流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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第18話 シェルター・1

「…ここは…?」

 

 呆然と呟く声が聞こえて、慌てて目を開ける。

 薄暗い中まず視界に飛び込んできたのは、ごつごつとした見知らぬ壁と天井だ。4メートル四方くらいの小さな部屋。

 …そして。

 

「どこかに転移したのか?」

「どうもそうっぽいな」

「…な、何で殿下とスピネル様がいるんですか!?」

 

 思わず叫んだ私に、二人がこちらを振り返る。

 

「何でって、一緒に飛ばされたからだろ?」

「そうだな。いきなりのことで驚いたが」

 

 更にスピネルは、何やら呆れた顔をしてみせる。

 

「もしかしてお前、殿下と二人っきりで転移したかったのか?そういう色ボケはもうちょっと落ち着いた状況でやれ」

「誰が色ボケですか!!!…そうじゃなくて、貴方の力だったら、殿下を転移魔法陣の外へ引っ張り出せたでしょう!?」

 

 ああいう転移魔法陣は発動させた者を中心にして展開され、すぐ近くにいたり触れているものも一緒に転移する。

 あれを発動させたのは私だったので、手を掴んだ時に思い切り引っ張れば殿下だけは助けられたはずだ。

 なのにスピネルは、逆にこちら側へ踏み込み3人一緒に転移する事を選んだのである。

 

「バカ!!それじゃお前が一人で転移する事になってただろ!?」

「バカはそっちです!!従者なら私の事なんかより、殿下を守る事を優先して下さい!!」

「なんかってお前…!」

「どこに飛ぶか分からない、どんな危険があるか分からないんですよ!?」

「だから一緒に来たんだろうが!!」

「待て、落ち着け二人共!!」

 

 スピネルと私の間に、殿下が慌てたように割り込む。

 

「俺はスピネルが正しいと思う。…いや、少し違うな」

 

 殿下は少しだけ考え込んだ。それから私の目を見つめる。

 

「確かに、リナーリアの言う事が正しいのかも知れない。主を守るのが従者の役目だ。…だが俺は、それでもスピネルに賛成する。君を見捨てて俺だけを助けるなんて事は、俺は絶対に望まない」

 

 …知っている。殿下はそういう方だ。

 自分のために誰かを犠牲にするなんて、そんな選択肢は選ばない。

 でも。

 

「で、でも…わ、私のせいで、殿下に何かあったら…!」

「バッ…お前、泣くんじゃねえよ!」

「泣いてませんが!!?」

「いやキレるのもやめろよ…」

 

 困りきった顔をするスピネル。

 殿下はもう一度私の顔を見ると、肩に手を置いた。

 

「リナーリア、俺はこの通り無事だ。それにスピネルは頼りになる。…大丈夫だ。3人で一緒に帰ろう」

 

 温かい手だ。そして、翠の瞳はとても優しい。

 

 

 私は唇を噛みしめると、ばちん!と自分の両頬を叩いた。

 そうだ、動揺してる場合じゃない。

 起こってしまった事をあれこれ言うより、今何ができるかを考えなければ。

 

「分かりました、殿下!!私が必ず無事に連れ帰ります!!」

「り、リナーリア、頬が真っ赤だが…」

「大丈夫です!!ちょっと痛かっただけです!!」

「まあ、泣きそうな顔してるより良いけどな」

 

 苦笑するスピネルを思い切り睨む。今はとりあえず我慢してやるが、こいつは帰ったら絶対シメる。

 あと泣きそうな顔とか絶対してないからな。

 

 

「で、帰る方法なんだが…」

 

 そう言いながらスピネルが後ろを振り返った。そこの壁に描かれているのは…。

 

「き、帰還用魔法陣!!」

 

 私は慌てて飛びついた。

 しかしいくら魔力を流し込んでも、魔法陣はぼんやり赤く光るだけで何も起こらない。

 

「動かないな。やっぱ、そう上手くは行かねえか」

「そうですよね…そもそも魔法陣がちゃんと動くなら、今頃誰かが後を追って来てるはずですよね…」

 

 がっくりと肩を落とす。

 何しろ第一王子が目の前で姿を消したのだ。

 転移先が危険な場所だという可能性があるにしても、護衛の一人や二人、すぐに追って来るだろう。

 

「恐らく、鍵が必要なタイプの魔法陣かと思われます」

 

 転移魔法陣ではよくある、予め作られた鍵を持つ者だけが発動できるようになっているものだ。

 セキュリティのためというのが主な理由だが、鍵自体に魔力を込めておくことで魔力が少ない者でも使用を可能にしたりする。

 

 しかしそれならば、何故さっきは鍵を持たない私に対して発動したのだろう?

 魔法陣は見るからに古く、私の知らない形式で描かれている。

 長年の風雨に晒され壊れていた魔法陣が、私の魔力に反応して誤作動でも起こしたのだろうか。

 

「鍵か、もしくは他の出口を探すか…助けを待つってのも一つの手だが」

「…そもそも、ここはどこなんだ?見た所、地下室のようだが」

 

 殿下がぐるりと周りを見回す。

 部屋に窓は一つもなく、前方に扉が一つだけ。

 天井には通風孔と、魔導具の照明がついている。きっと人の気配に反応して明かりがつくタイプのものだ。

 壁も床も全て、土を何かで塗り固めて作ってあるように見える。

 

 

「ここにいたって何も分からない。まずは扉の外に出てみようぜ」

「ちょっと待ってください、外の様子を調べます。…『我が手は混沌をかき分ける神秘の手なり、我が眼は闇を見通す超越の眼なり』」

 

 目を閉じ、精神を集中させて魔術言語で呪文を詠唱する。

 

「…ここから真っすぐに細長い空間…通路が伸びていますね。向かって右側が大部屋、左側には小部屋が並んでいるようです。地上までは数十メートルほど。…生命の気配はごく小さい…。せいぜい鼠か虫くらいしかいなさそうです」

 

 殿下とスピネルがちょっと眼を丸くする。

 

「凄いな。探知魔術か」

「はい。この手の魔術も結構得意なんです」

 

 今使ったのは周囲の空間と生き物の気配を把握する中級の魔術だ。

 前世の私の魔術の師匠は、このような探知や解析の魔術を最も得意とする人だった。その教えを受けた私も自然と得意になったのである。

 

「構造からして、地下シェルターでしょうか。あの周辺にそんな物があるなんて聞いた事ありませんが…」

「未発見のやつなのかもな。何だか古そうだし」

「となると、向こうにいる者たちがこちらを見つけるのは難しいか」

 

 シェルターは、魔獣の群れや自然災害などから逃れるために作られた施設だ。天然の洞窟などを利用したり、地下に掘って作られる。

 魔獣はその時代によって発生頻度が違い、特に多かった時代には大規模なシェルターがあちこちに作られたようだ。

 現役のものもあるが、何百年も前に忘れ去られたものが偶然発見される事も稀にある。

 

 転移魔法陣はあまり遠くまで移動できるものではないから、ここもきっとあの温泉からそう離れていないと思うが…。

 地下は探知魔術が届きにくいし、シェルターは魔獣から発見されないように隠蔽が施されているものも多い。外から見つけるのは難しいはずだ。

 救助に期待するより、自分たちで脱出する方法を探した方が良いだろう。

 

「とりあえず、近くに危険はなさそうです。行きましょう」

「ああ」

 

 皆でうなずき合い、部屋の扉に手をかけた。

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