俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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エマージェンシー・ゴルドロス ③

それから先はしばらく2人の間に無言の時間が流れた。

コルトの追跡は正確だ、昨日ラピリスから逃げた軌跡を辿って見せる。

このままいけば彼女は間違いなく俺たちの正体へ近づいて行くだろう。

 

ブルームスターが残した魔力の痕跡、そんなものが本当に追えるのだろうか。

二回の変身において、俺自身も魔力を五感で感じたことはない。

経験を積み重ねれば分かるものなのか、それとも彼女固有の能力なのか……

 

《正直眉唾ですね、私も曖昧な気配は分かりますがここまで正確な……ましてや一日過ぎた残り香を追うなんて真似ができるとは思いません》

 

「俺もそう思いたいけど……あっ」

 

いよいよ喫茶アミーゴへ近づいて来た時、コルトが道を間違えた。

本来ならば路地裏を通って行くはずの道を通り過ぎ、そのまま大通りを歩いて行く。

これでは逆に目的地から離れてしまう、やはり魔力を追うなんて真似は無理があったのか。

 

《やりましたねマスター、ギリギリでしたがこれなら何とかなりそうですよ!》

 

「そりゃどうかな……」

 

果たしてここまで問題なく辿って来たというのに、こんな所でいきなり間違えるだろうか?

路地に入るのが嫌で大通りを遠回りしていくだけなのかもしれない。

 

しかし俺の予想とは裏腹に、コルトはどんどんとアミーゴから遠ざかるように歩いて行く。

歩いて、歩いて、歩いて……とうとう都心部から大きく外れた所まで来てしまった。

 

早朝に色々試した採石場跡地とも違う、年季の入った橋が掛けられた河川敷。

そしてコルトは橋の下まで歩いたところでピタリと足を止めた。

 

「……コルト? どうした、こんな所で立ち止まって」

 

「おにーさん、私がさっき言ったこと覚えてル?」

 

「さっき……もう一度同じことを言ってみろ、だったっけ?」

 

「ソダネ、プラスしてあともう一つ」

 

――――振り返ったコルトは右手に握った拳銃を俺へと突きつけた。

 

「……えっと、冗談が過ぎるぞコルト?」

 

「ジョークじゃないヨ、本物の拳銃。 疑問なら一発撃ってみル?」

 

抑揚のない声で突きつけられる拳銃はとても玩具とは思えない光沢が輝く。

どこから取り出した? 直前まで彼女の両手はクマのぬいぐるみを抱きかかえていた、拳銃なんて握るそぶりすら見せていない。

いや、そもそもなんでコルトはこんな真似を……

 

「ブルームスターについて何か知ってるでショ、おにーさん。 素直に話すが身のためダヨ」

 

「何の事だ?」

 

その一言に心臓が跳ねる、バレたのか? いや、まさか、あり得ない。

これまでの行動で不審に思われるようなことは何もしてなかったはずだ。

 

「“ブルームスター”、良い名前だネ けど今はまだまるで浸透してない、デモおにーさんはすんなり黒い魔法少女と結び付けたよネ」

 

しまった、それ以前の行動から疑われてたのか。

とぼけるなら名前を聞き返すぐらいの真似をすればよかったか、だがまだ誤魔化せる。

 

「……前に一度、クモが現れた時助けてもらったことがある。 その時に名前を聞いたんだ」

 

「嘘ダネ、一度目の出現で彼女は名乗ってないヨ。 名乗ったのはニワトリの時が初めてダ」

 

子供騙しの嘘はあっけなく見透かされた。

こいつ、一体どこまで調べがついているんだ……?

 

「黙るはコーテイと受け取るヨ。 そもそもおにーさんは最初から不自然だったネ、まるでブルームスターの事を自分の事のように反応してくれたものネ」

 

……そりゃまあ自分の事だもの。

 

「だから結構な仲だと思ったヨ、ブルームスターをここに呼んデ」

 

「……出来ないと言ったら?」

 

返答はなく、無表情で放たれた鉛玉が頬を掠めてた。

 

「……女の子がンなもん振り回すんじゃねえよ」

 

「まだ言うんだネ、凄いヤおにーさん」

 

今度は当てるとでも言わんばかりに、硝煙を吹く銃口が俺の腹へと押し当てられた。

服越しに銃口に燻ぶる温もりを感じる、知らず冷や汗が頬を伝った。

 

「何度だって言ってやるよ、魔法少女だろうが何だろう……ゴァっ!!」

 

押し当てられた拳銃ごと彼女の拳がめり込む。

片膝をつくほどの威力、とても子供の膂力とは思えない。

浅い呼吸を吐きながら顔を上げると、丁度コルトと目が合った。

 

「……魔力を持たない相手にはこれでもかなりのパワーあるネ、こんな子供がいると思う?」

 

「ゲホッ! いるじゃねえかよ、目の前に……」

 

「ここにいるのはただの魔法少女(ばけもの)ダヨ、いい加減認めて」

 

「強情っぱりめ、誰がお前を化け物なんて呼びやがった。 ぶん殴ってやる」

 

「私の親だヨ」

 

……自分の聞き間違いだろうか、彼女は今なんて言った?

 

「両親がそう言ったヨ、私の事を「化け物」ってネ」

 

実の親に化け物と罵られる、それが子供にとってそれがどれほどのショックなのだろう。

それが彼女の心にどれだけ深い傷を刻み付けたのだろう。

 

「魔法少女になったのは2年前カナ、それまではごく普通の家庭だったと思うヨ」

 

跪いた俺の額に拳銃を突きつけたままコルトは静かに語りだした。

碧色の眼は無表情のこちらを睨みつけている、話しながらも一切の隙は無い。

 

「ある日の休み、家族全員でショッピングに出かけたんダ。 そして偶然魔物に襲われタ」

 

思い出したくない記憶なのだろう、絞り出すようなコルトの声は強い悲しみに震えている。

 

「私がこの力に目覚めたのはその時、家族を守るために必死に戦ったヨ。 戦って、戦って、戦って……「終わったよ」って振り返ると、パパもママも怯えた顔をしてタ……!」

 

感情の高ぶりに合わせて拳銃を握る腕が震える、今ならこの手をはじいて逃げ出せるかもしれない。

けど、駄目だ。 今目の前にいるコルトの顔が俺にその選択肢を選ばせてくれない。

泣きそうな顔をしている彼女の前から逃げることは許されないと俺の中の何かが叫ぶ。

 

「来るな化け物って、私をそう呼んだんダ……その日から私は独りぼっちダ!」

 

コルトは目じりに涙を湛えて感情を叩きつけるように叫ぶ。

彼女の心にできた傷は相当のもの、生半可な言葉でどうにかなる問題じゃない。

 

()()()()()()()()()()! 彼女はそれを知らないまま、力を振るって身を滅ぼすヨ!」

 

ならどうする、俺に何ができる?

実の親に否定された存在を、俺が代わりに肯定できるとでも言うのか。

今ならできる、逃げ出すことができるはずだ。

 

「化け物はちゃんと首輪をしてなきゃ駄目だヨ、おにーさん……魔法少女は皆、人でなしだ」

 

「……違う、それだけは絶対に違う」

 

彼女の心にできた傷を癒すことはできない、けど逃げ出すような真似も出来ない。

自分を化け物と自嘲する彼女から逃げ出してしまえば、俺は二度とアオたちに顔向けできない。

何と言われても譲れない一線に――――俺は腹を括った。

 

「魔力が人を不幸にするってんなら、不幸なお前を放っておけるかよ……なぁ、ハク」

 

「……? なに、誰と話してるノ?」

 

《あーもー、こうなると思ってたから黙ってたのにー》

 

スマホを取り出すとすでにハクがアプリを抱えて待機している。

ありがたい、口では文句を垂れているが気の利く同居人だ。

 

≪トランスシフター! ARE YOU LADY!?≫

 

「おにーさん? 何ヲ……」

 

「――――変身!」

 

高らかな電子音声が鳴り響き、全身を黒炎が覆った。

視界が晴れると、今度は膝をつかずともコルトと目線の高さが合う。

 

「……What’s? 」

 

「俺を探してたんだろ、加名守コルト。 悪いな、俺がブルームスターだ」

 

首に巻いたマフラーをグッと握って覚悟を確かめる。

話し合おうぜ、コルト。 お前が言った通りに河原で殴り合って。

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