俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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エマージェンシー・ゴルドロス ①

優子さんに見つからないように忍び足で辿り着いた自室の扉を開く。

元は物置だった部屋はカーテンが閉め切られ、清々しい朝の陽ざしを完全にシャットアウトしている。

 

気だるい体をシンプルな造りのベットへ投げ出す。

怪我こそ治ったが倦怠感までは治らない、まだ背中が突っ張るような気もした。

 

優子さんは朝が弱い、なので開店はいつも遅めだ。

それまでに体を休めて今日の仕事に備えよう。

 

《お疲れ様ですマスター、もう今日は一日このままぐったりしてましょう》

 

「だめだ……仕事がある……」

 

《はぁ~~~~……魔石を食べたところで体調が万全なわけじゃありません、無茶をすることは美徳じゃないですよ》

 

長い溜息を吐いてハクがくどくどと説教を垂れる。

 

「バイトは今日は休み……俺が調理場に立たないと……」

 

《今日もお店休みにしちゃいましょうよ……あだっ!》

 

生意気なスマホを指ではじく、そういう訳には行くかバカ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「顔色が悪いね、今日はもう休みにしましょ」

 

「優子さんはそういう事言う……」

 

朝9時前、支度を終え調理場に立っていると遅れて降りてきた優子さんが開口一番これだ。

 

「店の経営大丈夫なんスか……客の入りも良い方じゃないでしょ」

 

「葵の稼ぎだけでお釣りは十分よ、この店はただの私の趣味。 あの子が帰ってきてた時に美味しいごはんさえ用意出来れば良いの」

 

……実際政府から魔法少女へ払われる額は相当だ、それだけでも十分に生活していける。

正直こんな店を経営する必要もない、優子さんの言う通りこの店はただの彼女の道楽だ。

 

「葵は魔物退治に出てそのまま学校……どうなったのかしら」

 

「ああ、魔物なら無事倒されたみたいすよ。 朝一のニュースでやってました」

 

「……そ、ならよかった」

 

そっけない態度にも思えるが、こぼれた安堵のため息は我が子への愛情を感じさせるもの。

幼い娘をいつ死ぬか分からない戦いへ赴かせる、それは親にとって想像もつかない苦痛のはずだ。

 

家族愛、俺にはもう手が届かないものだ。

だからこそ無くしてはいけないものだと分かる、守らないといけないものだと知っている。

魔法少女にだって家族は居るんだ、やっぱりアオには……彼女達には戦ってほしくない。

 

「あんたも今日は休みな、昨日の怪我まだ引きずってんでしょ。 やせ我慢は毒だよ」

 

「あはは……そうしときまーす」

 

優子さんに睨まれすごすごと二階の自室へ戻る。

ベットに寝転がってみても不思議と目は冴えたままだ、まだ戦闘の興奮が冷めていないらしい。

 

《やりましたねーマスター、休暇ですよ休暇! 今のうちにバッチリ惰眠を貪って体を回復させましょう!》

 

「んー、その前にちょっとニュース開いてくれるか……」

 

《えー、ブルーライトは睡眠に悪いですよ? まったく現代人はスマホに依存しすぎですよまったくまったく……》

 

ぶつくさ文句を言いながらハクがフレームアウトすると独りでにブラウザが立ち上がり最新のニュースを自動的に検索してくれる、便利だ。

その中から今朝のニワトリに関する記事をタップし、被害に関する項目に目を通す。

 

「消火栓破裂により一部水道が断水……やりすぎたかな」

 

《緊急事態ですししゃーなしですよ、あれが無ければ今頃私たち火だるまです》

 

内容自体は迅速な対応により被害も少なく、黒い魔法少女に対する感謝が書かれているもの。

しかし被害は少なかっただけだ、ゼロではない。

 

「……軽度の火傷、擦り傷などを負った被害者が5名か」

 

《逃げる時にすっころんで怪我しただけでしょう、火傷も面白半分で火に手を出したバカだけです》

 

「あいつが街に入ってくる前に止める事が出来れば被害は0だった」

 

《そんな真似を誰が出来たっていうんですか、マスターが偶然早くあのニワトリと遭遇できたから対処も早かったんです。 私達がいたからこの結果で終わったんです》

 

ハクはそういうが、本当にそうだろうか。

もっと上手くやる手段はあったかもしれない、あったはずだ。

ならばやはり最善を選べなかった自分に責任がある。

 

「……駄目だな、まだまだあいつみたいにゃなれない」

 

《……? 誰の話です?》

 

「何でもないよ、今度はもっと上手くやるさ。 次は民間人や警官にも被害が……」

 

……警察? はて、そういえば何かを忘れているような。

 

「…………あ゛っ」

 

《マスター? どうかしました?》

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ひー君が私の見舞いに……!? 嬉しい、抱いて!!」

 

「帰るわ」

 

「待ってぇん!!」

 

土産のコンビニスイーツを置いてさっさと立ち去ろうとするが止められる。

昨日と同じ交番、昨日と同じ内装、違うのはデスクに座るおっさんの体中に包帯が巻かれていることくらいか。

 

「そんな怪我で大丈夫なのかよおっさん、病院には行ったのか?」

 

「いや、これは昨日とは別件よ。 あんな子蜘蛛如きに傷つけられる身体じゃないわん」

 

やっぱりこの人は魔人か何かだと思う、至近距離であれ喰らって無事とかどんな躯してんだ。

となると気になるのはその化け物じみたおっさんに包帯を巻かせた「別件」とやらだ。

 

「ならおっさん、その包帯は何なんだ?」

 

「ん……まあ色々とね、女には秘密ってものがあるのよ」

 

ははは、ドタマいかれてんのかこいつ。

まあ言いたかないなら別にいいか、何かしら人に言えないような恥ずかしい理由でもあるんだろう。

 

「しっかしここら辺もすっかり元通りだな、昨日の今日だろ?」

 

「ああ、それは“ドクター”が治してくれたのよ。 魔法少女って本当にすごいわねぇ……」

 

ドクター、確かそう呼ばれる魔法少女がいるとアオから聞いたことがある。

魔法少女としての特徴は希少な治癒能力をもつとか、後方支援がメインでメディアに顔だしする機会も殆どない。

俺も姿を見た事はない、あだ名からして医者の様なものかと思えばまさか物まで直せるとは。

 

昨日、クモがまき散らした災厄の爪痕は欠片も残っていない。

いつも通りの平穏、この交番だって相当な被害を受けただろうに罅の一つも無い、ただ1つ気になることがあれば……

 

「……なんか、カクついてないか?」

 

「私もよく分からないのだけどぉ……じきに馴染むらしいから」

 

交番や周囲を風景をよく見ると、本来丸みを帯びているべき箇所がいやに角々しい。

歩道橋の手すり一つとっても四角だ、まるでブロックを積み上げて作った様な違和感がある。

 

「ともかく魔法少女には感謝しかないわぁ、ドクターにも……あの黒い魔法少女にも」

 

「そ、ソウダナー……」

 

いけないいけない、無意識に返事がこわばってしまう。

黒い魔法少女とやらは十中八九俺とハクが変身したものだろう、どうやらまだブルームスターの名は広まっていないらしい。 ちょっと悲しい。

 

「聞けば今朝のニワトリも相当無茶をしたらしいじゃない? 心配だわぁ、公式(オフィシャル)な子でもないらしいし……」

 

「アアウン、ソダネ、ソーダネ……」

 

顔見知りと自分の女装(?)姿について話すなんてどういう拷問だよ。

嫌な汗が止まらない、ボロが出る前にさっさと立ち去ってしまうべきだ。

スイーツが入ったレジ袋をデスクの上においてさっさと立ち去……

 

「――――Hey! 今、ブルームスターについて話してたカ!?」

 

……ろうとして、出入り口を幼女に塞がれた。

ツーサイドアップに纏められた透き通るような金髪、ぎらぎらと輝く碧眼は強気に釣り上がっている。

手にもったクマのぬいぐるみを凶器で脅すかのように突きつける、ゴスロリ少女がそこにいた。

 

「……え、えっと……誰?」

 

「あ、あわわわわ……あんたは今朝の……!」

 

「質問してるのは私ダヨ、“ブルームスター”についての情報をあなたが知ってるか? それは実に私へ話すべき内容だと思いマスだヨ!」

 

怪しい日本語の金髪少女と、それに怯えるオカマの警官。

えっとこれは……どういった状況なのだろう?

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