悟様、いい加減にしてください 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
「『ふふふふふ、あははははははははは‼︎』」
「クソがっ‼︎」
紫電を纏った攻撃は一撃が必殺の威力であり、高い身体能力を誇る甚爾ですらまともに受ければ即死となりうる攻撃。
そんな攻撃が、雨や嵐のように甚爾を襲うのだ。今の何者かが宿った綱時から逃げる事は不可能。であれば、防ぎきるしかない。いつ終わるか分からない嵐を耐え切るしかないのだ。
「『速さだけなら金時の遊び相手にはなれるでしょう。最も力は及びませんが』」
「源氏の棟梁様に認めて貰えるて嬉しい限りだよ‼︎」
「『あら?名乗っていないのに私の事をご存知なのですか』」
「金時って言えば、頼光四天王が1人、坂田金時だろ。んで、綱坊が持ってる童子切安綱とくればあんたの正体は自ずと見えてくるだろ。源頼光さんよ」
源頼光。呪術全盛平安時代に、頼光四天王という勇猛果敢、剛力無双の武士らを従え都の平和を守った伝説の武将。
それが綱時に宿るものの正体だった。どういった理屈で綱時に宿っているのか、どうして女なのか甚爾には分からない。
だが、童子切安綱が特級呪具として登録されている事を考えるのならそういった術式であると考えた甚爾は天逆鉾を取り出す。
「行くぜ」
攻められてばかりは性に合わないと甚爾は自分から攻勢に出る。
常人ならば粉微塵になるような攻撃も埃を払うかのように楽々と防ぐ。
(おかしい。綱坊の変化が術式によるものなら、天逆鉾で防いだ瞬間に解ける筈なんだが………………)
「『考え事をしている暇はありませんよ‼︎』」
死角から飛んでくるハイキックを咄嗟にガードするが、吹っ飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
ガードしても脳震盪を起こしかけるほどの威力。あまりの実力差に笑うしか無くなる甚爾。勝てる訳が無い、運が良くても悪くてもこのまま戦えば死ぬという確信。
本来なら勝ち目の無い戦いは避けるのだが、何故か最期まで抗ってみたくなった甚爾。
「『逃げますか?構いませんよ。逃がしませんよ』」
「だろうな。どうせ逃げられないなら…………アンタを殺す」
天逆鉾が有効打にならないのなら、力で負けているのならと刀と天逆鉾をしまう甚爾。
代わりに別の呪具を取り出す。朱色に染められた三節棍。
「特級呪具、游雲」
他の特級呪具とは違い游雲は単純な力の塊。それ故にその威力は使用者の膂力に左右される。
天与呪縛のフィジカルギフテッドがある甚爾以上に游雲を使いこなせるものは現代に存在しない。
(余分な思考は捨てろ、集中を切らすな、ただあいつを倒す事だけを考えろ‼︎)
游雲を構えながら突貫する甚爾。同じ特級呪具でありながら刀では無く、三節棍である游雲を選んだのには威力以外にも理由があった。
三節棍のような多節棍は大陸由来の武具であるため、幾ら頼光といえど見た事無いであろうと考えたのだ。
刀や槍といった日本にも古くからある武具の扱いに関して甚爾はまず勝てない。意表をつく為、小細工が出来ない相手には力を持って挑むと游雲を選んだのだ。
「『良い‼︎非常に良いです‼︎貴方であれば我ら源氏でも上手くやれるでしょう‼︎嗚呼、貴方が平安に生まれていなかった事が口惜しい‼︎』」
見慣れない筈の游雲の連撃を何でも無いかのように避け、何でも無いかのように防ぎながら高笑いをする頼光。
「『貴方が全霊を尽くすというのなら、こちらも全霊を持って応えねば源氏の名折れ。行きます、〈牛王招雷・天網恢々〉』」
四つの雷と共に現れたのは4人の綱時ではなく、頼光だ。それぞれ黄金の雷纏し巨大な斧、豪炎を纏う刀、氷結する槍、烈風吹き荒ぶ弓を持っている。
「『これが頼光四天王…………いいえ、牛頭天王の神使達』」
「あいつ、やべぇ女に取り憑かれてんな………ちょっと同情するわ」
源頼光が何故牛頭天王の名を出すのか甚爾には分からないが、源頼光という女性が厄介な女であることを再認識した。
牛頭天王は帝釈天、インドラの眷属とされていたりスサノオノミコトとも見られていた。つまりは神そのものである。頼光との関係性は謎であるが、甚爾にとって頼光が女性として口説くのは御免だと思うような女である事は確かだ。
そんな女に息子認定されている綱時を甚爾は少しだけ不憫に思うのだった。
「『我が子を指導していただいた貴方の全霊に応える為に捧げましょ………………‼︎』」
突如として分身が霧散した。甚爾も頼光もお互い何が起こったか分からないといった表情だが、甚爾はこれを好機と捉えた。
游雲を構え頼光へ近づく。頼光はすぐに反応するが、動きが鈍くなっていた。
背後に回り込み、死角から游雲を叩きつける。
「『ぐぅっっっ‼︎……………………やりますね。どうやら私はここまでのようですが、機会があればまたいずれ』」
壁に叩きつけられるという事は無く、童子切安綱を地面に突き刺し、なんとか踏み止まる。何かを悟ったのか頼光は甚爾に別れを告げる。
すると、綱時の身体から金色の粒子が溢れ出し、2本の角が消え、童子切安綱がいつの間にか消え、先程まで甚爾が感じていた重圧が消えた。
綱時は身体のあちこちから血が垂れ流れており、今にも倒れそうになっていた。
「どうやら…………母?が世話になった……ようで……………」
「息も絶え絶えじゃねぇか。大丈夫かよ」
「いえ、何故か凄く調子が良いんです。最高の気分ですよ」
甚爾すら圧倒する超人的な動きをし続けた代償は大きく、身体のあちこちから血が流れ出ていた。しかし、その血は気がつけば止まっており、肩で息をしていた筈の綱時は普通に話せるようになっていた。
高笑いすらしそうな程機嫌が良く、見るからにハイになっているようだった。
「反転術式ですよ。安綱…………頼光公のおかげで近づけたんです。呪力の核心に」
呪力とは負のエネルギーで、負のエネルギー同士を掛け合わせる事で正のエネルギーを生み出すことが出来る。
それを術式として転用すれば怪我の治療をする事が出来る。それが反転術式だ。
「そうかい、それは良かったな」
甚爾は今度こそ綱時を殺す為に游雲をしまい、刀の呪具を取り出す。
「最終ラウンドですよ‼︎」
刀を構えた甚爾に臆する事なく全力疾走で近づく綱時。
(幾ら反転術式を使ったからってよ、体力まで回復した訳じゃねぇだろ)
反転術式は怪我の治療は可能だが、呪力や体力の回復は出来ない。もう既に大量に血を流しており、疲労もある筈の綱時の攻撃は受けようが受けまいがあまり大差は無いと甚爾は考えていた。
しかし、念には念を入れ、綱時の右拳を躱して綱時を真っ二つにする事にした。
(ギアが上がった⁉︎さっきまでより断然速い‼︎)
呪力も消費し、体力も残っていない筈の状態で綱時のスピードが上がった。完全にタイミングがずらされた甚爾は一発を受け、その後トドメを指す方針へと変えた。
「はぁぁぁぁ‼︎」
咆哮を上げながら右拳を振るう綱時。
通常、術師は攻撃をする際呪力を乗せる事で己を強化して敵を倒す。しかし、その呪力と攻撃には必ず誤差が生まれる。
そうした攻撃と呪力の衝突の誤差が0.000001秒以内の時、空間は歪み、呪力は黒く光る。
その名を黒閃。その威力は通常の攻撃の2.5乗となる。つまり、呪力を伴ったクリティカルヒットだ。
そして、経験者と非経験者では呪力の核心との距離に天と地程の差が生まれる。
黒閃を狙って出せる術師は存在しない。それだけ稀有な現象である。
「僕の………………勝ちです………………」
幾ら死にかけの綱時の攻撃とはいえ、その威力は絶大で壁に叩きつけられる甚爾。そんな甚爾を見た綱時は勝ち誇った笑みを浮かべ、ドサリと倒れた。
単行本読み返してるけどマジでおもろい。
秤のバトルはどれも好きだし、乙骨の特級呪霊&3人の一級でも強い方な奴3人組相手になんだかんだ余裕もってたのとか本当好き。
1番好きなの東堂だから、本誌でも活躍してくねぇかな…………