俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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誰がためにと願わくば ①

「へー、ブルームスターってのかー。 東北の人? 遠いなー!」

 

「…………まあな」

 

テキパキと火の海と化した周囲から魔石を拾い集めながら、チャンピョンは能天気にしゃべり続ける。

そして俺はへし折れた電柱にもたれ掛かり、その姿を眺めながら適当な相槌を返していた。

炭の中に埋もれた魔石は黒衣の余波で燃え尽きた魔物たちの残骸だ。

結構な数が巻き込まれたのだろう、もしかしたら今この辺りは東京で最も安全な場所かもしれない。

 

「はいよー、拾ってきたよ! いやー、けどあっついね! 何でこの辺こんな燃えてんの?」

 

《……マスター、もしかして彼女はどこか打ちどころが悪かったんじゃ》

 

「いや失礼すぎるぞ……」

 

崩れかけのコンビニ内で再会してから、チャンピョンの様子はどこかおかしい。

まるで初めて顔を合わせたかのような態度だ、ほぼ初対面の様なものだが名前まで忘れてしまうのは流石におかしい。

なぜ自分の名前が……いや、存在が忘れられてしまったのか。 思い当たる節は1つある。

 

「……? どったのー?」

 

「いや……なんでもない、サンキューチャンピョン」

 

月夜はきっと、自分の力を振るうたびに毎回こんな思いをしていたのだろう。

そうか、共に戦った仲間と「はじめまして」からやり直すというのはこれだけ苦しいものなのか。

 

「……ハク、どれだけ回復できた?」

 

《んー……1割ちょい程度です、量は多くても1つ1つの質が悪い。 それに焦げ臭いです》

 

「そーかい、悪いね。 余裕があったら今度から火加減に気を付けら」

 

チャンピョンが集めてくれた魔石をハクに与えると、多少ながら全身を焦がす痛みが和らいだ。

吹き出る汗を拭って立ち上がる。 大丈夫だ、まだ体は動いてくれる。

 

「時間が惜しい、他の奴らと合流するぞ。 ……チャンピョン、それは覚えてるか?」

 

「ばっかにしてくれちゃって! ロウゼキさん達でしょー……ん? なんでブルームスターが知ってんの?」

 

記憶が焼却されているのは俺と関わった記憶だけか、少なくとも記憶の大筋は覚えている。

……そうか、ラピリスたちも忘れているかもしれないのか。 それはちょっとだけ辛いな。

 

「覚えてんならそれでいいよ。 急ごう、確か向こうの方だったよな」

 

「そだねー、よいしょっと!」

 

はつらつとした返事を返したチャンピョンが俺の身体を抱きかかえる。

そしてそのままタッタカと走り出した、俺を抱えたままでも軽い足取りは流石というべきかなんというか。

 

「……いや、なにしてんだチャンピョン?」

 

「まだ辛いっしょー、ブルーム軽いから楽ちん楽ちん! ちょっと揺れるけどそのまま休んでてよー!」

 

「馬鹿言え、これぐらいかすり傷だよ。 お前も余計な事してないで体力温存しとけって!」

 

「我慢はカッコいいもんじゃないぜぃブルームー。 辛いときは辛いって言いなよ、その代わりうちもしっかり弱音は吐くからさ」

 

「…………悪い」

 

「あいあいー、けどこゆときは“ありがとう”の方が嬉しいなー」

 

にへらにへらと笑うチャンピョンに抱き抱えられたまま、他の面子と合流するために移動する。

……遠くからかすかながらエンジンを吹かすような音とネズミの鳴き声が聞こえる、オーキスたちと交戦しているなら全員あの場にとどまっている訳じゃない。

果たしてほかのみんなは無事だろうか。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「わひゃああああぁああぁあぁあぁぁぁ!!!」

 

『グギャオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

ツヴァイと名乗った双子の魔法少女、彼女達に渡された未完成の地図を持って地上に出てきたまでは良かった。

薄暗い地下線路を転ばない様に辿り、地上へ繋がる階段を登って久方ぶりの外へ出る。 そこまでは良かった。

だが出入口の正面で魔物が大口を開けて待ち構えているのは流石にひどいと思う、我泣いた。

 

そしていつか図鑑で読んだ肉食恐竜に似たそれは、アスファルトをじゅうじゅう溶かす涎を垂らしながら獲物と定めた私を追いかけ始めた。

幸いなことに向こうは体躯のせいで細かい路地では障害物に体をぶつける、その際に生じる数秒のタイムロスが私の命を繋いだ。

たまに飛んでくる涎と瓦礫を避けながら、入り組んだ道を転ばない様に駆け抜ける。

幾つかの道を曲がった時、丁度開け放たれた扉が目についた。 一瞬だけ背後を振り返ると、恐竜の視線は切れている。

 

「えいしゃー!!」

 

『――――グルルルアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

一瞬だけ迷い、そして賭けに出た。 恐竜が路地を曲がる前に開け放たれた扉へ頭から飛び込み、息をひそめる。

たぶん今日だけで一生分の運を何割か使ったと思う、うなりを上げた恐竜は私には目もくれずに通り過ぎて行ったのだから。

戻ってくるかもしれない恐怖に怯え、とても長い数十秒を超えてようやく大きく息を吐いた。

 

「ぷ、はぁー……!! 死ぬかと……今度ばかりは本当に死ぬかと思った……!」

 

『ソダヨネー』

 

「しかし闇雲走り過ぎたな、ここはどこだ……?」

 

『デショー、マジヤバイジャン』

 

「……ん?」

 

ようやく静まって来た心臓が再び強く跳ねる。

眼は取り出した地図に落としたまま動けない、冷や汗が頬を伝ってポタリと落ちる。

……自分は今一人のはずだ、ではこの相槌は一体誰が打っているのか。

 

怖いもの見たさにゆっくりと顔を上げた事を、私はすぐに後悔した。

 

『マジサイアクー、チョウウケルンダケドー』

 

「ひ―――――ぁ……!」

 

それは“化け物”だった、人の形こそ成してはいるが風船のように膨れ上がった顔のパーツがめちゃくちゃだ。 ()()()()()

90度回転させた唇がびっしりと並び、歯をむき出しにしてパクパクと金魚のように口を開閉させている。

人の血管で編んだセーラー服の下には、天狗巣状に伸びた毛髪が辛うじて手足の形を成していただけだ。

 

『ワタシタチズットモダョ、ネェー?』

 

「い、いや……いやぁ!!」

 

我を忘れて逃げ出そうとするが、いつの間にか建物の床は生暖かく脈動して、私の手足を飲み込んでいる。

身動きが取れない、まさかこの建物自体が罠だったのか。 目一杯もがいてみるが、床の拘束は強力でまるで抜け出せない。

その間にも化け物がにじり寄る、その大口を全て開いて三日月のように歪ませながら。

……ああそうか、あれは嗤っているのか。

 

『――――先に詫びよう、少し壊す』

 

ぎゅっと目を瞑ったのと、背後から吹き込んだ突風が化け物を吹き飛ばしたのは同時だった。

何が起きたのか、恐る恐る目を開くとそこにはスピネと共にいたあの黒騎士の姿があった。

 

「く、くくくくく黒いのぉ……!」

 

『…………動くな』

 

目の前に立つ黒騎士が化け物を吹き飛ばした槍を振るう、眼にも止まらぬ速度で放たれた刺突が肉々しく脈動する床を抉り、私の手足の拘束を解く。

そのまま余りに華麗な手際であっけにとられる私を摘まみ上げ、騎士は建物に開けられた大穴から外に出る。

そこでようやく私は思考が追いついて、今更な涙が瞳からボロボロあふれ始めた。

 

「う、ううううぅぅうぅうぅぅぅぅぅ……!!」

 

『泣くな、止め方を知らぬ』

 

「あり、ありがとぉ……怖かったぁ……!」

 

『何故礼を述べる、お前にとって我々は恨むべき相手だ』

 

反論となる台詞は嗚咽となって上手く吐き出せず、無言で首を振って騎士の言葉を否定した。

確かにその通り、しかしあんな冒涜的な状況から助けられたのだ、礼の1つくらい言ってもばちは当たらない。

 

『……分からぬ、のでこのまま行くぞ。 命が惜しければ勝手に動くな』

 

「ま、待て……どこへ行く、スピネのところか……?」

 

『それは貴様をあの廃病院へ帰してからだ』

 

「我ごと連れていけぇ……もう置いていくなぁ……!」

 

摘まみ上げられた体勢から、引き剥がされない様に騎士の指にがっしりとしがみつく。

二度とあんな恐ろしい目に合うのはごめんだ、しかしこのまま振出しに戻されては困る。

だからこそこのまま騎士にしがみ付き、スピネの元まで連れて行ってもらう。

相手も私は重要な駒であるはずだ、無下には出来まい。

 

『……………………面倒だ』

 

予想が当たってか、騎士はたっぷり悩んだ後、しがみ付く私をぶら下げたまま行き先を変えて歩き始める。

惨めだって良い、今は何だってやってやる、これで強力なボディガードを連れたままスピネたちと顔を合わせる事が出来る。

 

…………それに、怖いのは本当だから一人にしてほしくはない。

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