流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する 作:梅杉
「あっ、リナーリア様、おはよう!」
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます」
「おはようございますわ」
教室に向かう途中の廊下で、カルネリア様とペタラ様、リチア様に声をかけられた。
3人で立ち話をしていたらしい。もうすぐ始業時間だというのに、女性は朝から賑やかだなあ。
「そうだ、リナーリア様。昨日、ミニウム様と一緒に何処かにお出かけなさってませんでした?」
「あ、はい。デクロワゾー邸の方へ」
リチア様に尋ねられ、私は答えた。
狭い学院内の出来事はあっという間に噂となって伝わるものだ。単に私達が校門を出る所を見かけただけかもしれないが。
「お屋敷の方へ?…って、お兄様、王子殿下。おはようございます」
カルネリア様の視線を追って振り向くと、ちょうど登校して来たらしい殿下とスピネルがいた。
にっこりと笑顔を浮かべ、朝の挨拶をする。
「おはようございます、殿下、スピネル」
「ああ、おはよう」
「お、おはよう…」
おい、スピネル。私はちゃんと笑って挨拶したのに、何で一歩後ずさっているんだ。
殿下はちょっと困った顔をしているし、カルネリア様は小首を傾げて私とスピネルを交互に見た。
「どうしたの?何かあった?」
「いえ。特に何も」
「ああ。何もない」
「…もしかして喧嘩でもした?」
「いいえ。そんな事はありませんよ」
「おう。別に、いつも通りだ」
「……」
私は努めて平静に答えているし、スピネルもそれに同意したのだが、何故か女性陣は顔を見合わせた。
そしてヒソヒソと囁き合う。
「これ、絶対何かあったわよね?」
「そうですね…」
「いつもとは様子が違いますわ」
…全部聞こえてるんだが。
どこか態度がおかしかっただろうか?本当に気にしていないのに。
いや、私がちゃんといつも通りに接しているところを見れば、皆分かってくれるはず。
「本当に何もありませんよ。そうですよね、スピネル?」
「お、おう。…もちろん」
「ちょっと何ですかそのギクシャクした返事は!貴方がそんなだから誤解されるんですが!?」
「お前がそうやって怒るからだろ!?」
「怒ってません!」
「だから悪かったって言ってるじゃねえか!」
「そっちこそ、謝らなくていいと何度言えば分かるんですか!」
またもや女性陣がヒソヒソと囁き出す。
「これは少々拗れていそうな雰囲気ですわね…」
「一体何をやったのかしら」
「私が思うに、痴情のもつれではありませんかしら?」
「いえ、王子殿下もいるんですし、三角関係じゃないでしょうか…!」
「全く違います!!!」
つい我慢しきれずに突っ込んでしまった。
女性はどうしてこう、話に恋愛沙汰を絡めるのが好きなのか。常識人だと思っていたペタラ様まで…そういやこの人恋愛小説好きだったな…。
「殿下は原因をご存知?」
「俺からは何も言えん…」
「何度も言いますが、私は別に怒ってなどいません」
「お兄様、何があったか知らないけれど、早めに謝った方が良いわよ」
「だから俺は謝っ…」
「何でもないと言ったら何でもないんです!!という訳でこの話はおしまいです!!」
何か言いかけるスピネルを遮り強引に話を終わらせると、あたりにチャイムが鳴った。朝礼の時間だ。
私は納得が行っていない顔のカルネリア様に笑顔で一礼し、教室に入って席についた。
その日の昼食は、スフェン様と一緒だった。
カルネリア様は私から話を聞きたがっていたようだが、こちらが先約だったのでしょうがない。またオットレと言い争いになったら面倒だからと、スフェン様は前もって予約してくれていたのである。
…人気レストランか何かか?私は。
食堂に行くと、上級生の男子達がわいわいと盛り上がっているのが見えた。
どうも中心にいるのはミニウムのようだ。嬉しそうな顔をしている。
午前は剣術の授業で試合をやると言っていたが、あの様子なら上手く行ったに違いないな。周りの男子が盛り上がっているのは、きっと勝利を祝福してくれているのだろう。やはり彼は人望がある。
ミニウムからは放課後に報告を聞く予定なので、楽しみにしておこう…と思いつつ、スフェン様の姿を探す。
どこにいても目立つ彼女はすぐに見つかった。一番端のテーブルに、たくさんの女子と一緒に座っている。
その赤茶色の瞳が一瞬だけミニウムの方に向き、私は思わず瞬きをした。
「…あっ、リナーリア君!こっちだよ!」
だが、次の瞬間には彼女はもう私の方を振り返っていた。妙に絵になる仕草で手招きをしている。
「今日は『シレーヌ・ド・ベルジェラン』の話をしようじゃないか!君が勧めていた小説版をボクも読んでみたんだ!」
「ああ、そうなんですね。どうでしたか?」
「実に面白かったよ!演劇版とはまた違った良さがある。特に戦場でのクリスティアーノの心情なんか細やかでね」
「そのあたりは、小説ならではの表現ですよね」
早速語り出すスフェン様に笑顔を返しつつ、ポテトサラダを口に運ぶ。
彼女、ずっと喋り続けてる割には気が付いたらちゃんと食事を終えてるんだよな。うっかりすると私だけが全く食べ終わってないなんて事態になるので注意しなければいけない。
…それにしても、とスフェン様のきらきらと輝く瞳を見つめる。
いつも陽気な彼女だけど、さっきミニウムを見ていた目は、何だかとても…とても、優しかったように思う。
彼女からミニウムの名前を聞いた事はない。いつもファンクラブの女子が一緒だし、彼女たちは基本的に男子の話をほとんどしないのだ。
幼馴染のミニウムが最近私と親しくしている事はスフェン様も知ってるだろうと思うのだが、何か尋ねてきたりもしない。
「…それでね、とても参考になるから、部の皆にも順番にこの小説版を読んでもらっているんだ。ずっと貸し出し中になるから、図書館には申し訳ないけどね」
「ええ、次はわたくしが借りる番ですの!楽しみですわ!」
「私もお勧めした甲斐がありました」
あの目の事が気になりながらも、賑やかな昼食は終わった。
そして、放課後。
ミニウムは私の顔を見るなり、満面の笑みで報告をしてくれた。
「やったよ、リナーリア!僕、今日の授業で模擬試合に勝てたんだ!」
「本当ですか?おめでとうございます!」
「うん、2戦2勝だった。皆びっくりしてたよ。自分でも驚きなんだけど…」
「ミニウム様には元々それだけの力があったんですよ」
「うむ。実力を発揮できるようになって良かった」
「だな」
「お二人のおかげです!本当にありがとうございます!」
やはりミニウムは勝利できていたらしい。喜びの報告に、殿下とスピネルもそれぞれ安心した様子だ。
二人共、彼がどうなったか気になってこうして集まってくれたのである。
ついでに言えば…。
「では早速、これから手合わせというのはどうだ?」
「そうだな、今度こそまともにやり合えるだろ。どうだ、ミニウム?」
「あ、ありがとうございます!喜んで!」
やはり二人共、一番の目的はミニウムとの再戦のようだ。最初の試合はグダグダだったし、昨日は変装しての奇襲で、真っ当な勝負はまだやれていなかったからな。
本気を出したミニウムなら、この二人相手にもきっと良い試合ができる。期待できそうだ…と思っていると、スピネルがちらりと私を見た。
「あー、お前も来るんだよな?」
「当たり前でしょう。それが何か?」
「いや、ただの確認だ」
気まずそうに目を逸らす。何だよ、一体。
ちょっぴりムッとしつつも、とりあえず皆で闘技場へと向かう事にした。
しばらく更新が止まっていましたが、再開いたします!
大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
プライベートが多忙のため、今後は以前のようなペースでの投稿は難しそうなので、週一回程度の更新を目指します。
どうぞよろしくお願いいたします!