悟様、いい加減にしてください   作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)

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親友ですか、ならばこちらは同級生ですよ悟様

悟との試合で負った傷も癒え、高専での生活を始めた頃、綱時は悟に呼び出され高専のグラウンドに居た。

 

 

「という訳で〜、綱時には俺の親友を紹介するよ」

 

 

「初めましてだね、夏油傑だよ」

 

 

「僕は源綱時です。なるほど、貴方が悟様…………悟さんのご友人の夏油さん。今日こうして会うまでは悟さんの妄言とばかり思ってました」

 

 

「もう一回死に掛けたいならいえよ」

 

 

 

「あははは、この子面白いね。悟が気にいる訳だ」

 

 

悟に遠慮なく物を言えるものは存外少なく、軽口を叩けるものはそう居ない。少なくとも夏油は悟との付き合いでそのような者を見た事が無かった。

 

青筋浮かべる悟をスルーして自分に握手を求める図太さも夏油が面白いと思うポイントだった。

 

 

「あの………一つ良いですか?」

 

 

「ん?何かな?」

 

 

「僕に憑けてる低級の呪霊は払っても良いやつですか?もし駄目なら退かして貰えると嬉しいんですけど」

 

 

「へぇ、悟が気に入ってるだけあって察しは良いんだね」

 

 

「気付いたのもありますけど、夏油さんの術式は聞いてました。あと、悟さんの友人やってる方が普通に挨拶する訳無いので、何か仕掛けられてもおかしくは無いかなと警戒してました」

 

 

綱時の背後には虫の翅が生えたような小型の呪霊が飛んでいた。これは夏油の術式である呪霊操術で操る呪霊である。

主従契約の無い呪霊を取り込む事で使役する術式でその上限は知られていない。

悟との共通点はどちらも規格外に強いという事。

 

 

「あっはははは、いいねぇ。気に入ったよ綱時」

 

 

「おい、お前ら何俺無視してくれてんの?」

 

 

「硝子も誘って今夜予定が無いなら街に行こうか。悟の面白い話とか聞いてみたい」

 

 

「良いですね。僕も高専での悟さんの話聞きたいです」

 

 

「お前らなぁ…………本当にいい加減にしろよ…………」

 

 

思わず後退りをする夏油。本気で怒った悟程厄介なものは存在しない。一度癇癪を起こしてしまえば周囲の建物は粉々になる。その為悟の周囲の人間は基本的に悟の機嫌を伺う事が多かった。

 

そんな中で夏油は悟を揶揄うことの出来る数少ない人物の1人だ。彼は引き際というものを弁えていた。

 

怒らせ過ぎると後が面倒臭い事になるとため息を吐きたくなる夏油を余所に綱時は携帯を弄り出す。悟はそれを見て更に青筋を浮かべる。夏油はいよいよ不味いとすぐに術式を使えるよう構えを取る。

 

その時、綱時の携帯の着信音が鳴り響く。次の瞬間、綱時の手には紙袋が握られていた。

 

 

「悟さん、これお詫びです」

 

 

「あ?」

 

 

「名古屋の方で人気な和菓子屋の看板メニューです。羽二重もちって言うんですけど今日のところはこれで勘弁してください」

 

 

「………………………」

 

 

ゴゴゴと空気が震える幻聴すら聞こえる悟の無言の圧力の中なんて事ないように和菓子を差し出す綱時に冷や汗が止まらない夏油。

 

 

「次はねーからな」

 

 

悟は紙袋を強引にひったくるとズカズカと寮へと戻っていった。その様子を見て夏油はホッと息を吐いた。

 

 

「癇癪を起こしそうになったら甘いもの与えとけば大人しくなります。あの状態になった悟さんに謝罪や話し合いをするなら先ずこうしなきゃいけないので覚えておいてください」

 

 

「そ、そうなのか。覚えておくよ」

 

 

「それじゃ僕はこれで。悟さんにお茶を入れてくるので失礼します。今夜の件、また後で連絡ください」

 

 

それではとダッシュで悟を追いかける綱時を見送る夏油。悟とは一年以上の付き合いで親友と言えるほど深い仲であるのは胸を張って言える夏油。

 

悟と付き合えているのだから自分も大概イカれていると思っていたが、自分よりも長い年月の付き合いがある綱時も大概おかしいとしみじみ思う夏油だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事件がありつつも、綱時は無事に高専へと入学した。自分以外の生徒は男子が2人だけと呪術師の成り手不足を痛感する綱時。長い付き合いになるのだから仲良くしたいと思う綱時だったが、同級生は2人とも一般人から呪術師になっている。

 

感性の違いから仲良く出来るか不安な綱時だったが思っていた以上に馬が合った。

 

そして悟や夏油、同級生達と任務や何かしらのトラブルに巻き込まれながら穏やかに三ヶ月が過ぎた。

 

 

「七海、綱時‼︎残り3体そっち行ったよ‼︎」

 

 

1人の男子生徒が綱時ともう1人の男子に警戒を呼びかける。

 

 

「了解です。綱時、そっち2体は任せます」

 

 

七海と呼びかけられた男子は金髪の髪を揺らしながら、手に持つ呪符の巻き付けられた鉈を振り抜く。すると斬りつけられた呪霊は血を吹き出しながら真っ二つとなる。

 

そして七海の横を通り抜けるように2体の呪霊が綱時目掛け突撃する。

 

 

「了解‼︎」

 

 

綱時は童子切安綱で一息に2体の呪霊を両断する。呪霊達の断末魔を背に刀を収める綱時。

 

それを見た七海ともう1人の男子が綱時へと駆け寄る。

 

 

「お疲れ様です、2人とも」

 

 

「うん、お疲れ‼︎」

 

 

「お疲れ様、灰原は呪力の操作が上手くなってきたね。七海はその呪具使い難くない?もし良ければ調整するけど」

 

 

綱時は2人を労いながら七海の呪具へと目を向ける。源家は呪具使いであるが呪具を生み出す呪具師の家系としても有名である。

 

元々呪術師に仕える武士の家系だったのが、呪力に目覚め武具を扱ううちに呪具使いへとなっていた事から呪具を生み出す術を編み出した一族として呪術師の間では語られている。

 

七海が使っている呪符が巻き付けられた呪具は綱時が作ったものだ。

 

 

「いえ、個人的には丁度いい塩梅です。あとはこちらで感覚を合わせます」

 

 

「七海だけなんか羨ましいな〜。俺にもなんか作ってよ‼︎」

 

 

 

「七海の場合は、呪具ある方が術式のイメージしやすいけど、灰原は呪力操作甘い所あるし、下手に道具使うより肉弾戦から慣らした方が良いと思うよ」

 

 

七海の鉈を羨ましそうにする灰原。御三家に関わってきた事もあり既に綱時は準一級という階級を持っている。

 

しかし、綱時のように実績の無い七海と灰原は最低の四級である。呪術に慣れる事から始めていかなければいけない段階であった為綱時は術式を発現している七海に呪具を用意した。

 

灰原は術式を持っていないが呪力量は七海よりも多く、既に二級相当のものを持っている。

 

 

「そうなんだ‼︎なら俺頑張るよ‼︎」

 

 

「言われるまでもなく、全力を尽くします」

 

 

屈託の無い笑顔で拳を握る灰原。それを見て小さく微笑む七海。七海と灰原と出会って三ヶ月程度しか経っていないが綱時にとって2人は掛け替えの無い存在になっていた。

 

これまで年齢の近い術師といえば悟のような御三家の関係者ぐらいしかおらず、比較的一般人に近い感性を持つ七海と灰原は綱時にとって唯一年相応に振る舞える場所だった。

 

 

「もうすぐ交流会もあるからそれまでに少しでも戦力になれるようにならないとね」

 

 

「綱時、貴方はともかく我々は参加しないのでは?」

 

 

基本的に交流会というのは、東京校と京都校の上級生同士が戦う為、経験の少ない一年が出場する事はまず無い。

 

人数が足りないか飛び抜けた実力があれば話は別である。

 

 

「七海は五条悟と言う男をわかってない」

 

 

「いや、強いのは兎も角人格に多少難がある人物というのは充分把握していますが…………………」

 

 

五条悟は綱時以外に出来た後輩という存在に嬉しくなったのか出会い頭から絡みまくった。

 

しかし、ナチュラルに他人を煽る事しかしない傍若無人な男が後輩を可愛がるという事が出来る訳なく七海の堪忍袋の緒を見事に切った。

 

五条悟という存在をよく理解していなかった七海は悟が特に売るつもりの無かった喧嘩を買ってしまった。

 

最初こそ、雑魚と高を括っていたがボコボコにしても向かってくる七海を可愛い雑魚後輩から可愛い後輩となった。

 

 

「京都校には悟さんを毛嫌いしてる御三家の人間がいる。悟さんはこの手のイベントは基本サボりたがる。なんだかんだ理由をつけて俺達に押し付ける。その御三家を煽るだけ煽って僕達に押しつけてサボる」

 

 

 

「いや、幾ら何でもそこまで……………」

 

 

「灰原は優しいね。でも去年の団体戦は夏油さんが適当に呪霊を放ってその間家入さんと悟さんの3人で寮に戻って桃鉄してたらしいし」

 

 

東京校と京都校は毎年姉妹校として交流会を行っている。基本的には2日制で1日目は団体戦でエリア内の呪霊をどれだけ祓えるかというもので、2日目が個人戦となっている。

 

団体戦でわざわざ森を走り回るのが面倒だと思った悟と夏油は夏油の術式によって森に呪霊を放った。しかし、呪霊からの撃破報告を待つのも億劫に思った悟は寮に戻り寝ると言い出した。

 

しかし、流石に寝るのは不味いからゲームでもして暇を潰そうと桃鉄を始めたのだった。

 

因みに、寮でサボっていた事が担任である夜蛾にばれ個人戦は強制的に参加させられ東京校は交流会に圧勝した。

 

 

「兎に角、俺達が出るのはほぼ確実みたいだし、強くなって損は無いね‼︎綱時、七海、俺頑張るよ‼︎」

 

 

交流会に出るかどうかは置いておいても、術師として少しでも強くならなければいけないというのは当たり前の事である為、七海も灰原も気合を入れて特訓を続けるのだった。




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