悟様、いい加減にしてください 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
人の怨念、怒り、殺意といった負の感情が溜まると呪いが発生する。呪いに対抗出来るのは同じく呪いだけ。
そこから生まれた存在を呪霊と呼び、それを祓い人々を守る者達を呪術師と呼ぶ。
京都にある武家屋敷に少年、源綱時は呼び出されていた。
目の前には白髪に黒いサングラスを掛けた青年がいる。
「という訳で綱時は東京校に来て貰うから」
「悟様、僕は京都校への入学が決まっていた筈です。勝手に決めては他の御三家の方々も黙ってはいないかと思います」
現代呪術師の多くは呪術高専という表向きは仏教系の高専に通っており、そこで呪術師としての技量や知識、経験を積む。日本には東京と京都にそれぞれ一校ずつあり、綱時は家の決定により京都校への入学がきまっていた。
「京都にはそれこそ源の本家だってあるし、他の御三家も固まってんじゃん。こっちは俺1人で寂しいから綱時貰うってお話してきたから」
呪術師というのは社会的にマイノリティな職種であり、特殊なコミュニティが形成されている。
その中で、特に伝統深く権力を持つ一族が3つあり、それらを総じて御三家と呼ぶ。
「はい、これ制服ね。アレンジは適当にしといたから」
青年から手渡された制服を受け取る綱時。高専生は呪術師としての側面を持つ為、それぞれのスタイルに合わせて制服のアレンジをする事が認められている。
綱時の制服は上の服がロングコートとなっており、内側には様々なものが収納出来る様になっていた。
「あの、なんで長ランみたいになっているんですか」
「カッケぇじゃん。あとお前の術式便利だけど、幾つか持ち歩いた方が良いじゃん。多少は実用性も考えてやってんだよ。感謝しろ」
ビシッと指を刺しながら威圧的に話す青年にため息を吐く綱時。
「そうですね、悟様には何を言っても無駄でしたね」
「あ、あとこれから先は俺の事様付けすんなよ。敬語も辞めろ」
「はぁ?五条家の長男で当主の貴方に敬語を辞めろと?頭に呪霊でも湧きましたか?」
悟と呼ばれる青年は御三家の一角、五条の長男であり、現状三人しかいない特級術師の1人である。
そして、名実共に呪術界最強であり、この男の言動一つで呪術界が大きく動く。
家の事情的にも、術師の等級的にも綱時が悟に敬語を使わない訳にはいかないのだ。
「その様子なら問題ねぇわ。それはそれとして後でマジビンタな」
「何故敬語はいけないのですか。源家が御三家の懐刀っていうのは呪術師の共通認識ですし、そんな僕が悟様に敬語を使わないというのは変な話では?」
綱時の家系は代々呪術界に君臨する御三家に仕えている一族だ。呪術界では御三家を語るには必ず源家を語らねばいけないと言われるほど有名になっている。
「まぁ、割とそうなんだけど東京にいるのに変に気を遣われるとなんかダルい。あと傑達に見られると笑われそうだから」
「傑というと………特級の夏油傑様でしょうか。お話には聞いていましたが、東京校に特級が2人というのはパワーバランス的に偏り過ぎじゃないですか」
術師には四から一の等級が与えられており、能力や強さを測る一つの判断基準となっている。その中で特級とはそれらの枠組みでは収めきれない程の能力を持った者を差す。
「そんなもん俺の知った事じゃねぇよ」
「まぁ、それは僕にとってもどうでも良い事ですが京都から離れるのはちょっと……………」
「禪院の所の子だっけ。マジでロリコンになったの?」
源家は家柄状、御三家との結びつきが強い。一族の大半は御三家の中の誰かと結婚する事が多い。
綱時も例外では無く、禪院当主の弟の娘との婚約の話が上がっている。しかし、綱時の年齢は15で相手の年齢はまだ4歳、綱時の一回り近く離れている事もあって渋っていた。
「んな訳無いでしょ、ぶっ飛ばしますよ。というか悟様は理由を知ってるでしょ」
「ん?呪力が無いんだっけ。禪院のやり口は陰険だよな」
「加茂や五条よりも術式と術師を重要視してる禪院で呪霊を見る事すら出来ないという事がどういう事か、貴方も分からない訳じゃないでしょ」
禪院家というのは禪院家あらずんば呪術師にあらず、呪術師にあらずんば人にあらずと公言する程術式と家名を重要視している。
綱時の婚約相手である女児は呪霊を認識するほどの呪力も無い。そして呪術界では双子は凶兆と呼ばれている事から姉妹の扱いは酷いものである。
綱時は姉妹への冷遇改善を当主へと訴えた。その見返りとして婚約を決められてしまった。
「五条で引き取れなくもないけどちょっと面倒臭いからな〜。まぁ、綱時が東京校に来てくれるならその…………誰ちゃんだっけ?」
「禪院真希です」
「その真希って子を東京校の方で預かるくらいは出来るよ。妹ちゃんの方も連れてくれば禪院も手出しは出来無いでしょ」
かなり無茶苦茶な事ではあるが、悟がいえば大抵の無茶は押し通する事が出来る。
しかし、綱時はその提案をやんわりと断った。
「真依ちゃんも真希ちゃんも、高専入学までの身の安全というか、ちゃんとした生活をさせる事を直毘人様に約束させました。縛りも入れましたし、反故にした場合は禪院家に貸し出してる呪具の剥奪という書面も書かせました」
「あのジジイがわざわざ縛りに応じたんだ。よっぽど綱時を引き込みたいんだね」
縛りとは、術師同士で結ぶ絶対遵守の約束のようなものでどんな術師であっても縛りを破るという事はしない為、呪術界において縛りを結ぶというのは余程のことが無い限り起きない。
綱時の立場は呪術界ではかなり重要なポジションで御三家の中では自分の陣営に引き込みたいという考えの者は多い。
「真希ちゃんとの婚約を決定するまでは2人を屋敷から一歩も出さないっていう感じです。なのであの子達を東京に連れてくのは無理ですね」
「それはしょうがないか。それより、この後暇?」
「今日はもう特に用事は無いので帰って荷造りを済ませてゆっくりしようかと思います」
呪術高専は全寮制である為、京都校に通うとしても東京校だとしても荷造りはしておかなければならない。
「じゃあ荷造り終わったらまた来なよ。綱時がどれだけ強くなったか試してあげるよ」
「なるほど、急いで荷造りを済ませて身勝手な主人のケツを引っ叩くとしましょう」
綱時は笑みを浮かべながら悟を挑発する。その瞬間、僅かに悟の眉が動いたのを綱時は見逃さなかった。
五条悟という男は訓練であっても手を抜くような男ではない。まともに戦って勝てる者は誰一人として存在しない。それこそ、呪術師の間で伝説として語られている両面宿儺でもなければあり得ない。
そこで僅かにでも勝率を上げる為綱時は悟を挑発した。悟を最強たらしめる術式は繊細なコントロールが必要とされる。
それが怒りによって僅かでも乱されれば隙が生まれる。
「俺が人類史稀に見る人格者で助かったな、綱時。待ってるから早く準備してこい」
サングラスを外し、青く光る瞳を覗かせる悟。その額には青筋が浮かんでいた。
以前投稿していた時と内容は概ね同じだったりしますが、ちょくちょく変えてます。
良かったらコメント、感想くれると嬉しいです。