流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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挿話・5 ブーランジェ家の兄妹・2

「お兄様、今日は来てくれて有難う!皆すっごく喜んでたわ!」

 

 にこにこと笑ったカルネリアに、兄のスピネルはぶっきらぼうに「おう」と答えた。

 今年最初のお茶会は、この兄のお陰で大成功だ。

 

「で、どう?気になる子はいた?」

「いねえよ」

 

 全く歯牙にもかけない顔で言われ、カルネリアは頬を膨らませる。

 兄は表ではあんなに愛想が良い癖に、裏ではいつもこれなのだ。

 あれだけモテているのに特定の相手を作る様子がまるでなく、恋話好きのカルネリアとしては非常につまらない。

 唯一それらしい噂があるとしたら、その相手は…。

 

「リナーリア様の事が気になったから、急に来るって言い出したんじゃないの?」

「…気にしてたのは殿下だよ!あいつこの前、様子がおかしかったから…」

「そうなの?」

 

 首を傾げるカルネリアに、スピネルは顔をしかめる。

 

「今日だって、やたら緊張したり急に黙ったりして変だったろうが。ああいうの、良くなったんじゃなかったのかよ」

「そうねえ。お茶会にはもう随分慣れたと思ったんだけど、今日は何だかおかしかったわね。会ったばかりの頃みたいにガチガチだったわ」

 

 カルネリアの見た所、リナーリアは同年代の若いご令嬢が一番の苦手だ。妙に身構えてしまう癖がある。

 それもこの1~2年ほどで良くなったと思ったのだが、今日はずっと緊張しっぱなしの様子だった。

 兄が来てからは調子を取り戻したのか、少し緊張がほぐれていたようだったが。

 

 

「…あいつ、どうもただの人見知りや引っ込み思案と違う気がするんだよな。なんかトラウマでもありそうっつーか…」

「どこかで虐められたとかなのかしら…」

 

 カルネリアもその可能性を考えた事がある。

 リナーリアはほっそりと儚げな容姿と、珍しい青銀の髪を持つ美しい少女だ。

 本人はどこに行っても目立たないようにしているつもりらしいが、そんな控えめな振る舞いは他人の目には可憐に映る。密かに思いを寄せているご令息などもいるようだ。

 

 しかし家は爵位こそ高いが新参貴族で権力は強くないし、領地は国の外れ。

 成長するまでなかなか王都に来なかったので、親しい相手もろくにいない。いても兄の友人だとか領地が近い者だとかで、それがまた男ばかりだ。同性の知り合いが本当に少ない。

 それでいておとなしそうと来れば、虐められやすい要素は揃っている。

 

 

「でも、相手に心当たりがないのよね。今日お会いしたフロライア様には特に緊張していたけど、初対面だったみたいだし…フロライア様がそんな事するとも思えないし」

「そうだな」

 

 フロライアもまた、その抜きん出た美貌で有名な侯爵令嬢だ。しかも良家の出であり顔が広く、老若男女問わず評判が高い。もちろん、同年代のご令息からも非常に人気がある。

 性格は温和で優雅で、聡明。その美貌や出自を鼻にかける様子もない。完璧すぎて隙がないのが欠点と言えば欠点かもしれない…というほどによくできたご令嬢だ。

 そんなフロライアがリナーリアとどうこうというのは想像しづらい。

 

 ブーランジェ家は特にどこの派閥にも属していない事もあり、フロライアとカルネリアは、今まで特別親しくなかった。

 かと言って仲が悪いわけでもなく、何度も他所のお茶会などで顔を合わせている。

 そこでの印象は良いものだったし、悪い噂なども特に聞いた事がない。良い評判ばかりだ。

 

 今回お茶会に招待したのも、先日別のパーティーでたまたま同席したから、何となく誘ってみたというだけだ。

 今日話してみた印象も悪くなかった。カルネリアから見ると上品過ぎて少し取っつきにくいものの、同級生としては当たり障りなく付き合っていけるだろう。

 

 

「…まあ、考えても仕方ないか。貴族なんてどこで逆恨み買ってても不思議じゃないし、特にあいつは鈍いからな…自分が言い寄られてる事に気付いてすらいねえ…」

「あらやだ、もしかしてお兄様も振られちゃったの?」

「そんな訳あるか!!…って、『も』ってなんだよ」

「あら、気になるの?」

 

 ニマニマと笑うと、兄は舌打ちをした。言い返すのも面倒だと言わんばかりに話題を変える。

 

「それよりお前、来月の王妃様の園遊会に招待される事になったぞ。準備しとけ」

「まあ、そうなの!?嬉しいわ!」

 

 園遊会。王妃が毎年5月の末頃に、城の薔薇園で開くガーデンパーティーだ。

 公爵である父母はいつも招待されているが、カルネリアが招待されるのは初めてだ。

 

「殿下は今年入学だから、同級生になる貴族の子供もそこそこ招待される事になったんだ。リナーリアや、あとアーゲンとかセムセイとか…まあ、色々呼ばれてる」

「それは賑やかになりそうね!どのドレスを着ようかしら…リナーリア様も行くなら、相談してみようかしら」

 

 近頃は友達や恋人同士の間で、服やアクセサリーに相手の髪や瞳の色を取り入れるのが流行っている。

 リナーリアとそれをやるのも楽しいかも知れないと、うきうきと想像を膨らませる。

 

 

 あの少し変わった少女の事を、カルネリアは気に入っている。

 どうにも天然でズレている所はあるが、誰に対しても誠実であろうとする彼女の性格は、カルネリアにとって好ましいものだ。

 何より彼女は、カルネリアが幼い頃から持つ女騎士という夢を素直に応援してくれた。彼女自身も魔術師を目指しているというから、カルネリアの気持ちが分かるのだろう。

 

「お前もきっと気に入る」と言った兄の言葉は間違っていなかった。今では彼女は親しい友達だ。

 …できれば、友達ではなく姉妹になれたらなどと思っているのだけれど。

 

「…お前、何か余計な事企んでないか?」

「そんな事ないわよ」

 

 これは入念に準備をしなければ、とカルネリアはにんまり笑った。

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