流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する 作:梅杉
スミソニアンの後ろ姿が見えなくなってから、コーネルがスピネルへとすっと頭を下げる。
「当家の執事長が失礼をし、申し訳ございません」
「俺は別に気にしてないが…。あの執事長より、お前のメイドの方がよっぽどしっかりしてんな」
「あはは…すみません。スミソニアンは普段はあんなではないんですが…」
もしやスミソニアンも私のダンスパートナーの事を心配していたんだろうか。ううむ。
考え込む私に、スピネルが「ああ、そうだ」と言う。
「お前、パーティー当日はどんなドレスを着る予定なんだ?」
「ドレスですか?青いやつですよ」
「もうちょっと具体的に頼む」
「ええと…こう、しゅっとして…こう…裾がひらひらっとしててですね、リボンがこう…ふわっとしてます」
「ふわっとしてんのはお前の説明だよ!!具体的って言葉の意味を教えてやろうか!!」
身振り手振りで説明しようとする私に、スピネルは思い切り突っ込んだ。
見かねたのか、横からコーネルが助け舟を出してくれる。
「サファイアブルーを基調にしたドレスです。シルエットはAライン、ドレープをたっぷり取ったスカートとシフォン生地の長いリボンが特徴となっております」
「そう、そんな感じですね」
「お前絶対分かってないだろ…」
「し、仕方ないでしょう!仮縫いの時にちらっと見ただけですし!」
「ドレスのデザインは、奥様と私共とで選んで注文させていただきました」
「なるほどな」
また補足してくれるコーネルに、スピネルが納得顔になる。
「じゃあ、合わせるアクセサリーや宝石ももう決めてあるのか?」
「はい!青くて薔薇のやつです!」
「お前もう黙ってろ」
「髪には青い薔薇のついたピンをいくつも挿し、宝石類も青や紫を基調にしたものになります。こちらはもう届いておりますが、ご覧になりますか?」
「ああ。頼む」
「?そんなの見てどうするんですか?」
少し首を傾げた私に、スピネルはめちゃくちゃ呆れた顔をした。
「じゃあ逆に訊くが、俺がどんな理由でお前のドレスやらアクセサリーについて知りたがってると思う?」
ええ…?何だ、全く想像つかない。
いや待てよ、こういう時は自分の身に置き換えてみれば分かるはず…。
「…なるほど。自分が着る時の参考にするため…ですね?」
「よーし分かった!!舞踏会の日はドレス着てお前を迎えに行ってやるからな!!ちゃんと責任取れよ!!!」
「ヒィッ…やめて下さい!!デビューしたその日に社会的に死んでしまいます…!!」
「俺も心中だよ馬鹿野郎!!!」
スピネルはしばらくぐったりと脱力していたが、何とか復活したらしく顔を上げた。
「…お前に合わせたコーディネートをする為に決まってんだろ。パートナーなんだから、あんまりチグハグな服着てたら格好悪いだろうが」
「す、すごい…オシャレ上級者の発言…意識が高い…!!」
「俺はお前の意識の低さにびっくりだよ!!」
「なっ…何ですと!?」
「ドレスだの宝石だの、女なら一番大事な所だろうが!!」
「むむむ…」
何か言い返してやりたかったが何も言えなかった。ぐうの音も出ないとはこの事である。
その手の事に関しては母やメイド達に任せていれば間違いないだろうと思っていたが、もう少し興味を持つべきだったか…。
「…まあいい、お前が女らしくないのは今に始まった事じゃないしな。とにかくそのアクセサリーや宝石を見せてくれ」
「承知いたしました」
応接室に戻り、テーブルの上に当日使う髪飾りや宝石などを並べてもらった。
コーネルが一つ一つ指さしながら説明してくれる。
「こちらがネックレス、こちらがイヤリングです。ドレスが比較的シンプルなデザインなので、大きめでゴージャスなものにしてあります」
「なるほどな」
「こちらは髪飾りです。編み込んだ髪に沿って、一本一本ぐるりと並べるように差していく予定です」
「これか。…お前って薔薇好きだよな。城の薔薇園でも楽しそうにしてたし」
「あ、はい。植物は大体何でも好きですが、薔薇は特に好きですね。皆もそれで薔薇をモチーフにした飾りを選んでくれたみたいで…」
スピネルは青薔薇の飾りがついたピンの一つを手に取り、まじまじと眺めている。
何か、本当に真面目にパートナーをやってくれるつもりなんだなあ…。
またもや反省する。私も、その気持ちに応えなければ。
「…スピネルは当日、どんな服を着るつもりなんですか?」
「ん?どうした急に」
「私は学習する人間です。パートナーの服装にも興味を持とうと思いまして」
「へえ、いい心がけだな。…そうだな、お前のドレスがサファイアブルーなら、俺はグレーのテールコートを着るかな」
な…なるほど?…合う…ような気がする…ぞ?うん。
「お前はどう思う?」
「えっ?」
「学習したいんだろ?正直に意見を言ってみろよ」
「ええと…、格好良いと思います!」
「絶対適当に言ってるだろ…」
物凄く懐疑的な目で見られた。まるで信用していない。
「適当なんて言ってませんよ!貴方がグレーのコートを着たら格好良いだろうなと思ったから、正直にそう言ったんです!」
まあこいつは顔が良くて背も高いから、何着ても大体格好良く見えるんだろうけど。
そう口を尖らせて言い返すと、スピネルは急に黙り込んだ。何故か凄くムスッとしている。
すると、コーネルがぱちぱちと拍手をした。
「流石はお嬢様。見事なお手並みです」
「え?そうですか?」
「はい。お嬢様の勝ちです」
勝った…のか?何の勝負かさっぱり分からないけど。
スピネルはムスッとしたまま横を向いているが、特に反論する気はないらしい。
「…それほどでもありません!」
よく分からないが、私はえへんと胸を張った。