「ツヴァイシスターズ、妹の方。
「同じくツヴァイシスターズのクールビューティな方、
「……補足、お姉の喋るクールビューティ(笑)はぬるい女という意味」
「どういう意味でごぜぇますの園ぉ!!」
「ほらね」と言いたげに眠たげな瞳でほくそ笑む妹と、烈火のごとく怒りを見せる姉。
真逆な印象を与える二人は喧嘩するほど何とやらという奴か、この喧嘩もじゃれ合っているだけだろう。
微睡んだ左目がぼさぼさに伸び切った髪で隠れる妹、深めに被ったハットの鍔でつり上がった右目が隠れる姉。
2人とも裾がスカートのように広がったインバネスコートを纏う姿は、まるで小さな探偵の様だ。
双子の魔法少女とは珍しい、けど今の状況で他の魔法少女と合流出来たのは心強い。
「シルヴァ、事情は分かった。 けど私達は協力出来ない」
「な、何故だ!?」
「そうですわよ園、気は確かでして!?」
「お姉は黙る。 理由は1つ、私達は別の目的で動いてる」
そういうと妹さんは懐から小型のノートパソコンを取り出し、開いた画面を見せる。
そこに写されているのは複雑に書き込まれた地図の画像、所々途切れているのはまだ書きかけだからだろうか。
「これは……東京の地図、か?」
「そう、正確にはその地下。 私達はこの迷宮を網羅してある施設を探し出さなければいけない」
「ある施設……?」
「全ての元凶、
――――それは10年前、災厄の日を巻き起こした爆心地の名前。
そしてこの東京にて、最も危険である場所だ。
「……私の魔法は戦闘向きではない、お姉にこれ以上のお荷物は抱えさせられない」
「園は荷物ではありませんわよ、それに1人2人増えた所でどうってことありませんわ!」
「この通り、見得を張って自爆する人。 無茶はさせられない」
「……そう、か」
杖の無い魔法少女など、魔物相手には良いおやつと変わらない。
2人の構成は分析役の妹と、それを守る姉というところか。 彼女達には別の使命がある上でもう一人分の命を預かってくれとはとても言えない。
それに私の目的はスピネを止める事だ、隠密で行動するこの2人について行ったところで彼女には会えない。
「しかし園、だからと言ってみすみす見捨てる訳にはいきませんわ。 ロウゼキさんに連絡は?」
「魔力が濃すぎる、通信機は全てダメ」
「むぅ……それならあなたにこれを渡しておきますわ」
「……? これは?」
お姉さんの方から黒く澄んだ宝石の様なものを渡される。
綺麗にカッティングされてはいるがこれは魔石だ、受け取った掌から仄かに魔力の鼓動を感じる。
「いざという時の切り札、と思ってくれれば。 もう駄目だと思った時にはそれを地面に叩きつけなさい」
「もったいぶるのはお姉の悪い癖、それはただの目くらまし。 割れると煙と光が飛び出る仕掛け」
「そうか……ありがとう二人とも、助かる!」
「礼などいりませんわ、それとまだ未完成ながらこちらの地図を。 地上に出るならこちらの線路を辿れば地下鉄に出ますわよ」
「ん、武運を祈る」
2人と別れ、巨大な柱が立ち並ぶだだっ広い地下を走りだす。
黒い魔石をぎゅっと握りしめ、貰った地図を辿って線路を探す。
本当にこれが正しい事なのか分からない、少なくともあの双子について行った方が私の身の安全は保証されるはずだ。
だがたった一つだけ呑み込めない違和感が私を突き動かす。 魔法少女を殺すと誓った、スピネから感じた違和感が。
「……お前も死ぬ気なのだろう、スピネ」
――――――――…………
――――……
――…
あらゆるものが燃え尽き、煤け、白と黒しか残らなくなった世界の中心に2人の化け物が立っている。
一人には胸元に開いた風穴からぼたぼたと鮮血を流す
対する相手は歪に凹んだ鎧を身に纏い、頭からは炎を吹き出すガイコツの化け物。
鎧の凹み方からして、肺があるなら呼吸は出来ないほどに歪んでいるはずだ。
所々赤熱した部分は肌を焼く激痛を与えるはず、しかし目の前の騎士は一切苦しむ様子はない。
盾を砕き、頭を蹴り抜き、鎧を貫き、炎を浴びせ、関節を折り、馬脚を殴ろうとも一切怯むことなく騎士は槍を振るう。
こちらはもう何遍死んだかも分からないのに一切光明が見えない、思わず舌打ちが鳴る。
『……素晴らしい戦いだった、ブルームスター。 血が湧き、肉が躍った』
「ンだよ、もう終わるみたいな言い草じゃねえか……まだまだ俺は戦れるぞ」
『いいや終わりだ、人の身故の限界がある。 実に惜しい』
黒騎士の言う通り、胸に空いた風穴は瞬きの間に直ってこそいるが、全身にのしかかる疲労はまるで回復しない。
希釈された痛みの中で数えきれないほど与えられた「死」の感触、それが積もり積もって俺の精神を蝕んだ。
いつもならここらで活を入れてくれる相棒の声があるもんだが、今の俺に聞こえるのは耳障りなノイズだけだ。
……ああ、独りってのはしんどいな。
『ではさらば、ブルーム――――』
――――別れの言葉を告げ、黒騎士が槍を構えたその瞬間、何故か奴の動きが止まる。
淀んだ感覚でも分かるほどの明確な隙、そこに飛びついたのはほぼほぼ反射だった。
身体を焦がす熱量を一点に集め、黒騎士へと飛び込み殴りつける。
鎧に突き刺さった箒を押し込む拳、騎士が僅かな身じろぎを見せるがそれだけだ。
纏わりつく羽虫を払うように騎士が腕を振るうと、俺の身体は面白いように弾き飛ばされた。
二度三度とバウンドする身体、脆くなった建物の壁をぶち抜くと、身に纏っていた黒衣が解けていつものモノクロの恰好へと戻ってしまう。
「っ……ぁ……」
『…………ぬかった、まさか杖も無く飛び出すとは』
万事休すと思われたが、黒騎士は俺の安否も気にせずに踵を返してどこかへと駆けだした。
声が出ない、今更ぶり返した激痛が全身を襲う。 一体何があったんだ。
《……スター! マスター! やっと繋がった!! 無事ですか!?》
「ハ、ク……やつは、どこに……?」
《分かりません、ただ何か焦っていたように見えましたが……》
「っ゛……なん、だよ……俺も結構悪運強いもんだな……」
覆いかぶさる瓦礫を退け、今にも崩れそうな建物を見渡す。
もとはコンビニだったのだろうか、商品が陳列されるはずの棚には埃が被り、黒くなったシミだけが残されていた。
「……行こう、折角拾った命だ。 1秒も無駄に出来ない」
《いいえ、チャンピョンちゃんも気になりますが一度休息が必要です。 お願いですマスター》
「何言ってんだ、これくらい問題、は……」
口では強がりを吐くが、ここまでの疲労と身を焦がす激痛に耐えかねて意識が一瞬飛ぶ。
脚の力が抜けた身体はそのまま前方に倒れ……そして、誰かに支えられた。
「っ……誰、だ……?」
「やっほー、チャンピョンだよ! 何かあっついねここ!」
瀕死の重体に堪えるボリュームの高音、顔を上げると黒騎士に吹き飛ばされたはずのチャンピョンが俺の身体を支えていた。
衣装は所々千切れ、口内を切ったのか口の端には血が滲んでいるが、彼女の表情からははつらつとした気力は消えていない。
「チャンピョン……お前、無事だったか……!」
「……? どこかであったっけ、もしかしてうちのファンか! そっかー! いつも応援ありがとー!」
「……? お前、何言って」
「――――