悟様、いい加減にしてください 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
五条家の中庭はかなりの広さがある。呪術師というのは基本的に死の危険と隣り合わせの職業である為給料の支払いはかなり良い。
等級が上がれば相応に報酬と危険度が増えるが、特級にもなれば任務の危険性も報酬も桁違いである。そして五条家は御三家の一角という事もあり日本有数の大金持ちである。
しかし、五条家が広いのは御三家としての財産事情とは別のところに理由がある。
「何時でも良いぞ。どうせ俺が勝つから」
中庭の中央で軽くストレッチをしながら綱時に声を掛ける悟。
「分かりました。先手はいただきます」
綱時は姿勢を低く落とし、居合の構えをとり呪力を練る。しかし、その腰に刀は差されていない。
「来い、『童子切安綱』」
何処からともなく綱時の腰に一振りの刀が鞘に入った状態で現れた。
綱時が刀を握るとバチバチと紫電が迸る。
綱時が扱う術式は換装術式。マーキングしたものを呼び寄せる術式で源家が代々受け継いでいる相伝術式というものである。
源家が所有している呪具が収められている蔵から綱時の元へと呼び寄せている。
「毎回思うけどさ、童子切安綱の時だけちゃんと名前呼ぶのなんでなの?」
「うちにある一部の呪具は自我に近いものが芽生えてたりするやつがあるんですよ。こいつは顕著なんです」
「一部って言ってもアホみたな数あんじゃん。全部覚えてるの?」
「特殊なやつとか、等級が高いやつは把握してますよ」
「ふーん、ご苦労な事だ」
綱時の話はどうでも良いようにあくびをする悟。源家は術式の関係状、呪具を扱う事が多い。その為か源は呪具を数多く所有している。蔵に入っている呪具は四級から特級のものが多くあり、一説には日本の呪具の全ては源家のものと言われるほどでありその総数は次期当主である綱時すら把握し切れていない。
「それより、もういいですか?」
「早く来いって。どうせ当たらねぇから」
目にも止まらぬ速さで悟の懐へと潜り込む綱時。常人の出せる速度では無いが、呪力によって肉体を強化すればそれも可能となる。
綱時の術式はマーキングしたものとの位置が離れれば離れるほど消費する呪力が多くなるが、一度に呼び出す呪具の数は少なく余程のことが無ければ一つか二つ程度である。
そんな綱時の戦闘は基本的に呪力によるゴリ押しである。呪力で可能な限り身体能力を上げ倒す。
これで大体の呪霊は祓える。しかし、悟には届かない。
「当たらないとはいえ、喉狙いとか怖っ」
「余裕なくせに何言ってんですか」
綱時が悟の喉元目掛け放った一撃は当たる寸前で止まっている。
「いやいや、また速くなったね。呪力の扱い上手くなったんじゃない?俺には当たらないけど」
「六眼と無下限の組み合わせが無敵とか思ってます?貴方が思っているより穴はあるものですよ」
悟が最強たる所以は彼の持つ五条家相伝の術式とその眼にある。
悟の眼は五条の者に発言する特殊な眼の事で、初見の術式の情報を読み取れたり綿密な呪力操作を可能とする。
そして無下限呪術はありとあらゆる物の間にある無限を自在に操る術式である。この術式を発動している間はありとあらゆる手段で悟に干渉する事が出来なくなる。
「俺が敵前で術式を解除すると思ってんの?」
「それをしないから貴方は最強なんでしょう」
綱時は縦横無尽に動き、死角を突きながら攻撃をする。しかし悟と綱時の持つ童子切安綱の間にある無限が悟に刃を届かせない。
「そろそろ反撃しよっかな‼︎」
「ガッ………」
埃を払うように童子切安綱を退けると綱時の襟首を掴み強烈なボディブローをいれる。
六眼を用いた呪力操作で引き上げた身体能力から繰り出される打撃は圧倒的な威力を誇る。
「ほらほら〜、まだまだ行くぞ〜」
二発、三発と好き放題殴る悟。振り払おうにも、防御しようにも間に合わない。
「『術式順転・蒼』」
悟の指に集約された青い呪力が集約される。その威力悟の術式はその火力も呪術界最強を誇る。その術式の訓練するには半端な広さの場所では叶わない。
不意に発動しても大丈夫なように五条家の中庭は広く作られている。
無下限呪術とは言ってしまえば引き寄せる術式だ。術者である悟に近づくものは悟との間にある無限により近付くにつれ無限に遅くなる。そしてそれが意味する所は術式発動中の悟に触れる事は永久に出来ないということ。
その無限に引き寄せる性質の術式を呪力の操作によって更に強化すればどうなるか。
悟が発する呪力の変化を感じ取った綱時はすぐに距離を取ったが遅かった。
悟の術式によって強制的に引き寄せる周囲は破壊され綱時は抵抗する事も出来ず悟の間合いまで引き寄せられてしまう。
「くっ………」
その引き寄せる力は小さなブラックホールのようなもので貧弱な一般人であればそれだけで挽肉になってしまうだろう。決して人に向けて良い技では無い。
「まずはイッパーツ‼︎まだまだおかわりもあるぞ‼︎」
悟の拳が深く綱時の腹へとめり込む。続け様に二発、三発という拳が腹へと突き刺さる。
常日頃から鍛錬を積み、呪力で肉体を強化していても軽傷では済まないだろう一撃。
十数発殴った悟は飽きたと一言呟き綱時を投げ捨てる。
「ま、弱くはなってねぇみたいだし、それならこれからもやってけるだろ。じゃあな」
「何を勝手に…………勝ち誇って、やがる………んですか。まだこっちは降参してないでしょうが」
踵を返し部屋へと戻ろうとする悟は息絶え絶えとなった綱時の声に足を止めた。振り返れば、童子切安綱を杖にしながらボロボロの身体を起こす綱時の姿がある。
諦めず自分に向かってくるその強くイカれた精神性こそ悟が綱時を最も評価しているポイントだ。
ゆっくりと悟に近付くがその足取りは重く、一歩がまともに踏み出せていない。悟の執拗な腹への攻撃は綱時にとって地獄のような苦しみでダメージを与え、体力を削った。
並の人間であれば挽肉のような何かになっているであろうダメージを負い、まともに動くことも出来無い筈なのだ。
しかし、綱時はそれを気力だけでなんとかしていた。
「はぁ…………その根性を認めるけど、立ってるのもやっとって感じじゃん。やめとけよ、死ぬぞ」
「まだ…………まだ、悟様に一発もぶち込めて無いんで……………ゴフッ‼︎」
「おいおい、もうやめとけって。お前ならそのうち俺にも一発くらい打ち込めるようになるって。だから今日はもうこの辺にしとけって」
膝をつき血反吐を吐く綱時。それも当然だ。常人であれば即死するような攻撃を何発もその身で受けたのだ。呪力で身体を強化していなかったら何回死んでいるか分からない程のダメージが綱時にはある。
慌てて駆け寄る悟。綱時であれば死なないであろう範囲で加減したつもりの悟だが、これ以上攻撃すれば綱時を殺しかねない為何としても止めねばいけなかった。
「そんな悠長にしてたら………また貴方に、置いてかれるでしょうが‼︎」
「何言って……………はぁ、分かった。今日は俺の負けにしといてやるよ」
わずかに残っていた気力と体力を総動員し、呪力を体に巡らせ悟の背後へと回り込んだ。
綱時が自分の視界から消えた事に驚き、慌てて振り向く悟。
そこには童子切安綱を突き立てようとしてそのまま力尽きた綱時がいた。
「ね……………無下限だって意外と…………穴がある………もんで………………」
綱時は言い切る事は無かった。それも当然だ。本来ならば意識が飛ぶほどの痛みで起き上がることも出来ない身体を無理矢理動かしていたのだ。
「全く……………手の掛かる奴だな。硝子に見せとけばなんとかなるだろ」
悟は使用人に綱時の応急処置を施し、容体が安定したら東京の方は運ぶように指示した。
その後屋敷を出た悟を待っていたのは、黒い高級車。側にはスーツ姿の男性の姿があった。
「そこの補助監督さん、どったの?俺忙しいんだけど」
術師の任務には補助監督と呼ばれる人材がつく。基本的には術師の送迎、任務地での人祓いや帳と呼ばれる結界を張る事が仕事である。
「五条特級術師に緊急の依頼です」
「あっそ。じゃあ資料ちょーだい。その代わりにある程度処置が終わったら綱時を東京校まで連れてっといて。連絡は俺からしとくから」
「分かりました。それでは、こちらをどうぞ」
綱時を受け取り車内に入れると、少し分厚くなった紙の束を悟に渡す補助監督。
「サボったりしないでくださいね」
「分かったっよ。クソが…………この程度、俺じゃなくても京都の誰か適当にあてとけば良いだろうがよ」
紙の束を放り投げると悟は玄関を出て何処へ向かっていった。補助監督はその様子を見て小さくため息を吐くと悟が捨てた資料を拾い、屋敷の奥の方へと向かった。
呪術廻戦今激アツですよね。