流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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番外編・2 克服

「…殿下への罰ゲーム、ですか?」

「そうだ。この前、賭けをしただろう」

 

 殿下とスピネルの二人で私に問題を出し、間違えたら私が罰ゲーム。全問正解だったら二人が罰ゲームという賭けの事だ。

 

「何でも言うことを聞くという約束だ。スピネルは舞踏会のパートナーを引き受けたが、俺はまだ何もしていない」

「そう言えばそうでしたね。うーん…でも殿下に罰ゲームというのは…」

「何かして欲しい事はないのか?」

「特にないですね」

「そうか…」

 

 殿下に何かしていただくなんて恐れ多い。そう思っただけなのだが、殿下は少しがっかりした顔になった。

 え、やりたいんですか?罰ゲーム。

 横からスピネルが口を挟んでくる。

 

「全くないって事はないだろ。あんまり無茶言わなけりゃ何でも良いんだぞ」

「ま、待って下さい、今考えます。ええと…」

 

 こういう罰ゲームって普通は何をするものなんだろう?

 前世のクラスメイトや王宮の騎士達は何をしてたっけな…。カードだとか剣術試合だとか、他愛もない賭けをしていたのを時々見かけたが。

 

 外に出て周りをランニング…?いや、城を一周とか広すぎるし人目にも付く。殿下にそんな事はさせられない。

 酒を一杯奢る…って、私も殿下もまだ15歳だし、そもそも城下町の酒場になんか行ったりしないし。

 おすすめの春画本をもら…別に欲しくない!!しかも120%スピネルに怒られるやつだ!!

 だ、ダメだ、何かもっと無難な罰ゲームを…。

 

 

「…そうだ!殿下、ピーマンを食べましょう!!」

「…えっっ?」

 

 殿下は珍しくとても間の抜けた声を出した。

 あ、やっぱり苦手なんだ…。

 

「好き嫌いは良くありませんよ、殿下。私もそれほど好きではありませんが、ピーマンは栄養豊富な野菜です。この機会に食べられるようになりましょう」

「う、うむ…」

「お前、なんで殿下がピーマン嫌いだって知ってるんだ?」

「当てずっぽうです。お城で食事をいただく時、旬の季節でもほとんどピーマンが出てこなかったので、もしかしたらと」

 

 まあ、一番の理由は前世の殿下がピーマンが苦手でなかなか食べられなかったからなんだけど。

 今世でもそれは変わらなかったらしい。

 

「今から頼めば、昼食のメニューに加えてもらえるでしょう。あ、紙とペンをお借りしますね」

 

 前世では私が口を酸っぱくして諌め続けたため、学院に入学する頃には何とか食べられるようになっていた。

 その時の事を思い出しながら、料理長に頼むメニューを紙に書き付けていく。…ついでにあれも頼んでおくか。

 

 すると、スピネルが「一体どんなメニューを頼む気だ?」と横から覗き込んで来た。

 途端に顔色を変える。

 

「ちょっと待て!!何でこんなに人参だらけなんだよ!?」

「バレてしまいましたか」

 

 前菜はキャロットラペ、スープは人参のポタージュ、そしてメインのピーマンの肉詰めに添えるのは人参のグラッセ。

 そう、スピネルは人参が嫌いなのだ。いつも全部避けて食べていたので間違いない。

 料理長はスピネルには忖度しないらしく、料理に人参が入っている事は今までよくあった。

 

「殿下だけ苦手なものを食べるのは不公平でしょう?従者なら貴方も一緒に頑張りましょう!」

「従者とか関係あるか!!これ殿下の罰ゲームだろ!!」

「良いだろう、付き合え。そもそもダンスパートナーが罰ゲームだなんてずるいだろう。何も罰になっていない」

「指定してきたのはこいつだっての!!」

 

 まあそれについては反論する気はないが、私だって別に嫌がらせや面白半分でこんな事をしている訳ではない。

 

 

「スピネル。子供じゃあるまいし、いい歳をして人参嫌いはどうかと思いますよ?殿下と一緒に直しましょう」

「絶対に嫌だね!!」

「胸を張って言う事ですか…」

 

 呆れると、ちょっと気まずそうに目を逸らした。大人げない事を言っている自覚はあるらしい。

 まあ人によっては稀に、体質的にどうしても受け付けない食べ物があったりもするが…。

 

「ちなみに、どうして人参が嫌いなんですか?」

「あの匂いだよ、なんつーか青臭くて…ウエッ」

「やっぱりただの好き嫌いじゃないですか!」

 

 でも困ったな、こいつ本気で食べそうにないぞ。

 殿下の手前もあるし何とか説得したい。

 

「全部は無理でも、せめてどれか一つくらいは食べましょうよ」

「そうだぞ、スピネル」

「二人揃って…!」

 

 スピネルは口元を引きつらせたが、急に何かを思いついた顔になった。なんだか嫌な予感がする。

 

「…じゃあ、こういうのはどうだ?リナーリア、お前の嫌いな食べ物を予想して、俺がメニューを指定する。当たってれば俺の勝ちだ、お前がその料理を食べる。外れてれば、お前の勝ち。俺が人参料理を食べる」

「なるほど…」

 

 私は少し考える素振りをしてから、ムフッと笑って腰に手を当てた。

 

「…いいでしょう。その勝負、受けて立ちます」

「そう来なくっちゃな!そうだ、殿下も手伝えよ。一緒に考えようぜ」

「まあ、リナーリアが何を嫌いなのか興味はあるが」

「別にお二人で相談してもらっても構いませんよ。あ、でも、私への質問は受け付けませんからね」

「了解」

 

 

 二人は早速小声で相談を始めた。おー、悩んでる、悩んでる。

 一方の私は余裕で高みの見物だ。実は、私の勝利は約束されているようなものだったりする。

 何故なら私は、特に好き嫌いというものがない。

 あまり強い匂いがする食べ物や刺激物は苦手だったりするが、どうしてもダメという程のものはほとんどない。我慢すればちゃんと食べられる。

 

「…やっぱコレだろ。間違いなく行ける」

「少し卑怯な気もするが」

「しょうがねえだろ。勝つためには手段を選んでられねえ」

「お前という奴は…」

 

 どうやら話がまとまったようだ。

 スピネルが私を振り返り、自信たっぷりの顔で口を開く。

 

「お前が苦手なのは、辛い物だろ。バッファローチキンウィングを指定する。それも特別激辛の、普段の10倍唐辛子を使ったやつだ」

「んなっ!?」

 

 思わず声を上げた私に、スピネルがニヤニヤ顔になった。

 

「どうやら当たりらしいな?」

「ま、待って下さい!!唐辛子10倍なんて、そんなの誰だって食べられませんよ!!貴方はそれ、食べられるんですか!?」

「まあな。それくらいは余裕だ」

 

 スピネルは当然だとばかりにうなずいた。

 そ、そんな馬鹿な…。だが、嘘をついているようには見えない。

 

「ブーランジェ領じゃ唐辛子を使った料理が多いんだよ。他の貴族には評判悪いから滅多に出さないんだけどな、うちの家の人間は食べ慣れてる。激辛のバッファローチキンはカルネリアの好物だしな」

「ず、ずるい!!」

「ずるくねえよ。人に偉そうな事言っておいて、自分だってやっぱり苦手なもんはあるんじゃねえか」

「うぐぐ…!」

 

 こんなの納得いかない…!

 確かに辛いものは得意ではないが、私だってピリ辛くらいならちゃんと食べられるのだ。

 でもただでさえ辛いバッファローチキンを、さらに唐辛子10倍は酷すぎる。

 

 

「…まあ、分かったんなら別に無理して食わなくてもいいぞ。二度と俺に人参食わせようとしなけりゃ、それで勘弁してやる」

「本当に大人げないなお前は…」

 

 ギリギリと歯を食いしばる私にスピネルは余裕の笑みを浮かべてみせ、殿下はすっかり呆れ顔だ。

 くそう。このままでは殿下に示しがつかないし、負けっぱなしは悔しい。

 絶対に、意地でもこいつに人参を食べさせてやる。

 

「…いいえ、大丈夫です!!食べます!!」

「え」

「ちゃんと食べて、私は辛い物が苦手などではないと証明してみせます。だからお二人共、ちゃんとピーマンと人参を食べて下さい!!」

 

 そう宣言した私に、スピネルも殿下も慌てだした。

 

「待てリナーリア、無理はしなくていい。10倍だぞ?」

「いえ殿下、私はやります!!人間頑張れば何とかなる所をお見せします!!」

「いやいやいや、何でそうなる。お前辛いの苦手なんだろ、やめとけって」

「いーえ!!全然苦手とかじゃありませんので!!食べられますので!!」

「そうだった…こいつこういう性格だった…!」

 

 頭を抱えるスピネルの横で、私はしっかりと「唐辛子10倍のバッファローチキンウィング」と紙に書き足した。

 すぐに近くのメイドを呼ぶ。

 

「料理長に、これを渡して下さい!」

 

 

 

 …そして、お昼。

 

「オェ…やっぱ青臭ぇ…マッズ」

「我慢して食べろ…俺だって我慢してるんだ…」

「うううぅ~、か、からぁい~…!!」

「リナーリア、大丈夫か?」

「ら、らいじょうぶ、れす…!」

「だからやめとけっつったろ!泣くほど苦手なら無理すんな!」

「泣いてませんし…!み、水、おかわりください…!」

「どんだけ意地っ張りなんだよ!」

「お前のせいだぞ、スピネル」

「分かった、俺が悪かったよ!ちゃんと人参食うから、お前はもうそれ食うのをやめろ!!」

「うぅう~!!」

 

 とこんな感じで、私は結局バッファローチキンを完食できなかった。

 だが私がギブアップしたのではない、スピネルに皿を取り上げられてしまっただけである。

 決して辛さに負けた訳ではないのだと、重ねて言っておきたい。

 

 ちなみに殿下は、渋い顔をしながらもちゃんとピーマンの肉詰めを完食していた。

「バッファローチキンの辛いソースを少しかけてみたら、ピーマンの苦味が若干気にならなくなった」との事で、災い転じて福となすというやつだろうか。

 やはり苦手なのは変わらないようだが、克服するための第一歩になったと思う。

 

 そしてスピネルの方は、青い顔をして何とか人参料理を食べきっていた。

「ポタージュが比較的ましだ…」だそうだが、やっぱり食べようと思えば食べられるんじゃないか。これからは残そうとしたら無理矢理口に突っ込んでやろうと思う。

 別に根に持っているとか、そういう訳ではない。…決して。




ちょっと忙しいので、年内は不定期更新になりそうです。
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