悟様、いい加減にしてください 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
呪術師が一般的に言う術式とは、生得術式の事で、生まれながら刻み込まれた術式がその者の術式となる。
その為、同じ術式使いは数が少ない。しかし、そうした術式を一族で代々継承し伝えていったものを相伝術式という。
五条で言えば無下限、加茂なら赤血操術、禪院は十種影法術と投射呪法でなどである。
現在の禪院家当主である直毘人はこの投射呪法の使い手であり、悟を抜けば最速の術師と言われている。
「悟くんは兎も角…………呪具使わんと戦えんカスが……………」
「禪院くん、作戦なんだけど…………」
「ボクは東京校の奴ら潰してくるからそっちはそっちで好きにしいや、ほな」
開始の合図と同時に全速力で駆け出す直哉。普通では目で追いきれない程のスピードで森の中を駆け抜けていく。
(どうせ悟くんらは出て来うへん。その間に綱時を最速でブチ殺す。そうすれば後は雑魚だけや)
何体か呪霊とすれ違う直哉だが、悉く無視して突っ走る。次いでに倒してしまえば良いのだが、直哉にとってその程度は眼中に無い。
狙っているのは自分よりも立場が下であり、次期当主の自分をカケラほど敬う様子を見せない綱時のみである。
「見つけたでぇ、綱時ぃ‼︎」
「僕は会いたくなかったですけどね‼︎」
呪力で強化している筈の綱時の背後を一瞬にしてとる直哉。
「本当に嫌な術式ですね」
「今度はおどれにマーカー付けさせずにボコボコにしたる」
投射呪法とは1秒を24分割にし、自身の視界を画角とする。そして、あらかじめ画角内でつくった動きをトレースする能力である。
動きを作りきれなかったり、過度に物理法則を無視したりすれば一秒間のフリーズを起こしてしまう。
その為、投射呪法を使い熟すには天性のコマ打ちセンスと正確な時間感覚が必要となる。
才能が8割を占めると言われる呪術師の世界でも更に特別な才能を求められる術式といえるだろう。
「流石に速いですね。これなら直毘人様に追いつくのも時間の問題でしょう」
「今ジジイは関係無いやろ‼︎」
捉えきれない高速で縦横無尽に攻め立てられる綱時。防御するのに手一杯となる綱時。
綱時の術式は端的に言えば呪具を呼び出すだけの術式であり、術式のみで形成を変える事は難しい。
直哉の戦いぶりは冷静そのもので、綱時に触れられないよう、呪具を出させないようにヒットアンドアウェイで殴っては動くというのを徹底していた。
「ジジィも悟君も、どいつもこいつもおどれを過剰に評価しとるけど、所詮おどれは呪具が無かったら何も出来んカスや‼︎」
圧倒的なスピードでなす術もないように思える投射呪法だが、攻略法が無い訳では無い。
術式の特性上一度決めた動きは途中で変更が出来ない為相手の動きも予め予想して動きを決める必要がある。
つまり、術者である直哉の意表をつく動きをすれば良いのだ。もっとも、捉えるのも難しいスピードで動き回り攻撃をする直哉をどうにか出来ればの話だが。
「『術式順転・黒』」
攻撃の手が一瞬止まった隙に綱時は両手を合わせて呪力を練る。悟の術式順転・蒼を参考に作り上げた綱時の技。
「術式順転て、悟くんの真似か?んな猿真似でボクを……………………⁉︎」
綱時の換装術式はマーキングしたものを自身の元へと呼び寄せる術式。通常は源家の蔵からマーキングしてある呪具を一つ呼び出すだけなのだが、綱時の黒は複数の呪具を同時に呼び出すというもの。
綱時は蔵から二振りの刀を自分目掛け放つ。いや、正確には自分を殴りにきた直哉目掛けて放った。
「やっと距離を取ってくれましたね。いい加減鬱陶しいんですよ」
そう言いながら綱時は二振りの刀を両方の腰に差し腰を低く落とし小さく息を吐く。
「シン・陰流、簡易領域」
綱時を中心に小さな円が現れる。綱時は二振りの刀それぞれを握り居合いの構えをとる。
(あいつがシン陰流使えんのは今更驚きもせえへんけど2本同時の居合やと…………?)
シン陰流は呪術全盛と言われた平安時代に芦屋貞綱が門弟を守る為に考案した弱者の為の領域である。
一門相伝の技で門外への技術漏洩が縛りで禁止されている。源家は代々シン陰流の門弟で綱時もシン陰流を使える。
「何をしようがお前じゃボクを捉えられへんよ‼︎」
綱時が何をしようとも当たる前に殴ってしまえば問題は無い。前からでは無く背後を取って一撃で決めれば良いと直哉は更にギアを上げ全速力で動く。
「シン・陰流、居合『蓮華』」
シン陰流の居合術は様々なバリエーションがある。抜刀や夕月といったものである。
綱時が放った蓮華という技は一対多で囲まれた際に真価を発揮する技だ。展開した領域内に入ったものを斬るというのは抜刀と変わりなく、一度振り抜けば終わってしまう。
しかし、蓮華は抜刀した後が本領となる。一呼吸の間、四方八方から迫る敵に対応する為に編み出された居合からの抜刀術。
(危なっ…………けど後ろに回って延髄に一撃決めたる‼︎)
投射呪法で一度決めた動きは途中で変更する事が出来ない。故に相手の動きもある程度予想していなければならない。
居合といっても正面からの攻撃にしか対応していない為相手の間合いに入る直前に後ろへ回り込めば隙だらけの背後に好きに攻撃を叩き込める筈だった。
刀を振りきった筈の綱時が一連の動作であるように直哉へ斬りかかってきたのだ。
「捉えた」
直哉の首筋に刃が迫っていた。
「なんっ…………………」
首筋、肩、腕、脚と合計4回の攻撃をくらった直哉はそのまま倒れ込む。
いくら呪力で肉体を強化してるとはいえ綱時も呪力を乗せた攻撃をしている為まともに入ればダメージは避けられない。
「ちゃんと刃は引いてあるやつにしましたけど大丈夫ですか?」
二振りの刀を納刀すると直哉へ駆け寄る。
「ざけんなや。呪具頼りのドブカスがぁ…………悟くんに尻尾振って良い気になってんちゃうぞ。所詮お前なんて甚爾君に比べたら偽物や」
「直哉様の言いたい事は分からなくも無いですが、僕は甚爾様じゃない。誰かに甚爾様を重ねるのは辞めた方が良いですよ」
「うっさいわ、ボケ。というか何しとんねん」
綱時は呼び寄せたロープを使って直也を拘束していた。
「これですか?この紐にこうして呪力を流すと簡単に解けなくなるんですよ。直哉様を自由にしておくと厄介なので半日くらいこのままでいてください」
「ボクが言っとるんはそこちゃうわ‼︎なんやねんこの結び方ぁ‼︎なんでこんな格好させられとんねん‼︎」
「似合いですよ直哉様。これも悟様からの命令なので許してください」
直哉は亀甲縛りにされていた。綱時は笑っているのを必死に堪えているのか肩が震えていた。
亀甲縛りにされている直哉が喚きながらバタバタと動き回っているのだ。
綱時は笑いを押し殺しながら何処からか取り出したカメラのシャッターを切った。
「それでは、僕は同級生の救援に行くので失礼します」
「待てや、アホ‼︎もっぺんその面ぶん殴ったるからこの縄解けや‼︎」
この後、程なくして呪霊を呪霊を掃討した東京校の圧勝となった。綱時が取った写真を見て悟達は大爆笑し直哉の血管が切れかかった。
治療として硝子が負傷の酷かった直也に反転術式をかけるが、「キミみたいに出しゃ張ってこんで見た目も乳もエエもん持っとる子はエエなぁ。ボクの嫁さんにしたろっか」とセクハラかました事で悟が激怒。
直哉は無事に病院送りとなった。直哉が離脱した事で京都校は戦意を喪失し、棄権が続出し個人戦は中止となった。
こうして京都校との姉妹校交流会は東京校の勝利に終わった。