闘技場への潜入任務後の報告では、いろいろなことを話した。
かいつまんで言っても結構な情報量になると思う。
まず、犯罪組織への資金の流れは止めることができた。これは素直に組織というものに対して痛手を負わせることができたということ。でも、同時に浮かび上がったのは、過去の資金の流れ。ぴーしー大陸全土が犯罪組織と結託していたという可能性。
次に浮かび上がったのは、プラネテューヌにスパイがいる可能性。アイエフさんをはじめとした諜報部の動きに常に先手を打たれているとのこと。これは、ボクが疑われそうなものだけど、アイエフさんの動きなんて一切知ることができないということはギアたちが証明してくれたことで事なきを得ている。このスパイ騒ぎはギアが修理のために調べたシーリィの中身にギアの未発表の技術が使われていた、なんてことからも実働しているボクたちよりもプラネタワーにいる誰かのほうが怪しいという結論になった。
しかし、スパイをこちらから調べるのは難しい。嘘情報を撒いてもいいけど、調べる範囲が広すぎてどうしようもない。
結局この件はイストワールさんに任せることにして、ボクたちは手がかりを探すためにギアたちが眠らされていたという研究施設を調べることになった。
灰色の女神が、ぴーしー大陸の守護女神、あるいは女神候補生であるという推測。それを確かめるための調査だ。
「この部屋……ここで、灰色の女神さんが眠ってたね」
研究所の最奥の部屋で、ギアがつぶやく。
ここまでて一切の収穫はない。その一言が最初の収穫だった。
同時に、ボクがイストワールさんと一緒に四人の女神候補生を回収したときの状況と、その直前……厳密には二年前の状況がギアたちによって紐解かれていく。
「……灰色の女神が犯罪組織の仲間、だったら、どうしてギアたち女神候補生を眠らせてたんだろう……始末したほうが楽だったろうに……」
「始末って……ゆーゆー物騒~」
「とはいえ、何も収穫がないのはね……」
女神化する。ボクの《解析》なら、何か感知できるかもしれない。
「夕ちゃん?おもむろに変身してどうしたの?」
「ボクならもう少し、調べられると思っただけだよ。消耗を避けたいから調べるのはボクの周囲1mに限定するけど……」
壁際を歩いて、ボクは《解析》を走らせる。後になって気づいたけど、最初っから全部調べてた方が消耗が少なかった可能性が高い。まぁ、よく動くマホを《解析》の範囲外に出せてはいるから間違いではないはず……っと、これは……
「隠し通路……?」
女神化を解除し、壁を見る。確かにボクにはこの壁の向こうに通路があるのが見えた。壁の構造も普通じゃない。間違いなく、通るための仕掛けがある壁だ。
「見る感じただの壁ね」
「そうだね……まぁこういうのは壊せばいいよね」
大剣にした紅月を突き立てる。ボクの想定ではちゃんと壁からの反発があると思ったけど、そんなものはなく手ごたえがないまますり抜けていく。
「うわぁっ!?」
「夕!?」
すり抜けた先は異空間、これ、ダイラタンシーの逆か……!
「いてて、派手に転んだけどボクは大丈夫……この壁、勢いをつけるとすり抜けるみたい」
無事にギアたちも通り抜けてきて、ボクたちは改めてこの異空間を見る。
「これって……」
「プラネタワーを上る時のにそっくりね」
「だね、犯罪組織の技術だと思う。すると、この先にあるものが犯罪組織の隠したい真実だろうね。駆け抜けるよ」
「うん……!」
異空間に長居しても意味はない。最速で最短で済むように進んでいく。
……もっとも、その先にあったのはただの小さな部屋だった。
「これが、犯罪組織の隠したかったもの?」
「なにもない、ってわけではなさそうね……」
資料が散乱しているが、これをかき集めるのは現実的じゃない。あとは何かありそうなものは……
「あ、ここにデータが入った記録ディスクがあるよ」
「おー!ぎあちーナイス発見!早速中身みてみよ~!」
ギアの見つけたディスクを施設の機械に通す。プロジェクターから映し出された映像に、ボク達は目を疑った。
「これ、あーし……?」
ノイズ交じりの音声。何かしらの技術の説明。そして、明確に聞き取れた「犯罪組織」という単語。そしてそれを、マホが喋っているという記録。
「どういう、こと……?」
「うつっていたの、マホちゃん……?」
全員の視線がマホに集まる。
「これは、なに……あーし……?でも、なにも、思い出せない……」
「マホちゃん……」
頭と膝を抱えて愕然とするマホと、心配するギア。そして、マホの後頭部にグロウ-Cを構えるボク。事前に弾は抜いている、誤射の心配はない。
「夕!?」
「夕ちゃん!?」
ギアたちの警戒は間違いじゃない。むしろ正しい反応だ。
「……撃つ気はないよ。でも、向けなきゃいけない」
ユニに見えるようにグロウ-Cにセーフティをかける。ユニならそれでわかってくれるけど、裏を返せばすぐにセーフティを外せるということでもある。
「……アンタ、」
「恨み言なら後で聞くよ、ユニ。……ギア、そのディスクは持ち帰ろう」
「うん。そのつもり、だけど……」
「マホに銃を向ける理由がないって?……そうだね。今、これにはセーフティもかけてるし、実は弾も入ってないんだ。でも、銃口を向けることに意味がある」
マホに視線を戻す。マホはボクが向けた時の姿勢から180度振り返って、今は真っすぐボクと銃口を見ている。弾の出ない銃ってわかっているから、見ることができる?違うね、マホ。君は……ボクならそうするってわかってたね?
「ゆーゆー……あーしを撃つ?」
「撃たないし撃てないよ。……けど、ボクはこうしなきゃいけなかった。思考と、感情を整理するためにも」
「……」
「記憶がなくなる前のマホならいざ知らず、今のマホにできるようなことじゃない。犯罪組織と結託していたであろう確実な証拠が今ここであっても、ここにいるマホがそんなことはできないと思う」
「ゆーゆー……あーしを、信じてくれるの?」
「どうだろう。今、その問いに頷くことはできない。完全に疑いが晴れるまで、きっと手放しにマホを信じることはしないよ。それはボクのすることじゃない」
グロウ-Cをしまって、ひとつ息をつく。そんなときだ、ギアのNギアに連絡が入ったのは。
「もしもし……えぇ!?」
ディスクを回収した傍らで、ギアが驚く。すぐに通信が切られたが、ギアの表情でただ事じゃないとわかった。
「みんな、今すぐ戻ろう!ルウィーが!」
「えぇ!?ルウィーが!?」
「おねえちゃん……!」
「急ごう……!」
一体何が起こっている、ルウィーで、何が……!
プラネタワーに戻ったボクたちが受けた報告は、この世のものとは思えなかった。
「ルウィーの、国民の、ほとんどが、凍った……?」
そこからはとんとん拍子で話が進んでいく。ブランさんが無事な国民を連れてプラネテューヌに避難してくる、人間をかき集める時間と移動の時間でだいたい3日……その間、マホの監視と軽めの拘束。事情徴収を入れるとして、少しばかりインターバルがほしいか……
「では、マホさんの事情徴収は4時間後に。それまでは皆さん、休んでいてください」
「了解です」
もっとも、その4時間後にまた大波乱があることを、今はまだ知らない。
次回、第二十二話「正体」
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