流星の天秤~貴族令嬢になった元従者、王子を救うために奮闘する 作:梅杉
「話を戻そう。結局クリードは、ミニウム…セラミカに会って何をしたいんだ?」
そう尋ねたのは殿下だ。
クリードははセラミカに会いたいと言いつつ、ミニウムには興味がないと言う。なら一体、会ってどうしたいのか。
「ええと…」
「…それを確かめたいんだと思います。そうだろ、クリード?」
言い淀んだクリードの代わりに答えたのはスパーだった。
クリードが「そう、それ!」と表情を明るくする。
「さっすがスパー!よく分かってるじゃん!」
「えー、つまり…?」
「どうしてそんなにセラミカの事が気になるのか自分でも分からないので、会ってみたら何か分かるかも…って思ってるんです。こいつは」
「そう、そう」
大きく頷くクリード。私もそれにうなずき返した。
「なるほど…自分で自分の感情を理解できないというやつですね。まだ精神的に未熟な思春期にはよくある事です!」
「いえあの…そういうのとはちょっと違うかなと…」
「え」
違うのかよ。なるほどとか言った私の立場は…。
横でスピネルが「ブッ」と吹き出す。
「何で笑うんですか!」
「だってお前ドヤ顔で…」
「ちょ、ちょっと予想が外れただけじゃないですか!」
「しかも未熟だの思春期だの、自分だって同じ15歳のくせに…。それ、どうせ恋愛小説かなんかで読んだんだろ?」
「ぐぬっ…」
図星を突かれて呻くと、スピネルは我慢できないとばかりに腹を抱えて笑い出した。ムカつく…!!
本当は私はお前よりも年上なんだが!人生経験豊富なんだが!そりゃまあ、恋愛経験は少ないけど…いっぱい本読んでるし…!!
悔しくて赤面する私に、スパーはちょっぴり苦笑しつつ説明を続ける。
「実は、クリードも最初はこんなんじゃなかったんですよ。確かにあのミニウム先輩の試合を見た日は、凄かったーとか可愛かったーとか言って騒いでたんですけど、まあいつも通りはしゃいでるだけで、会いたいとかまでは言ってなくて」
「そうだったっけ?」
「そうだよ!」
首を傾げているクリードに、スパーが突っ込む。
スパーはいつもクリードに振り回されている印象なので、本人よりもよく記憶しているのかもしれない。
「騒いでたのはせいぜい3日くらいですかね。その後はいつも通りで。でも、10日くらい経ってからだったかな?急に、夢にセラミカちゃんが出て来たって言い出したんですよね」
「夢に?」
「その時も別に普通な感じだったんですけど、何日かしたらまた、セラミカの夢を見たって。そんな事が何回かあって。だんだん会いたいとか言うようになって」
「だって最近じゃもう、ほとんど毎晩夢に出てくるんだよねー。そんなの超気になるじゃん!」
「毎晩…?」
私と殿下とスピネルは思わず顔を見合わせた。
毎晩夢に見るというのはかなり思い詰めているように聞こえる。普通ならちょっと心配になるところだ。
「何か変だな。それじゃあセラミカが気になってるから夢に見たってより、夢に見たからセラミカが気になりだしたみたいじゃねえか」
「確かに、順番が逆のように思える」
「俺も自分でちょっと変だなって思うんだよね。セラミカちゃんは可愛いけど、中身がミニウム先輩だってのは分かってるし、俺だってやっぱ付き合うなら普通の女の子がいいしさー。でももう、こうなったら会わないと気が済まない感じで」
それは当然だろうな。そんなに夢に見るんじゃ、気になるし会いたくもなるだろう。
クリードも口調こそいつもの軽い調子だが、腑に落ちない表情をしている。
殿下がもう一度スパーを見る。
「スパーはどう思っているんだ?」
「僕もまあ、少しは変だなって思いますけど…でも印象に残った事とか気になってる事を何回も夢に見るのって、わりとよくある話じゃないですか?僕だって近頃よく、妹の夢見ますし」
うーむ、これもまたもっともな意見だ。
似たような夢を何度も見る事自体はそれほど珍しくはない。私だって、前世の記憶を夢に見て夜中に飛び起きるなんてのがしょっちゅうあるし。
でも同じ人物が毎日繰り返し出て来るというのはさすがにどうだろう。少し異常ではないか…と考え込んでいると、クリードがニヤニヤとからかうような笑みを浮かべてスパーを見た。
「スパーはシスコンだからなー」
「違うってば!領地帰った途端に風邪引いたっていうから気になってるだけ!大体な、クリードがセラミカにこだわるのってどうせ、先月彼女と別れた反動だろ!」
「うわー!!やめろよせっかく忘れたのにー!!」
「えっ、そうなんですか?」
それは初耳だ。こいつ恋人いたのか。
どうやら殿下とスピネルも知らなかったらしく、目を丸くしている。
「付き合ってほんの数日で振られたんですよ。初デートに3時間も遅刻して怒らせちゃって」
「うわあ…」
「それはダメだろ」
「しょうがないだろ!!浮かれすぎて前の日全然寝付けなかったんだから!!」
「同情はするが、俺もそれはダメだと思うぞ…」
「で、殿下まで…」
周り中から責められたクリードはしょんぼりと肩を落とした。さすがに反省しているようだ。
その姿を見て、スピネルがふと気付いたような顔になる。
「…じゃあもしかしてあの時、リナーリアと喧嘩したのかだの早く謝れだの、俺にしつこく絡んできたのって…」
「うん。だって悲しいじゃん、喧嘩別れとかさー」
それって剣術の授業でクリードがスピネルを怒らせた時の話か。
何故わざわざ地雷を踏みに行ったのかと思っていたが、クリードなりに心配しての事だったらしい。
「……」
スピネルは少しの間黙り込むと、これ見よがしに腕を組んでため息をついた。
「はぁ…仕方ねえな。リナーリア、ミニウムに頼んでやれよ。あいつならきっとやってくれるだろ、そのセラミカってやつ」
「それは構いませんが…」
「どうもおかしな話なのは気になるが、このまま放っとくのも良くないだろ。いっぺん会えばすっきりするんじゃねえか?」
「ふむ…そうだな」
「しかし、振られるだけになるのでは?」
このままでは良くないと私も思うし、すっきりすると言われればそうなのかも知れないが、結果が分かっていて会わせるのも少々気が引ける。
そう言うと、スピネルは軽く肩をすくめた。
「そん時は慰めてやりゃいいだろ。盛大にな」
「…ふぅん?」
「何だよ」
「いえ。ちゃんと慰める気でいるんだなと思いまして」
にんまり笑いながら言うと、スピネルは分かりやすくムスッとした。
「またあーだこーだ騒がれたら面倒だからだよ!」
「はあ」
「そういう事にしておいてやろう」
私と殿下は顔を見合わせて笑った。
本当は、大人げなく怒った事を悪かったと思ってるんだろうに。素直じゃない奴。
「分かりました。では私の方からミニウム様にお願いしてみます。ただ準備にちょっと時間がかかると思いますので、いつ会えるか決まったらお知らせしますね」
「ありがとう、リナーリアちゃん!!」
「すいません、こいつのために…。よろしくお願いします」
「私は話を繋ぐだけですから、お気になさらず」
クリードは大喜びで、スパーはちょっと申し訳なさそうに言った。
まあミニウムなら、あまり傷付けないようきっと上手くやってくれるだろう。…
話がまとまったのを見て、スピネルががたがたと席を立つ。
「よし、なら今日はこれで解散だな。じゃあな!また明日!」
「何を言ってるんですか。まだ時間はありますし、図書室に戻りますよ」
「む…そう言えばそうだったな。今日は元々、勉強の約束だった」
すっかり忘れていた様子の殿下はともかく、スピネルは明らかに逃げる気だった。
軽く睨みつけると、ぷいっと目を逸らす。
「ちゃんと今日の分を終わらせるまで帰しませんからね!」
「わかった、わかったよ!」