悟様、いい加減にしてください   作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)

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このゴリラ、強すぎるって…………

簡易領域の範囲を狭め、反応速度を上げるという綱時の博打は成功した。

 

捉える事すら出来なかった甚爾のスピードにある程度ついていけるようになったのだ。

 

 

「お前とここまでやり合える日が来るなんてなぁ‼︎師匠として鼻が高いぜ‼︎」

 

 

「貴方まともな指導なんてした事無かったでしょう‼︎」

 

 

綱時と甚爾の出会いはかなり遡る。源家としての仕事で禪院に訪れた際、気まぐれで散歩していた甚爾と出会った事がきっかけだった。

 

幼いながらに甚爾の異質な強さを感じ取った綱時は父を通し、禪院と交渉し甚爾に師事する事を取り付けた。

 

しかし、甚爾がまともに技術を教えるという事が出来る訳もなく、来る日もくる日も甚爾は日頃溜め込んだストレスを発散するかのように綱時をボコボコにしていた。

 

しかし、次第に綱時は甚爾の加減に加減を重ねた動きについていけるようになり最後には反撃すら出来る様になった。

 

 

「シン・陰流とやり合うのは初めてだが、中々面白ぇ」

 

 

「お気に召したようで何よりです‼︎」

 

 

激しさを増し続ける剣戟。拮抗しているように見える状態だが綱時の傷は少しずつ増えている。

 

簡易領域を纏い何とか甚爾のスピードについていけるようになっているが、呪力で強化してるとはいえパワーという点で見れば綱時は負けている。

 

 

「確かに面白い技だが種も分かってきた」

 

 

そう言うと甚爾は自身に巻きつけた呪具を収納出来る呪霊から一本の呪具を取り出す。

 

長さで言えばまさに短剣といった長さだが、その纏っている呪力そのものが異質だった。

 

 

「天逆鉾…………ですか」

 

 

「良いだろ?これ結構高かったんだぜ?」

 

 

「貴方が術師殺しって言われてる理由も、悟様に勝てた理由も理解出来ましたよ」

 

 

天逆鉾は特級呪具の一つで、その能力はあらゆる術式の発動を解除するというもの。呪術戦において等級が高ければ高いほどアドバンテージを取る事が出来る呪具だが、天逆鉾はその中でも別格といえる。

 

術師にとって術式の強制解除は攻撃手段を失うということになる。そんな強力な効果に加え甚爾の異常な身体能力が加われば、術式頼りの術師は甚爾に勝つ事は出来ない。

 

 

「流石に綱坊はこいつの能力把握してるか」

 

 

「優秀な呪具ですが、僕に対しては意味無いですよ」

 

 

「それならよぉ、なんで半歩下がってんだ?」

 

 

「気のせいじゃないですか」

 

 

綱時は甚爾が天逆鉾を取り出した時、反射的に反応後退していた。綱時が今甚爾と戦えているのは簡易領域のお陰である。

 

これはゼロから自身に術式を付与する技術であり、天逆鉾の効果対象である。

 

なんとか戦えているの状況で簡易領域を剥がされてしまえば綱時は一気に不利になる。

 

それだけでは無く、簡易領域・纏は非常に難易度の高い技で今の綱時では成功するかは五分五分であり発動までの時間もかかる。

 

そんな隙を甚爾が逃す訳が無い。

 

 

「まぁいい。やっと身体があったまってきたんだ。簡単に死ぬなよ、綱坊」

 

 

右手に釈魂刀、左手に天逆鉾を構え、動き出した甚爾。目にも止まらないスピードでの斬撃もなんとか防御する綱時。

 

天逆鉾の攻撃は可能な限り避け、無理なら童子切安綱で受ける。これを繰り返すが綱時の意識は明らかに天逆鉾に向き過ぎていた。

 

 

「昔よりマシになったが、そういう所は変わらねぇな」

 

 

バックステップで綱時と僅かに距離を取ると甚爾は天逆鉾を綱とに目掛け投擲する。綱時は咄嗟に童子切安綱で弾いた。

 

すると、目の前には甚爾の姿は無かった。その直後、簡易領域・纏のおかげで反射的に振り返るが、その時には既に甚爾が釈魂刀を振り抜いていた。

 

 

「その簡易領域のお陰か。胴体真っ二つにしてやったつもりだがまだ繋がってるみてぇだな」

 

 

簡易領域・纏のお陰で辛うじて反応出来た綱時は即座にバックステップをするがそれでも脇腹を深く斬り裂かれてしまった。

 

ここにきてまともにくらってしまった一撃。脇腹からは流れ出る血が止まらなくなっている。

 

 

(不味い、反転術式を……….反転術式をかけなきゃ)

 

 

「そういう所がまだ未熟なんだよ」

 

 

反転術式には高度な集中力と技術が求められる。甚爾という強敵と戦っている中での大ダメージ、出血からくる焦り、まだ発動出来ないでいる反転術式を成功させなければいけないという重圧から思考が止まりかけた。

 

そんな隙を甚爾が見逃す筈もなく、綱時が気付いた時には甚爾の拳が綱時の顔にめり込んでいた。

 

天与呪縛のパワーから繰り出される渾身の拳をくらい、吹っ飛ぶ綱時。

 

 

(は………んてん………じゅ…………)

 

 

どれだけ意識を集中させようとも、呪力をかき集めようとも思考はおろか、意識すらまともに働かなくなっていた。

 

 

「あばよ、綱坊。存外楽しめたぞ」

 

 

綱時の意識が完全に無くなったのを確認した甚爾は踵を返し、夏油達の消えた気配を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『綱時、綱時や。愛しき我が子や。目を覚ましなさい』

 

 

突如脳内響く女性の声に違和感を覚える綱時。自分の意識が薄らいでいくのを感じていた、致命傷も受けた。

 

普通に考えれば自分は死んだものだと思っていたのだ。しかし、なぜか自分は意識を取り戻し始めており、何故か声が聞こえる事に困惑した。

 

 

これが走馬灯というものなのか、無理矢理納得させる綱時。仮にあの状態から生き残ったとして、甚爾がトドメを刺さない訳が無いのを綱時は知っていた。

 

 

『あらあらうふふ、困惑する我が子も愛しいものです』

 

 

綱時に両親は健在であるが、綱時の母は古風な話し方をする人間では無かった。そしてなにより綱時の知る母の声とは全く違った。

 

優しい声音ではあるがある種狂気を孕んだような話し方などでは消してない。

 

 

『目を覚ましなさい、愛しい我が子よ。必要とあれば母はいつでも力を貸します。その為に貴方の側にいるのですから』

 

 

声の主の真意がよく分からず、なんとか真意を探ろうと考えを巡らせるがどれもピンと来るものはなかった。

 

次の瞬間、暗闇で意識だけが働いている状態だった綱時に覚えのある呪力が流れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪具を一旦収納しなおし、大きく身体を伸ばす甚爾。

 

 

「気配はそこまで遠くねぇし、時間も思いの外ある。あの様子じゃ前髪殺すのもそんなに難しくはなさそうだしな」

 

 

甚爾は呪力がない故に呪力そのものを感知する事が出来ない。培った経験や、勘、匂いなどで察知していた。

 

それ故に気づかなかった。倒れ込んだ綱時に莫大な呪力が流れ込んだ事に。

 

しかし、その磨き上げた勘はすぐに察知する。背後から感じる異質な気配。死んだ筈の綱時が立ち上がる気配を甚爾は感じ取った。

 

次の瞬間、甚爾は咄嗟に回避行動を取りつつ振り返る。

 

 

「『あらあらうふふ。中々鋭い方ですね』」

 

 

背後にいたのは倒れたはずの綱時。流れ出ていた筈の血も止まっており、生きていたとしても死に体の筈だが、元気に立っていた。

 

 

「なんだ、てめぇは?」

 

 

「『なんだとは失礼ですね、綱時でございます』」

 

 

「綱坊はそんな気色悪い話し方なしねぇし、そんな角なんか生えてねぇぞ」

 

 

今の綱時は紫電の呪力が帯電しており、額には日本の角が生えている状態である。

 

 

「『我が子の指導をしていただき感謝します。僅かばかりの返礼ですが、一手指南して差し上げます』」

 

 

「聞いてねぇのかよ」

 

 

甚爾は再び釈魂刀を取り出し構える。目の前にいるのは綱時ではない別の何か。それでも僅かな油断どころか、死ぬ気で向かわなければ即座に殺されるとすら感じていた。

 

 

「『来ないのですか?なら、こちらから行かしていただきます』」

 

 

本能で命の危機を察したからなのか、甚爾は咄嗟に綱時の攻撃を受け止めた。

 

受け止めた衝撃、伝わる重圧感は先程まで戦っていた綱時とは比較にならない。

 

 

「『本当に勘の良い方ですのね。我が子の指導をしていただけはありますね』」

 

 

「我が子ってあんた綱坊のなんだよ」

 

 

「『母に決まっているでしょう』」

 

 

甚爾ですら反応しきれない速度での剣戟。数回は防ぐ事が出来たが、全てを防げた訳ではなかった。本能的に致命傷となりうる攻撃をなんとか防いだ。

 

 

「綱坊の姿じゃなきゃ口説くのもアリなんだがな。子持ちなら諦めるしかねぇな」

 

 

精一杯の軽口。母と名乗る何者かの情報を少しでも引き出す為に軽口を叩く甚爾。

 

 

「『まぁ‼︎口説くなんて…………嬉しいお誘いですが我が子の手前、謹んで断らせていただきますね』」

 

 

「ならせめて、名前くらい教えてくれよ」

 

 

「『私に一撃入れる事が出来たのなら、教えて差し上げましょう』」

 

 

「なら意地でも一撃入れなきゃな………………」

 

 

甚爾は内心舌打ちをした。反応することすら出来ておらず、防戦に回っても防ぎきれないような相手に攻撃する事は無理にも等しい。

 

甚爾は刀を構えながら先ずは生き残ることを優先した。ここまでくれば天内の暗殺など考えている余裕は無い。

 

自分の培ってきたもの、体力や呪具全てを使い切っても生き残ろうとせねばいけない相手と甚爾は警戒して構えを取るのだった。




纏とかいうオリジナル技が出ましたが、まぁアレです。展延みたいなものです。
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