはやっておかないと。
「夕、アンタのその銃、コンテンダー?」
「詳しいね、お父さんが使ってたものをボク用に調整したんだって。反動が大きくてうまく撃てないんだけど、威力はあるよ。それに……」
装填しようとしていた雷銀式炸薬弾を見せる。
「それ、あの爆発する弾丸?」
「そう。今考えているのは、こいつを鎧の騎士の鎧の隙間に撃ち込むこと。だからメンテナンスして少しでも狙いやすくしたいんだけど……ユニ、任せていい?」
「いいわよ。銃のことなら任せなさい!」
「ありがとう、助かるよ」
ボクがメンテナンスするのもいいけど、やっぱり専門家に任せるのが一番だ。
ボクはその間に紅月と蒼陽のメンテナンスができる。ギアの試合を横目に、次に備えることができている。
──その備えを万全にできたタイミングで、闘技場全体がどよめく。どうやら決着がついたようだ。
「かった!ネプギアのかちよ!」
「やったぁ……!」
隣で応援していた二人も喜んでいることから、ギアが勝ったのだろう。じゃあ、これで計画が進む。
「新しい闘技場の王者の誕生だ、ハッピーバースデイ!」
放映されるアナウンス。闘技場の中心に現れる声の主、マジェコンヌ。
「あー!マジェおばさん!」
「やっぱりね……二人とも、いつでもいけるようにしてて」
この距離からでも、狙撃できるかと思ってユニから受け取ったグロウ-Cを構える。だが、マジェコンヌはまるで気づいているかのようにこちらを向き、マホを人質にとる。
「な、マホ……!?」
見当たらないと思っていたがこうなってくると話が変わる。いや待て、そうなってくるとまだ見当たってない人がもう一人いるじゃん……!アンリさんはどこだ……!
「動くなよ……?もし動いたら、この小娘の首から上が胴体から離れるぞ」
「く、マジェコンヌ……!」
ギアも動けない。鎧の騎士がそれをいいことにギアを攻撃し始める。逡巡している様子が一瞬だけ見えたけど、そんなことを言ってられる関係ではないようだ。
……スティングビットで引きはがす、女神化した瞬間にアウトだ。ここからグロウ-Cを撃つ……よしんば通ったとしても爆発でマホが吹き飛んでしまう。マジェコンヌがあの黒いクリスタルを持っていないと仮定しても、爆発一発で倒せるわけないから結局吹き飛んだマホに追い打ちが成立する。そもそも音を聞いた瞬間にマホを盾にしてきそうなものだ。本当に打つ手がないね。距離さえなければマホごと斬る勢いでマホを捕えてる腕を斬りに行けるんだけど、マホの無事は一切保証できないからボツ。こうなってくると、何かしらのイレギュラーが起きてくれないとすることがないね……!
瞬間、天井が割れる。外からの援護……?いや違う!割れた天井から差す光の中で、灰色の女神が叫ぶ。
「この瞬間を待っていました!シーリィ!」
「了解、マスターの命令を実行します」
「獲物が網にかかったようだな!来い!エフツーピー!」
この乱入で、シーリィがマホからマジェコンヌを引きはがす。それを見逃さないボクたちじゃない。
「ッ!今!」
ボクは突出、ほかの3人は女神化して魔法やビームをマジェコンヌに撃つ。
「みんな!」
「援護に来たよ、ギア。マホの回収はできたね。だったら……」
「うん。マジェコンヌ、あなたを倒します!」
「いいだろう、やってみるといい」
──戦いが始まる。
回復さえなければ、マジェコンヌの攻撃は色々厄介でも凌げるし、こっちには連携もある以上対して苦戦はしていない。ボクも女神化せずに横目で鎧の騎士と灰色の女神の戦闘を見ることができている。どうもこの鎧の騎士は灰色の女神が憎くて仕方ないらしい。動きに精彩がない。向こうを押せば撃破できそうだな、4v1でマジェコンヌ戦にも余裕があるし……
「……!?こんなときに……っ!」
向こうに一押ししようと思った矢先に、灰色の女神の動きが悪くなる。即座にシーリィが間に入るも拮抗が崩れたのかシーリィの右腕部が破壊される。
「右腕部に重大な損傷を確認。マスターの安全を最優先。エネルギー、オーバーロード」
「だめ、シーリィ!」
戦場に走る緊張感。横でマジェコンヌと戦っているギアたちもそれを察知しているあたり、シーリィのやることは間違いなく、自爆。
「任務、了解」
轟音が響く。幸いシーリィ自体が小柄なためか爆発の規模はそんなに大きくないが、鎧の騎士を撤退させることはできていた。
「ちっ、エフツーピーめ、存外もろいな」
「よそ見なんて、余裕そうね!」
一瞬の隙を突いてユニの狙撃が直撃する。
「これで!」
『おしまい!』
立て続けにギアの攻撃とロムラムちゃんの魔法が炸裂する。その落下点には、もうボクが構えている。
「《緋一文字・紅椿》ッ!」
落ちてきたマジェコンヌを吹き飛ばす勢いで振るった大剣の一閃。間違いなく直撃の手ごたえで吹き飛ばす。
「ふん、いいだろう。今宵の勝ちは譲ってやる」
だけど、土煙の中で声だけが響いて、晴れた後ではもうマジェコンヌの姿はなかった。
逃げ足が速い……!
同時に、灰色の女神も戦線を退いていく。クソ、また逃げられる……って、あれ……?
「ロボットを見捨てた……?」
「ううん、違うと思うよ」
動かなくなったシーリィを残して、灰色の女神は去っていく。シーリィから情報が取れるのなら、今はこれでいいのかもしれない。
次回、第二十一話「再調査」
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