悟様、いい加減にしてください   作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)

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悟様、知らない天井です

「あっ、起きた」

 

 

綱時が目を覚ますと、そこは見知らぬ一室だった。辺りを見渡せば医療器具のようなものや消毒や包帯といったものがある事から医務室である事は分かった。

 

綱時が寝ていたベッドの横では一人の黒い髪を短く切り揃えた少女が紫煙を燻らせていた。

 

綱時が起きたのに気付くと少女は煙草を灰皿に押し付け火を消す。

 

 

「大丈夫?一応安静にしてれば大丈夫なラインまで治したけど内臓のダメージとか酷かったしなんか後遺症みたいなのあったら教えて」

 

 

ずいっと顔を近づけて、綱時の身体をあちこち触りながら様子を伺う少女。

 

 

「あっ……………いえ、大丈夫です。自分丈夫なので」

 

 

「何照れてんだよ、童貞かよ」

 

 

いつのまにか医務室に五条が入ってきていた。

 

 

「なに覗き見してんですか悟様」

 

 

「うわ、マジで様付けされてんだ。ウケる」

 

 

特に表情を動かす事もなく淡々と触診を続けながら呟く女子。

 

 

「だから高専で様付けは辞めろって言っただろ。あと硝子、笑ってんじゃねぇ」

 

 

「しょう…………こ?」

 

 

「そういえば自己紹介してなかったね。私は家入硝子。そこのクズと同級生」

 

 

綱時はその名前に聞き覚えがあった。家入硝子、呪術界において数少ない他者への反転術式を使用出来る女術師。

 

呪力は基本的にマイナスのエネルギーである。そのマイナスのエネルギーにマイナスを掛け合わせる事で負が正へと反転する。

 

そうして生まれた正のエネルギーは身体の治癒や術式の更なる解釈へと繋がる。

 

そもそもの難易度から呪術師の中でも反転術式を使用出来る者が少なく、他者へと使える者はもっと少ない。そうしたことから家入硝子という存在は五条悟、夏油傑と並んで呪術界において稀有な存在として知られている。

 

 

「こんな所で反転術式の使い手に会えるなんてかんげ……………え、高専?ここ呪術高専なんですか?」

 

 

「そうだよ。そして君は3日間目眠ったままだったんだ。正直死んだと思ってた」

 

 

「3日⁉︎いや、その、お二人がいるって事は東京ですよね。僕の荷物は⁉︎」

 

 

悟と綱時が試合をした後、補助監督に東京まで運ばれて高専で治療を受けた綱時は一週間近く目を醒さなかった。

 

軽い試合ぐらいのつもりだったが、綱時の成長思ってた以上だった事もあって思わず術式順転を使った悟。

 

それでも向かってくるものだからこの際思いっきりやってみようと考えてたらやり過ぎたと硝子に経緯を語った。

 

経緯を知った時硝子は悟をクズと罵った。しかし、悟がクズなのはいつもの事なので最低限死ななければいいかと切り替え治療するに至った。

 

 

「寝込んでた事より荷物の心配とかウケるね、この子」

 

 

「お前の荷物は寮に運んであるから。硝子の許可が出たらそっちで寝泊まりしろよ」

 

 

「なんだ、五条。もう帰るのか?」

 

 

「俺は忙しいんだよ。舐めんな」

 

 

そう言うと悟は医務室のドアをピシャリと閉めた。そして医務室は静寂に包まれる。

 

会話の糸口が掴めないのだ。綱時は人見知りでは無い。御三家の付き人という立ち位置である以上見ず知らずの御三家や偉い人に会う機会などこれまで数えきれない程ある。

 

しかし、そんな綱時も同じ年頃の異性と一対一で会話する事はあまりない。

 

 

「あっ、あの、ありがとうございました」

 

 

「別に気にしなくていいよ。五条の無茶振りは今に始まった事じゃないし、こっちも勉強になる。それに、死にかけた怪我人放っておけるほど薄情ではないよ」

 

 

「ありがとうございます……………家入先輩」

 

 

「あぁ、よろしくな。源」

 

 

素直に頭を下げる綱時を不思議に思う硝子。硝子の知る術師とは悟のようなとても社会生活を送れるような性格をしていないゴミみたいな性格をしたイカれ野郎という認識なのだ。

 

 

「あっ、あの‼︎家入さ「あっ、硝子。言い忘れてたけどそいつ一回り近く歳の離れた許嫁のいるロリコンだよ〜」………………」

 

 

数秒前の異様な空気から一転し温かな空気になったのを見計らっていたのか、いないのか。現代呪術師の頭痛の種とも言われる悟が医務室のドアを開け、顔をだけ出しながらとんでもない爆弾を投下した。

 

 

「おま、ちょ、悟様⁉︎待ってくだっ…………逃げんなコラァ‼︎」

 

 

「あっ、ごめん。私ロリコンだけは無理なんだ」

 

 

綱時は忘れていた。家入硝子という女も五条悟と机を並べている同級生である事を。

 

呪術師という生き物は大なり小なりマトモな神経ではやっていけない。全員どこかしらのネジが外れている。

 

その中でも五条悟という男は輪をかけてイカれている。家柄、才能、実力、容姿どれをとっても超がつく一流であるのに性格が完全にクソ野郎のソレである。綱時は悟の我儘や無茶振りに何度も振り回されてきている。

 

そんな悟と同級生をやっていられるのだ。マトモな神経であるはずがない。

 

 

「いや、家の事情というか…………誤解なんですが…………」

 

 

「ウンウンワカッテルワカッテル」

 

 

無表情でハハハと乾いた笑いを浮かべながら明後日の方向を見てタバコに火をつける硝子。

 

家入硝子は見つけてしまったのだ。

 

長い期間、悟と付き合ってきたという綱時を最初は少し哀れに思っていた硝子。下手すれば悟のようなイカれポンチなのではと危惧していた。しかし、蓋を開けてみれば悟のような雰囲気から滲み出るクソさというものはなく、軽く話してみたら普通に良い子という認識だった。

 

しかし、実態は違った。綱時は普通に良い子ではあるのだが、叩けば鳴る玩具であると硝子は気付いてしまったのだ。

 

 

 

「禪院の当主様に決められたんです‼︎家柄的に断る事も出来なかったんです‼︎不可抗力です‼︎」

 

 

「好みは人それぞれだよ、源」

 

 

「断じて一回りも下の異性では無いですよ‼︎どっちかと言えば家入さんのような方が好みで「女に告白する時はストレートに言えよ童貞」それを言ったらお前も童貞だろうが悟様ァ‼︎」

 

 

またいつのまにか医務室に戻ってきていた悟が綱時の言葉を遮るようにドアを開ける。

 

 

「別に童貞じゃねーし」

 

 

「声震えて無いですか悟様?恋愛クソ雑魚童貞が無理すんなよ」

 

 

「はいキレたー、もうキレた。今度は手加減とかしねぇから。クソペド野郎」

 

 

「だから僕はロリでもペドでも無いって言ってんでしょうが‼︎」

 

 

硝子の存在を忘れたのか綱時はベッドから起き上がり、悟の胸ぐらを掴みかかる。悟も綱時の胸ぐらを掴みながら青筋をうかべる。

 

五条家では割と恒例になりつつある光景。この後悟と綱時の訓練という名の大喧嘩が始まり使用人達が胃を痛めるのだが、ここは五条家の屋敷では無い。呪術高専東京校の医務室なのだ。

 

 

「おい、喧嘩すんなら外でやれ特級馬鹿共」

 

 

「「は、はい」」

 

 

数分後、綱時の様子を見にきた補助監督が医務室のドアを開けるとタバコを吸いながら缶ビールを飲む硝子とその前で正座させられている悟と綱時の姿を見た。

 

補助監督はそっとドアを閉じ、自分が見た事を忘れて学長へと報告をしにいった。

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