流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する   作:梅杉

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第40話 魔術テスト

 翌日から授業が始まった。

 しっかり予習はしてあるし、そもそも前世で一度習った内容なので簡単だ。はっきり言って退屈だが仕方ない。

 頭の中で魔術の構成について考えつつ、授業は適当に聞き流す。

 

 3時間目は魔術のテストだった。

 テスト内容は最も初歩の攻撃魔術である火球を、用意された的に向かって撃ち出すというもの。

 この年齢の貴族なら騎士・魔術師問わずほぼ誰でも使える簡単な術だが、その威力や精度は使用者によって大きく変わる。同じ初級魔術でも、習いたての子供と一流の魔術師では天地ほどの差が出る。

 だから改めて実際に教師の目から魔術を見て、各自の魔力量や魔術の習熟度について確認するのだ。

 

 クラスの中でも騎士課程の生徒から順に呼ばれてテストを行い、その後で魔術師課程の生徒のテスト。見た所測定時の魔力量データを元にして、魔力が少ない方から順にやっているようだ。

 当然魔術師課程の生徒の方が上手く術を使っているが、まだ入学したてなのでそこまで差は大きくない。緊張して術を不発させる者もいたが、2回までやり直しが認められているのでちゃんとそれでクリアした。

 殿下やスピネルも問題なく術を成功させている。彼女…フロライアも、威力・精度共に見事なものだ。

 

 

「次、リナーリア・デクロワゾー」

 

 魔術の先生に名前を呼ばれ前に進み出ると、一瞬殿下と目が合った。小さくうなずいているのは「がんばれ」という意味だろう。

 スピネルも面白がるような顔をしている。

 

 そう言えば二人の前で魔術を使うのは、あのシェルターの事件以来だっけな。どうやら期待されているようなので、私は少々張り切る事にした。

 いつもは魔術の速度や制御力を上げるためのイメージトレーニングにばかり時間を割いているので、こんな初級の攻撃魔術など使うのは久し振りだ。

 火魔術はそれほど得意ではないが、あくまで水魔術に比べればの話だ。やろうと思えばそれなりの威力は出せる。

 

 15メートルほど先にある魔術訓練用の的に向かって手を伸ばし、一瞬で火球の構成を組む。

 構成に思いきり魔力を注ぎ込むと、何故か物凄い手応えを感じた。

 一抱えはありそうな大きさの火球が手の先に生まれる。

 …あれ?なんか大きいな?

 

 

 戸惑いつつも既に発射態勢に入ってしまっていたのでそのまま撃ち出すと、ドゴオオオン!!という派手な轟音を立てて的に火球が炸裂した。乾いた熱風がこちらに吹き付けてくる。

 もうもうと上がる煙。

 

 …魔術による防護がかけてあったはずの的は、真っ黒に焦げて半分ほど吹き飛んで小さくなっていた。

 しーん…と辺りが静まり返る。

 恐る恐る周りを見ると、クラスメイト達はみんなぽかんとした顔で黒焦げの的と私の顔を交互に見ていた。

 

「…初級魔術?」

「しょ、初級魔術ですよ!先生だって構成を見ていたでしょう!」

 

 先生の呆然とした呟きに、慌てて反論する。

 正真正銘ただの火球の初級魔術だ。ちょっと威力が想定外だっただけだ。

 

「そ、そうだな。構成は確かに初級魔術だった…いやしかし、調査書には水魔術の適性高しと書いてあるが?火魔術の間違いか?」

「いえ、間違っていません。我が家は代々、水魔術が得意です」

「……」

 

 本当です。嘘ではないです。うちは水魔術の家系です。

 

「…授業が終わったら、君はここに残るように」

「はい…」

 

 

 授業の後、私は一人職員室に連れて行かれ先生から色々尋ねられ、細かな魔力量チェックやら習熟度チェックやらを受ける羽目になった。

 おかげで授業初日だというのに4時間目の授業に出られなかった。

 昼休みが始まる頃になってやっと戻ってきた私に、クラス中から刺さる視線が痛い。どうしてこんな事に…。

 

 

 

 

「うわははは!!入学早々説教受ける奴があるか!」

 

 食堂で昼食を食べながら、スピネルにはめちゃくちゃ笑われた。

 何でこんなに楽しそうなんだこいつ!

 

「説教なんてされてませんよ!私は何も悪い事はしてませんし!」

「制御に失敗した訳ではないんだろう?」

 

 殿下に尋ねられ、私は「もちろんです」とうなずく。

 

「もし失敗してたなら、私は今頃魔力制限の魔導具を着けさせられてますよ」

「しかし凄い威力だったな…」

「お前支援と防御がメインとか言ってたのは嘘だったのか。どう見てもばりばりの攻撃系だろ」

「本当です!私は元々水魔術が得意なので、火魔術であんな威力が出るとは思わなかったんですよ」

 

 普段はあまり火魔術を使わないし、使っても制御が目的の訓練だったのでかなり威力を絞っていた。

 思いっきりやったらあんな事になるとは、自分でも分からなかったのだ。

 

「先生に調べてもらった所、知らないうちにこの1年で魔力量がかなり増えていたみたいです。あと、火魔術への適性がすごく伸びていたみたいで…」

「知らないうちにそんなに増えたり伸びたりするものなのか?」

「…前例がない訳ではないようですが…」

 

 魔力量が入学基準を満たしているかどうかの測定は入学の一年前、14歳の時に受ける。

 成長期の子供は魔力量も相応に伸びるので、そこから更に増えるのはよくある事なのだが…今回の私の魔力量の増加は、ちょっと異常と言っていい数値だったようだ。

 

 しかも、火魔術の適性も伸びているというのが分からない。水と火はあまり相性が良くないので、その2つの適性を同時に持っている人は非常に珍しいのだ。訓練で多少は伸ばせるはずだが、火魔術の訓練にそんなに力を入れた覚えはない。

 私の先祖、初代デクロワゾー侯爵フェナカイトも水と火の適性があったと言われているが、正直眉唾ものだと思っていた。もしかして本当だったのだろうか。

 

 先生もかなり不思議がって更に調べようとしていたが、これ以上拘束されたくなかったので「王宮魔術師のセナルモント先生に師事しているので、師に相談してみます」と言って何とか解放してもらった。王宮魔術師の名前の効力は抜群だ。

 実際に教えられているのは古代神話王国についてばかりだという事は当然伏せておく。

 一応は魔術についても相談に乗ってくれたりするし。一応は。

 でも、こうなったからには本格的に指導の相談をした方がいいかもしれないなあ…。

 

 

「そういう事なら攻撃系に転向しろよ。あの調子でドカンドカン魔獣をぶっ飛ばせたら楽しいだろ」

「私はあくまで支援系の!水魔術が得意な!魔術師です!!」

「つまんねえなあ」

「つまらなくて結構です!」

 

 派手で威力がある攻撃魔術というのもそれはそれで良いものだし、必要とあらば使うのだが、私は縁の下の力持ち的に渋く地味に立ち回るのが好きなのだ。

 

「私は地味でいたいのに、また目立ってしまいました…どうして…」

「リナーリア、元気を出せ」

 

 落ち込む私を殿下が慰めてくれる。やっぱり殿下は優しい。

 だがスピネルは容赦ない一言を投げつけてくる。

 

「お前が地味とか、そりゃもう無理なんじゃないか?」

「貴方本当に酷いですね!」

 

 スピネルはいつか締める。絶対にだ。

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