流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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挿話・3 ブーランジェ家の兄妹

 カルネリアはブーランジェ公爵家の末娘だ。

 趣味は剣術、リボン集め、それから恋話。

 明るい性格だとよく言われる。友達もきっと多い方だ。

 

 兄弟は、兄ばかりが4人。

 一番好きなのは長兄のアラバンド。いつも優しく、頼れる兄だ。

 もうすぐ結婚予定だが、その婚約者からもカルネリアは可愛がられている。

 

 次兄のレグランドは城で近衛騎士をやっている。

 女好きでいつも違う女の人と歩いているが、カルネリアには甘い。よく色んな物を買ってくれる。

 

 三番目の兄バナジンはやや気難しい性格だ。

 普段はあまり話さないが、カルネリアにはやっぱり優しい。

 

 そして、四番目の兄スピネル。

 2歳上のこの兄とは幼い頃よく一緒に遊んだのだが、カルネリアが5歳になった時にエスメラルド王子の従者に選ばれ、城に行ってしまった。

 王都にいる間はそれなりに顔を合わせる機会があるのだが、厳格な父が苦手らしく、ブーランジェ屋敷に来る事は滅多にない。

 

 

 そのスピネルが、珍しく自分から屋敷にやって来た。

 しかもカルネリアに用があって来たらしい。

 

「一体どうしたの、お兄様?」

「お前、再来週にお茶会開くって言ってたろ。今からもう一人参加できるか?」

「え、何?もしかして来てくれる気になったの?皆喜ぶわ!」

「行かねえよ!…参加させたいのはリナーリア嬢だ。デクロワゾー侯爵家の」

「リナーリア様?」

 

 カルネリアは思わずきょとんとした。

 その名前はもちろん知っている。近頃王子殿下と親しいという噂の少女。

 従者である兄とも親しいらしいし、カルネリアとは同い年だ。だからカルネリアも彼女に興味津々だったのだが…。

 

「何よ、どういう風の吹き回し?今まではいくら頼んでも絶対に紹介してくれなかったじゃない」

「あいつ、女友達を作りたいらしい。それで近頃お茶会に出ては頑張ってるようなんだが…ありゃダメだ。あれじゃ上手く行かない」

「そうなの?」

「ああ。この前殿下とサーピエリ家のガーデンパーティーに行ったら、あいつもいたんだが…」

 

 サーピエリ家と言えば確か、カルネリアと同い年の令息がいる家だ。

 領地はリナーリアのデクロワゾー家と近かったはずなので、きっと親交があるのだろう。

 

「男兄弟しかいないせいなのか何なのか、あいつどう見ても女が苦手なんだ。変に緊張してるし、受け答えがいちいち堅苦しい。話も下手だ。…そのくせ、男に対しては妙に無防備なとこがある。危なっかしいったらない」

 

 兄はやたら渋い顔になった。何か心当たりがあるらしい。

 

 

「しかもあいつ、素直過ぎるんだよ。親切にされればすぐ喜ぶし、からかわれればすぐ怒る。殿下みたいなタイプとは相性良いんだろうが、ありゃ社交には向いてない」

「ふうん?なるほどね…」

 

 カルネリアはジト目になって兄を睨んだ。

 

「つまりお兄様は、リナーリア様が心配で仕方ないから、私に助けて欲しいってそういう訳ね?」

「誰もそこまでは言ってねえだろ」

「だって噂で聞いたわ。お兄様がリナーリア様に近付こうとするご令息達を締め上げたって」

「…しょうがねえだろ!初めは本当にあいつが人見知りの泣き虫だと思ってたんだよ!」

 

 スピネルは言い訳をする。

 何しろ、リナーリアは最初王子に会っただけでわんわん泣いてしまったのだ。あの反応は流石にショックだったのか、王子もしばらく気にしているようだった。

 

 その後は無事に打ち解けられたので安心していたが、ある日城にやって来たリナーリアを見かけたどこぞのボンクラ息子が、手下相手に話しているのを聞いてしまった。

「あの侯爵令嬢を使えば、王子に近付けるのではないか」…と言う話だ。

 

 スピネルは、あの無口な王子にようやくできたおかしな友人に逃げられたくなかった。

 知らない子供に囲まれて「王子に紹介しろ」などと迫られれば、彼女はまた泣いてしまうかも知れない。

 ボンクラ共の下心や面白半分の横槍で、リナーリアが王子と会うのを嫌がるようになっては困る。それだけは絶対に阻止したかった。

 

 だから「あいつは人見知りですぐに泣く。泣かせたら王子は絶対に怒る」と遠回しに言ってボンクラが彼女に近付くのをやめさせたのだが、同じ事を考える奴は他にもいた。

 初めは物陰にそいつを連れ込んで忠告しようとしたが、途中で面倒くさくなったので念入りに脅しておいた。こういうのは優しく言うよりしっかりと脅した方がずっと効果があるのだ。

 

 オットレに絡まれていた所を助けたのも同じ理由だが、リナーリアは人付き合いが下手なだけで別に泣き虫でも何でもないと気付いたのは、もう少し後の事だ。

 

 

「…とにかく、あいつをお茶会に招待してやれ。色々と変わってるが、悪い奴じゃない。お前もきっと気に入る」

 

 …それって、お兄様も彼女を気に入ってるって事よね?

 カルネリアはそう思ったが、この兄はどうせ認めないに決まっているので口には出さなかった。

 代わりに一つ提案をする事にする。

 

「別に良いけど、一つ条件があるわ。お兄様」

 

 

 

 

 …そして、お茶会の当日。

 

「こんにちは、カルネリア様。本日はお招きいただきありがとうございます…!」

「こんにちは、リナーリア様。お会いできて嬉しいわ」

 

 青銀の髪をした、人目を引く美しい少女。頼りなく大人しそうな風情で、見るからに緊張している。

 なるほど、これは兄が気にするのも分かる…と思いつつ、カルネリアは首を傾げた。

 

「…スピネルお兄様は一緒ではないの?」

「えっ?」

 

 カルネリアが兄に出した条件。それはお茶会の日、兄がリナーリアをエスコートして連れてくる事だったのだが。

 リナーリアが困惑した顔になる。

 

「スピネル様からは招待状を渡されて『これに出ろ』と言われただけですが…」

 

 …騙された。

 どうりで、やけに素直に条件を呑んだと思ったのだ。

 

「もう!お兄様ったら…!!」

 

 拳を握りしめたカルネリアは、虚空に向かって叫んだ。

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