流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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第24話 シェルターからの帰還

「……下!王子殿下、そこにいらっしゃいますか…!」

 

「…えっ!?」

 

 突然聞こえた声に、私は慌てて目を開け身体を起こした。

 どこか聞き覚えのある大人の男の声。一体どこからとキョロキョロと辺りを見回す。

 

「…王子殿下!スピネル殿!リナーリア嬢…!」

「は、はい、います!!ここにいます!!」

 

 急いで叫び返すと、幾人ものざわめきが遠くから聞こえた。

 通風口だ。通風口から、人の声が聞こえる。

 隣のスピネルも目を覚ましたらしく、乱れた髪の毛をかき上げながら身体を起こした。

 

「…助けが来たのか?」

「そうみたいです!」

「三人共、そこにいらっしゃいますか!?」

「はい、います!!全員無事です!!」

 

 スピネルが殿下の肩を揺さぶる。

 

「殿下、起きろ。助けが来たぞ」

「ううぅん…腹が減った…」

「おい、起きろったら。寝ぼけてる場合じゃねえぞ」

「うん?朝食の時間か…?」

「ちげーよ!ちゃんと目を覚ませ!!」

 

 

 

 …殿下が完全に目を覚ますまでにはもう少しかかったが、迎えに来た護衛騎士達によってシェルターから出られたのは、それから更に5〜6時間後の事だ。

 奥の通路を塞いでいた瓦礫と土砂を取り除いてもらうのに時間がかかったからである。他に脱出方法はなかったので仕方がない。

 

 階段を登って外に出ると、どこかの森の中だった。

 時刻は既に午後。丸一日くらいは地下にいたので、太陽の光がとても眩しく感じる。

 瓦礫をどかすための人員だろう、あたりには我が家の兵がたくさんいる。

 

「リナーリア…!!」

 

 真っ先に駆け寄ってきたのは、お母様とお父様、それにお兄様だ。

 

「大丈夫!?怪我はない!?痛い所は!?」

「だ、大丈夫です。どこも何ともありません」

「良かった…無事で本当に良かった…!」

 

 三人共、私が出て来るのをすぐ近くでずっと待っていたらしい。

 特にお母様とお兄様はボロボロと泣いていて、家族には随分と心配をかけてしまったようだ。

 

「すみません…ご心配をおかけして…」

 

 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるお母様を抱きしめ返すと、目の奥からツンと涙が込み上げて来て、私も我慢できずに泣いてしまった。

 

 

 

 …ある程度落ち着いた所で、お父様が状況を説明してくれた。

 

「実は探知魔術にとても優れた王宮魔術師の方が、任務でパイロープ領に滞在中だったそうでね。王宮が連絡を取って、こちらに派遣して下さったんだ。その方のおかげでお前達を見付けられたんだよ」

 

 そう言って紹介してくれたのは、ボサボサの癖毛をした30代後半くらいの魔術師の男だ。

 

「いやあ、早めに見付けられて良かったですよ。転移先があまり離れてなくて良かっ…」

「…先生!?」

 

 思わず叫んだ私に、魔術師がきょとんと目を丸くする。

 

「おやあ?もしかして、僕のことを知っているのかな?」

「あっ、えっと、はい、セナルモント様でいらっしゃいますよね?あの高名な魔術師の…」

 

 慌ててごまかす。

 この男はセナルモント・ゲルスドルフ。前世の私、リナライトの魔術の師匠だった王宮魔術師だ。

 まさかこんな所で再会するなんて…。探知と解析の魔術のエキスパートであるこの人なら、こんなに早く私達を見付けられたのも納得だ。

 

 …でもきっと先生の事だから、期待してるのはアレだろうな。

 そう思い、私は先生が欲しがっているだろう情報を教える事にする。

 

「えっと、シェルターの中は一通り調べました。一見特に何もなかったんですが、この階段を降りて右側に隠し部屋があり、そこで古代神話王国時代の書物を見付けました」

「えーーーっ!!!?」

 

 先生はびょいんと、文字通りに飛び上がった。お父様や周りの人達がビクッとする。

 そう、何を隠そうセナルモント先生は、大の古代神話王国マニア。魔術師の間でも有名な、かなりの変人なのである。

 私が古代文明の科目を選び古代文字を読めるようになったのも、この人の影響が大きい。

 

「古代神話王国の書物!!き、君、それは本当かい!?」

「はい。結構な数がありました。保存状態も良好で…」

「いぃぃやっほぉーーーーーう!!!!」

 

 先生は絶叫してもう一度飛び上がると、シェルターに向かって猛然と駆け出した。

 入口をくぐりかけた所で、バッ!と私の方を振り返る。

 

「君、どうも有難う!!後で詳しく話を聞かせてね!!」

「はい、お気を付けて」

「やっほぉーーーう!!」

「ちょっ、セナルモント殿、お待ち下さい!入口は仮の固定しかしていないので、まだ中に入るのは危険です…!」

 

 護衛騎士が慌てて後を追いかけて行く。

 この反応を予想していた私以外の全員が、呆気に取られてその後姿を見送っていた。

 

 

 

 それから私達は、すぐにデクロワゾー侯爵邸に戻った。

 シェルターから屋敷へは臨時の転移魔法陣が繋げられていて、兵や私の家族もそれを使ってやって来ていたらしい。

 

「良かった、お嬢様…ご無事で良かったです…!」

「皆、有難う。心配をかけてしまってすみません」

 

 屋敷では使用人達が総出で出迎えて無事を喜んでくれた。

 皆よほど私を心配していたらしい。涙目のコーネルやメイド達の後ろでは執事長のスミソニアンが号泣しているし。

 少しびっくりしてしまったが、今世の私は長くこの領で育った。きっと使用人達も私に親しみを持ってくれていたのだろう。

 

「申し訳ないのですが、すぐに食事を用意していただけますか?とてもお腹が空いていて…」

「はい、準備はできております!」

 

 入口を掘り出している最中にパンを差し入れてはもらったのだが、殿下やスピネルはあれではとても足りなかっただろう。

 案内された食堂で、案の定二人は凄い勢いで食事を平らげていた。貴族らしい上品さをギリギリ保ってはいるが、あっという間に料理が消えていく。

 

「美味いな…!」

「ええ。1日ぶりの温かい食事で、ようやく人心地がついた気がします」

「これで今夜はゆっくり眠れそうだ。昨夜は腹が減って寝付けなかったし、殿下の腹の音が凄くて目が覚めちまったもんなぁ」

「す、すまん…」

 

 殿下は少し恥ずかしそうにして、申し訳ないが私とスピネルは吹き出してしまった。

 昨日の昼から何も食べておらず空腹だったのは全員同じなのだが、殿下のお腹の音は一際大きかった。普段から人一倍よく食べる方だからなあ。

 水は魔術で出せるので何とかなったが、食べ物はどうにもならなかったのだ。

 

 

 

 食事後は護衛騎士達や家族がやって来て、シェルター内での事をかいつまんで話した。

 

「…えっ、中で魔獣が出たのですか!?」

「はい。蠍型で、頭から尻尾まで3~4メートルはあったので中型魔獣ですね。恐らく、通風口から入って来た小さな魔獣が寄り集まって、あんなに大きくなったんだと思いますが…」

「幸い、三人で力を合わせて何とか倒せた。なかなか大変だった」

 

 私達が三人だけで中型魔獣を倒したと言うと、全員が驚いていた。

 騎士達は称賛してくれたが、お母様やお兄様は真っ青だった。蠍に刺された所の腫れや赤みが既に引いていて本当に良かった…。

 

 殿下の取り成しもあり、今回の件は不運な事故として処理される事になりそうだ。

 デクロワゾー家が咎められたりはしなさそうで、ほっと胸を撫で下ろす。

 今後シェルター周辺には王宮魔術師団による考古学調査が入るだろう。セナルモント先生が張り切るだろうし。

 

 また、三人共無事だったし体調にも特に問題はないので、殿下の視察はこのまま続けられる事が決まって安心した。

 予定よりも何日か遅れてしまうが、天候だとか魔獣だとかによって日程に狂いが出るのはいつもの事だ。

 明日一日はデクロワゾー領でゆっくりと休み、明後日出発する予定だという。

 

 

 食堂を出た所で、殿下が私に話しかけた。

 

「色々と大変だったが、いい経験になった。皆には心配をかけたが、俺は結構楽しかった」

「武勇伝ができちまったな」

 

 殿下の微笑みは優しい。それに、スピネルも。

 

「明日は雨になるらしい。良かったらカエルのいそうな場所を案内してくれ」

「またそれか。まあ、いいけどよ」

 

 …全員何事もなく帰って来られて、本当に良かった。

 そう胸の奥で噛み締めながら、私は「お任せ下さい!」と笑い返した。

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