並列世界の放浪者   作:Feldelt

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第八話 そこにAIはあるのか

「待って、ロボットさん!」

 

足元の悪い施設の中を駆け抜けるギア。その声に反応したかのように、ロボットは進行を止める。

 

「……シーリィです」

「シーリィ?」

「ワタシの個体名です。あなたはそう呼ぶべきです」

 

引っかかる言い回しだ。そう呼ぶべきだなんて、まるでギアが名付けたかのような……

 

「シーリィさん、あなたの目的を聞かせて」

「この施設の情報のバックアップ、および施設の機能の破壊です」

「どうしてそんなことを……!」

 

至極当然だろう。人間を効率よく処分するためのものを造っているのなら、破壊すべきだ。

 

「この施設は現在、とある生産物に利用されております。が、将来は機械兵を自動的に生産する工場として予定されています」

 

息をのむ声が聞こえる。やはり壊すべきだ。もしこれを聞いてもギアが破壊を固辞するようならボクのほうからシーリィに協力をする考えも立てていた。続く言葉を聞くまでは。

 

「ワタシは全てを知られる前にこの施設を破壊するため参りました」

 

全てを知られる前……?まるで、()()()()()()()()()()()というような物言いだ。だとしたら、施設の破壊は証拠隠滅の線が出てくる。

 

「あのAIはコピーされ、いずれすべての機械兵に搭載されます。学習し、進化し、人間を効率よく排除するためのAIとして」

 

許されたものではない。これは仮説だけれど、もし『家守こもり』が人間とコミュニケーションをとることで人間の弱点を知り進化して人間を処分するためのAIになろうとしているのなら、全ては掌の上で転がされていたことになる。何に?誰に……?

 

「それは、本当ですの?」

「ベールさん!?」

 

また新手か、なんて思考する余裕すらない。ベールさんもベールさんで、主題はあのAIの目的だ。シーリィから事実を聞かされ、落ち込んでいる。だがそんな感傷も警報音がかき消していく。どうやらベールさんを認識したせいでより警戒レベルが上がったようだ。やはり女神には見せられないものを造ってることはこれで確定……!

 

「……時間がありません。AIの消去を優先して実行します」

「こもりさんを消す……?そんなのだめだよ!」

「なぜ止めるのです?人々の脅威となりえる物の消去は、あなた方にとっても利になります」

「……そうだね」

「夕ちゃん!?」

 

ボクはシーリィに同意する。施設の破壊ができないと判断された以上、機械兵の身体は生産されていくだろう。だけれども、脳となるAIを消しておけば脅威の度合いは下がる。今のうちに潰しておくのが得策だ。

 

「そんなのまだわからないよ!」

「ギア、気持ちはわかるけどそう造られたものなんだ」

「でも!夕ちゃんも見てたでしょ!あんなに楽しそうにしてたこもりさんを!」

「見てたよ、だから消すんだ。楽しかった思い出を楽しいままでいられるように」

「……ッ!」

「楽しかった思い出を、自分の手で壊させるなんてそんなことさせて良いの?ボクは嫌だよ、そうなった人を、ボクは知っているから……!」

「それでも!それでも、こもりさんを消すなんてことはさせたくない!もしも、もしもこもりさんが機械兵になって人々に害をなすって言うんだったら……私が、私たちが止める……!」

 

強い眼差しでギアはボクを見る。その目はボクの知っている『守護女神ネプギア』の片鱗を感じる物だった。

 

「そうね、ネプギアの言う通りよ」

「わたしたちがやっつけてやるんだから!」

「だから、AIさんを消さないで……!」

 

皆の懇願が反響する。ここまで言われてはボクも何も言えない。だけど。

 

「拒否。任務を優先します」

 

やはり情には流されてはくれない。だとするならもう、残された手段は一つ。

 

「……こもりるはわたくしの妹。リーンボックスの国民ですわ。それを消すというのであれば、守護女神であるわたくしが黙っていませんわよ!」

「……任務に障害が発生。不可抗力ではありますが、戦闘を開始します」

「っ、来る……っ!」

 

AIの命運を決める戦闘が始まる。

 

 


 

 

シーリィは羽のようなユニットで攻撃も防御もこなしている。戦闘中の会話で聞こえてきたのは、何者かの命令によってAIの消去を実行しているということ。ロムちゃんラムちゃんはそれをいじわるだと言っていたが……あの動き、戦闘に集中しきっていないか。なら付け入る隙はある。第一、ボクはこういう変幻自在な相手は慣れてるからね。

 

「合わせてギア、突っ込むよ!」

「うん!」

 

正直ボク個人としてはシーリィと戦う理由はない。だけど向こうからすれば任務を妨害してくる連中、その一人だ。ボクに対してだって攻撃してくる。けどもう、見切った。

 

「……ッ!」

「行くよ、《音速たる隠密の痛撃(ソニック・スニーク・ストライク)》ッ!!」

 

シーリィの羽の防御をかいくぐり、腕らしき部位に一撃を入れる。手ごたえはあるけど本体にも何かしらの防御があるせいか傷は入らない。でも、ボクの狙いはそこじゃない。急速接近するボクという質量。それによってシーリィのバランスを崩すことで羽やセンサーの死角を作る。

 

「これでっ!」

「えぇい!」

 

先の機械兵と同様に氷塊と重火器の弾幕が飛び、ネプギアが詰めに正面から斬る。

 

「退避を検討……可能。任務、一部完了」

 

目に見えるダメージはないが、シーリィは退いていく。一部完了……?片手間だったのはそういうことか。

 

「追うわよ!」

「うん!」

 

撤退していくシーリィを追いかけていく。でもその先で目にしたものは、やはりシーリィが正しかったと、そう思わざるを得ないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第九話「AI,覚えていますか」

感想、評価等、お待ちしております。
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