流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する 作:梅杉
今日の昼食は、カルネリア様とそのご友人たちと一緒だ。ペタラ様やリチア様などももちろんいる。
クラスが別々になってしまったカルネリア様だが、学院入学後も仲良くお付き合いをさせてもらっている。私は入学早々にクラスでちょっと浮いてしまったので、とても有難い。
ビュッフェのメニューには好物のフラメンカエッグもあって、私は上機嫌だった。周囲のご令嬢たちと和やかに会話をする。
昔に比べると私も、ご令嬢たちとの会話が上手くなったなあ…。
ちなみに、殿下とスピネルはそれぞれ別の男子生徒達と昼食を取っているようだ。
最近二人は学院内で別行動を取っている所をよく見かける。スピネルは少々騒がしい男子、殿下は無骨な男子とよく話している。
スピネル曰く「四六時中一緒にいたら殿下だって気が詰まるだろ」との事で、前世で基本的にいつも一緒にいた私は大変ショックを受けた。
もしかして殿下もちょっと鬱陶しかったりしたんだろうか…いや、殿下に限ってそんな…。
激しく落ち込みそうだったので深く考えるのはやめた。
「…もう少しで定期テストですわね。少々気鬱です。私、数学が苦手なんですの」
「分かりますわ。私も詩文が苦手で…」
ため息をついたご令嬢方に、カルネリア様が「そうだ!」と両手を合わせる。
「皆でお勉強会をするっていうのはどうかしら?お互いに得意な教科を教え合えば、きっと捗ると思うの」
「まあ、とてもいい考えですわ!」
「私、お菓子を持っていきますわ」
「それは素敵ね!」
きゃっきゃと話が弾み、カルネリア様がにっこりと笑いながら私を見る。
「リナーリア様も来てくれる?スピネルお兄様に聞いたわ、リナーリア様はとてもお勉強ができるって。色々と教えていただけないかしら」
「お役に立てるかは分かりませんが、私で良ければ喜んで」
スピネルがカルネリア様に私の話を…?しかも褒めただと?雪でも降るんじゃないだろうか、まだ秋だけど。
他にどんな事を言ってるのか気になる。ろくな話をしてそうにないんだが…と思いつつも引き受けると、カルネリア様は嬉しそうに「やったあ!」と笑った。
「まあ、それは頼もしいですわ。私にもぜひ教えてくださいませ」
「私もぜひに」
「承知いたしました」
他の令嬢達にも次々と言われ、私はおっとりと微笑んだ。
入学後最初の定期テストだ、心配しなくても難易度はかなり低いと思うが、頼られるのは悪い気分ではない。
それに、何だかこういうのはいいな。友達同士で連帯感が生まれる感じだ。
…しかし、一人だけムスッと膨れた表情になったご令嬢がいる。シルヴィン様だ。
薔薇色の巻毛が特徴的なこのご令嬢は、以前から私に対する当たりが少々きつい。原因は分からないが、どうも嫌われている気がする。
近頃は避けられている気配すらあったのだが、今日はカルネリア様に誘われたらしく同席しているのだ。
困ったなぁと思いつつ愛想笑いをしていると、シルヴィン様は私を睨みながら口を開いた。
「…リナーリア様は、スピネル様とお勉強をなさればよろしいのではないかしら」
「えっ?スピネルですか?なぜ?」
「だって、貴女、スピネル様とお付き合いなさってるんでしょ…!?」
「!?違いますよ!!」
私はびっくりして即座に抗議の声を上げた。
そりゃまあ、そう噂している人達がいるのは知っているが、はっきり言って大変に心外である。
「えっ…?違うんですの?」
「違います!舞踏会でパートナーをやってくれたのは、単に相手がいない私に同情したからです」
「でも貴女、スピネル様とは仲が良いじゃない。いつも呼び捨てにしているし」
「それは友人として親しくしているからです」
「園遊会の時に、お揃いのリボンも着けていたし」
「それも友人同士でのお遊びです。カルネリア様ともお揃いにしましたし」
「階段の踊り場で、だ、抱き合ってたのは?」
「抱き…!?あれは階段から落ちかけたのを助けられただけです!!」
教室移動の途中、近くで話をしていたフロライアの方に気を取られ、足を踏み外してしまったのだ。
同じく移動中だったスピネルが助けてくれて、まあ怪我をせずに済んだのは有り難いのだが、「ちゃんと前見て歩け!だいたいお前は…」だとかその場でお説教が始まってしまい、恥ずかしいわ授業には遅れかけるわで散々だった。
「そ、そうなの…。…でもこの間だって、食堂でイチャイチャと…スピネル様に『あーん』って食事を食べさせてたじゃない!!」
「してませんよ!!?人参なら無理やり口に突っ込みましたけど!!」
「ほら!!してたんじゃない!!」
「違…わないけど違います!!!」
確かにしたと言えなくもないが、全く違う!!あの苦虫噛み潰したみたいな顔のどこがイチャイチャに見えるんだ!!
と言うかこの人、何でこんなにスピネルの行動に詳しいんだ!?
「じゃあ、じゃあ…、あの舞踏会で着けていた、真紅の薔薇の髪飾りは…?」
「あれは確かにスピネルがくれたものですけど、ただのデビュー祝いです!他意はありません!」
「…やっぱりスピネル様が…あれを、貴女に…」
私はきっぱり違うと断言したが、シルヴィン様はショックを受けたような顔で黙り込んでしまった。
後ろで聞いていたご令嬢が、リチア様にこそっと話しかける。
「…どう思います、リチア様?」
「これで何もないというのはちょっと…。限りなく黒に近いグレーですわねぇ…」
「純白で潔白です!!!!大体、付き合ってるっていうのはこう…もっとですね…て、手を握ったりとか?詩や花を贈ったり、あだ名で呼び合ったり…実家の税収とか借金の有無とか結婚式に呼べる人数とかを話し合うものでしょう!!」
「お花畑かと思ったら後半急に生臭くなったわね」
「どっちにしろ聞き齧っただけっぽさが漂いますわね…」
「なっ…!?」
カルネリア様達に突っ込まれ、思わず口をぱくぱくさせてしまう。
違うの?じゃあ世の中の恋人同士って、二人で一体何をしてるんだ?
他に思い付いたのと言えば、とても食堂内で言えるような内容ではなかった。貴族令嬢としていくら何でもまずい。
ええと、前世の婚約者とは何をしていたっけ…?お茶を飲みながら話をした記憶くらいしかないぞ。
しかも特に話が盛り上がった覚えもないし、毎回彼女が不機嫌になるか私が怒られて終わっていた気がする…。
「…あっ、城下町でデートとか!?これはちゃんと恋人同士っぽいですよね!?」
「それは良いと思うのだけど、リナーリア様、完全に話がズレているわ」
「はっ…しまった…!」
シルヴィン様はバカにされたと思ったのか、ちょっとぷるぷる震えている。まずい、これはかなり怒っているのでは…。
そもそもシルヴィン様は、何故そんなにスピネルにこだわるんだろう?と思い、私はそこでぴーんと閃いた。
…もしかしてこの方、スピネルの事が好きなのでは?
だとすれば今までの彼女の態度にも説明がつく。単純な嫉妬だ。
なら、解決は簡単である。私とスピネルはそんな関係ではないと、ちゃんと納得してもらえばいい。
あけましておめでとうございます!
年末更新が滞ってしまいましたが、できるだけ更新ペースを戻していきたいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。