俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ベストマッチ・フレンズ ③

オーキスに叩き落された地下の(うろ)をフラフラと落下する。

落ちるだけならまだいいが、時おり壁や頭上から巨大なミミズの様な魔物が牙がびっしりと並んだ大口を開け、襲い掛かってくるのだから気が抜けない。

巻き起こす風で姿勢を制御し、首を切り落とし、炎で焼き、何とか処理し続けるがこうも次から次へ湧いてくると手が回らない。

やがて私の刀捌きに限界が訪れ、背後の壁から飛び出したミミズへ一瞬反応が遅れた――――その瞬間、頭上から遅れて墜ちて来たロウゼキさんが、ミミズの首を手に持つ扇で撫で斬った。

 

「っ――――すみません、助かりました!」

 

「ええよええよ、それより気ぃつけぇ。 この下は特別魔力が濃いなぁ、地面とぶつかると結構痛いで?」

 

「それはもっと早く教えていただきたかったです!!」

 

悠長に話している間に地面はすぐそこだ、何とか巻き起こした風で着地の衝撃を和らげるが、殺しきれない衝撃に両足が痺れる。

濃密な魔力が地面に染み込み、地形に魔法的特性を与えているのか、忠告がなければ危なかった。

ロウゼキさんの方を見れば彼女は難なく着地……した割には足元にはまるでクレーターのように凹んでいる、彼女の魔法による影響だろうか。

 

「ふぅ、えろぅ落ちたもんやなぁ。 ラピリスさんはどない?」

 

「大、丈夫です……! 脚は痛いですが、それよりここはどこでしょう……?」

 

空を見上げるが、落ちてきた穴は豆粒のように小さい。 這い上がるのは難しいだろう。

薄暗い周囲には、巨大な柱が立ち並ぶ殺風景な空間が広がっている。

足元には何年もの間に降り注いだであろう土埃が堆積し、靴底で拭ってみるとこれまた巨大な白黒のチェック模様が顔を出した。

 

「――――なんとか放水路って言うらしいよ、もう何年も放置されて所々脆くなってるけど」

 

私の疑問に答える声が暗闇に響く、反射的に声の聞こえた方へ顔を向けると、カミソリの刃を引きずりながらオーキスがその姿を現した。

彼女もまたあの長い縦穴を落下してきたのか、花嫁衣裳の様なドレスは所々土埃にまみれて汚れてしまっている。

 

「……意外ですね、てっきりまたお得意の不意打ちで来るのかと思いましたが」

 

「け、警戒されちゃ効かないよぉ……けど2人かぁ、ラピリスだけなら楽だったんだけどなぁ」

 

オーキスがロウゼキさんの方を一瞥し、苦々しげな感想を漏らす。

私だけなら何とでもなるような言い草だが、そんな安い挑発には乗りはしない。

 

「ふふ、おおきに。 オーキスはん、やったっけ? 一応聞くけど投降は?」

 

「今更すると思う? ここにあるのは殺るか、殺られるかだけだよ」

 

「せやろなぁ……ざぁんねん」

 

次の瞬間、砂埃を巻き上げてオーキスの姿が消え失せる。

またカミソリで作った「切れ目」に潜り込んだか、奇襲に警戒しようとロウゼキさんに声を掛けようとしたとき――――いつの間にか目の前に立っていたロウゼキさんが、私目掛けて拳を振るっていた。

 

反応する暇もない速度の拳は私の頬を掠め、背後から首筋目掛けて飛んで来たカミソリを弾き返す。

足元ばかりに意識が向かってまるで気づかなかった、ロウゼキさんの助けがなければ首が飛んでいた所だ。

 

「あ、ありが……」

 

「おしゃべりは後にしよか、結構強いわぁあの子」

 

カミソリを殴りつけたロウゼキさんの腕はサックリと赤い筋が刻まれ、赤い液体が滴っている。

ここまでの戦闘で擦り傷一つ負わなかった彼女が初めて手傷を受けた、それだけの実力がオーキスにはあるということか。

 

「か、簡単に弾いてくれるなぁ……それに、“あの子”なんて上から目線はやめてよぉ、私の方がお姉さんだもん」

 

ただ広いだけの空間にオーキスの声が反響する、舞い散る砂塵と濃い魔力に気流が誤魔化されて詳しい位置は絞れない。

むっとしたその声はロウゼキさんの発言に憤っているようだが、実際はロウゼキさんの方がずっと年上だ。

 

「ふふ、悪いけどうちはもう二十歳よ? ざぁんねん残念」

 

「……? 何、こんな時に冗談?」

 

「ちゃうちゃう、せやなぁ……魔法少女第一世代、始まりの10人。 この都市にあの不細工な壁立てたうちの1人って言えばわかる?」

 

「―――――――」

 

 

――――全身の毛が逆立ったような気がした、この場に満ちる魔力が全て全身に鳥肌が浮き出るほどの憎悪で満ちる。

それが丸ごと込められたかのような斬撃が一筋の残光を残して走り、一直線にロウゼキさんを殴りつけた。

 

「――――ロウゼキさん!?」

 

「お前……お前か、お前が!! 私達の東京を……皆をォ!!!」

 

 

風に吹かれた紙のごとく吹き飛んだロウゼキさんの体は、巨大な柱を1つ2つと貫いて彼方の闇まで消えて行った。

辛うじて刃自体はガードしていたが、普段は無視できる地形の影響をもろに受けるこの場所、今のは相当堪えるはずだ。

 

「邪魔だ、退けッ!!!」

 

「待ち……ぐ、がはっ!?」

 

せめて彼女への追撃を防ぐようにオーキスの前に立ち塞がるが、上段から遠心力を乗せて振り下ろされたカミソリの刃が構えた刀ごと私の体を押さえつける。

そのまま膝をついた私の頭を蹴り飛ばし、オーキスがロウゼキさんが吹っ飛ばされた方へ目掛けて走る。

今の彼女は私など眼中にない、あるのはロウゼキさんに向けられた殺意だけだ。

 

「せやなぁ、うちが壁を建てた、うちが見捨てた。 壁の外と中を測って、東京以外の全部を選んだ」

 

舞い上がる砂塵を振り払い、その中から変わらぬ笑みを浮かべたままのロウゼキさんが姿を現す。

土に汚れてはいるが彼女にこれと言った負傷はない、流石というべきかなんというか。

 

「だから、な。 大体全部うちが悪いんよ、怒るんならそれ全部うちにぶつけてええから」

 

「ふざけるな……ふざけんなぁ!!」

 

オーキスが力任せに振り下ろしたカミソリと、ロウゼキさんが構えた札がぶつかり合う。

ギャリギャリと金属の削れる音を立て、2人の間に激しい火花が散っては消えていった。

 

「ロウゼキさん!! 今加勢に……」

 

「こっちはええ、あんたはどうにか上に登り! 巻き込んでまうわ!」

 

「けど! っ……いえ、分かりました。 ご武運を!」

 

彼女の言うことは決して誇張でも私への気遣いでもないのだろう。

2人の間に割って入ったところで足手まといになるだけ、それなら他の魔法少女たちと合流した方が良い。

ロウゼキさんなら大丈夫だ、私にできるのは一秒でも早く皆を連れて戻ってくることだけ。

どこか上に繋がる道があるはずだ、早く、早く……

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ひゃあああああぁぁああぁああぁあああああ!!!??」

 

シルヴァ一生の不覚、魔物から逃げる事ばかり必死になって足元への注意がおろそかになっていた。

そして落ちた所も運が悪い、ぽっかりと開いた穴は特別深く、どこまでも私の体を落として行く。

加えてここら一帯は特別魔力が濃い、このまま地面に叩きつけられれば結構なダメージになるだろう。

いつもなら空を飛ぶぐらいわけないが、今は手元に杖がない。 何か手段はないものか……

 

「……ん、お姉。 上から人」

 

「ふむ、間抜けな敵が自らの罠に嵌った……とは思えませんわね。 つまり不運な味方と見ましたわ! とおぉー!」

 

高らかな掛け声とともに、下から差し込まれた両手が優しく私の体を受け止める。

落下の衝撃を覚悟して閉じていた眼を恐る恐る開けば、そこには私の顔を覗き込む2人の魔法少女の姿があった。

 

「ツヴァイシスターズ、ただいま参上! さて、それであなたはどこのお姫様ですの?」

 

「つ、つばめシスターズ……?」

 

「ツヴァイ、この街の涙をぬぐいに来た2色のハンカチという意味ですのよ。 ふっ……決まった」

 

「お姉、一言余計」

 

……助けてもらって失礼な事を考えてしまうが、この二人は一体誰なのだろうか。

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