流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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第34話 パーティーの前

「やあ、リナーリア、よく似合っているよ。まるで湖の妖精のように美しいじゃないか」

「お兄様ったら、褒めすぎですよ」

 

 大袈裟に感動してみせるティロライトお兄様に、私は苦笑する。

 今日はついに、お城での入学祝いパーティー…そして、デビューの舞踏会の日だ。

 この日のためにあつらえたドレスを身に着け、身支度は既に完璧である。

 

 胸元は詰め物をして膨らみを増量してあるのが少々情けないが、こればかりは仕方ない。

 前世ではあまり筋肉がなく胸板が薄い事を気にしていたが、まさか女になってまで胸の薄さを思い知らされるとは…。詰め物でごまかせるだけまだマシだが。

 

 化粧は私の希望を聞いて控えめにしてくれたようだが、髪は物凄く時間をかけて丁寧に結い上げ、青薔薇の飾りがついたピンをいくつも挿してある。

 これを崩さないようダンスをこなさなければならないのだから、女性は本当に大変だ。

 

「本当にベルチェの若い頃にそっくりだ。昔を思い出すなあ。エスコートする私を、皆が羨ましがったものだ」

「まあ、あなたったら」

 

 お父様やお母様も私を見てニコニコしている。

 私は学生時代評判の美人だったというお母様とよく似ているらしいのだが、顔の作り自体は前世とそう大きく変わらないから、褒められてもあまり嬉しくない。いかにも弱そうだと侮られて苦労した記憶ばかりだからだ。

 そういう輩は全員魔術で締め上げられたら楽だったのだが、殿下の体面に傷を付ける訳にはいかないので、9割5分くらいは頑張って我慢した。残りは締めたが。

 

 と、そこにコーネルが入ってきた。

 

「スピネル様がご到着いたしました」

「おや、ずいぶんと早いな」

「きっとリナーリアに会いたくて早く来て下さったんだわ。コーネル、スピネル様をこちらにお通しして。あなた、ティロライト、私達は向こうで待っていましょう」

「そうか、そうだな」

 

 お母様はウキウキとはしゃいでいる。

 スピネルはあれでかなり律儀な奴だから、万一にも遅れないよう早く来てくれただけだと思うけどな…。

 

 

 一人で部屋に残って待っていると、コーネルに連れられスピネルが姿を表した。

 後ろで一つにまとめられた真紅の髪は、いつもよりも丁寧に整えられているようだ。

 長身がよく映える、光沢のあるシルバーグレーのテールコート。胸元には髪色と同じ真紅の薔薇が挿してある。

 

 思った通り、正装が様になっているな。間違いなくご令嬢方が騒ぐやつだ。

 これは会場でも目立ちそうで気が重い…なんて思っていると、スピネルは私を見て僅かに目を細めた。

 

「綺麗だな。よく似合っている」

「…へっ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を出してしまい、眉をしかめられる。

 

「何だよその反応。パートナーを褒めて何が悪い」

「あっ、そ、そうですね」

 

 そうだ、今日はパートナーなんだから、ちゃんとそれらしく振る舞わないと。

 てっきり馬子にも衣装だとか何とか言ってくると思っていたので、ついびっくりしてしまった。

 

「…あ、貴方もとても素敵です」

「そうか。ありがとよ」

 

 

 うう、らしくないやり取りで調子が狂うな。相手はスピネルだって言うのに、妙に恥ずかしい。

 何だか落ち着かずにいると、スピネルは私に近付き、右手を伸ばした。

 結い上げられた髪にそっと触れる。

 

「な、何ですか?」

「ちょっとじっとしてろ」

 

 気付くと、スピネルは私の髪から青い薔薇飾りの一本を抜き取っていた。

 それを自分の胸の赤い薔薇と入れ替えると、私の髪にもう一度触れる。

 

「ほら、鏡で見てみろ」

「は、はい」

 

 促されるままに姿見に自分を映してみる。

 右耳のすぐ上には、鮮やかな真紅の薔薇が咲いていた。

 

「これって…」

「園遊会ではお揃いのリボンを着けてたのに、ダンスパーティーでは何もないってのは変だろ?」

 

 それでわざわざ薔薇の髪飾りを用意して来てくれたのか。

 前にうちに挨拶に来た時やけに熱心にドレスやアクセサリーを確認していたのも、これの為だったんだろう。

 しかもよく見たらピンクゴールドで作られた葉の飾りが付いてるし、ちゃんと単体でも使えるようにデザインされてるものっぽい。

 

「ま、ちょっとしたデビュー祝いだな。なかなか似合ってるぞ」

「…有難うございます」

 

 気障な奴だと思いながら、青薔薇を胸に挿したスピネルを見つめる。

 …やっぱり、こいつって格好良いよな。悔しいけど。

 

 

 

 

 程良い時間になるのを待ち、スピネルと両親と共に馬車で城に向かった。

 大広間に着いた所でスピネルとは一旦お別れだ。

 舞踏会の前にまず入学祝いの挨拶や陛下からのお話などが行われるので、彼はその間、従者として王子の傍にいなければならない。

 

 大広間にはもう既にかなりの人数が集まっているようだった。軽く会場を見回すが、誰も彼も気合が入っていてキラキラとしている。

 思わず目が眩みそうになっていると、ブーランジェ公爵夫妻の姿を見付けた。カルネリア様とその兄レグランドもいる。

 両親とうなずき合って挨拶に向かう。向こうもこちらに気付いたようだ。

 

「こんばんは、ブーランジェ公爵。ご無沙汰しております」

「こんばんは、デクロワゾー卿」

 

 ブーランジェ公爵は背が高くがっちりとした壮年の男性だ。剣豪として知られる武人だけあって、近くで見ると威圧感が凄い。

 隣にいる真っ赤な髪をした妖艶な女性は公爵夫人だ。こうして改めて見ると、スピネルやカルネリア様は母親似なんだな。

 少し緊張する私に、夫妻が揃って声をかける。

 

「リナーリア嬢、デビューおめでとう」

「今日はうちのスピネルが貴女のパートナーなんですってね。こんなに可愛らしいお嬢さんのお相手だなんて、母として鼻が高いわ」

「いえ、そんな…恐縮です」

 

 にっこりと笑うブーランジェ夫人に、思わずあたふたしてしまう。

 スピネルの事だから、罰ゲームで付き合ってるなんて話はしてないんだろうな。公爵は厳格な人だから聞いたら怒りそうだし…。

 ここは適当に話を合わせておこう。

 

「これからも、あの子のことをよろしくね」

「よろしく頼む」

「は、はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 それから、改めてカルネリア様とレグランドに挨拶をする。

 

「リナーリア様、こんばんは!」

「カルネリア様、レグランド様、こんばんは」

 

 カルネリア様は朱色の髪がよく映える、鮮やかな黄色のドレスだ。元気な彼女らしくてとても可愛らしい。

 彼女は同い年の少女に比べると長身な方だけれど、レグランドが隣にいると小柄に見える。ここの家系はみな背が高いのだ。

 

「久しぶりだね、リナーリアさん。驚いたよ、君はいつでも美しいけれど、今宵はその美しさが輝き出さんばかりだ。月の女神だって恥ずかしがって隠れてしまうことだろう」

「まあ、お上手ですね。レグランド様こそ、今宵もたいそう素敵でいらっしゃいます」

 

 よくもこんな歯の浮くような台詞がすらすら出てくるものだ。女たらしオーラがすごい。

 こうして挨拶しているだけでも、周囲のご令嬢が熱い視線を送っているのが分かる。怖。

 

「あら、リナーリア様、その赤い薔薇の髪飾りって…」

「はい。先程スピネルからいただきました」

「まあ~!お兄様ったらやるじゃない!」

「ほう…なるほどね」

 

 レグランドはやけに感心した顔になって、横から私の髪を覗き込んだ。

 

「青薔薇の中で、真紅の薔薇は一際目立つね。あいつもなかなか独占欲が強い」

「そ、そんなのではありませんよ。これはデビュー祝いだと言ってましたし」

「お兄様ったら…」

 

 カルネリア様とレグランドは顔を見合わせて苦笑した。

 

「どうにも素直じゃない所はあるが、あいつは我が弟ながら良い男だ。これからも弟をどうぞよろしく」

「私からもお願いするわ。お兄様をよろしく」

「いえ、そんな…!」

 

 うう、一家揃ってよろしくされてしまった…。スピネルは私に無理矢理付き合わされているだけなので凄く申し訳ない。

 カルネリア様は園遊会での事を知ってるから、普通に友人としてよろしくって意味だろうけど。スピネルにはむしろ、私の方がお世話になってるんだよなあ…。

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