俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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デッドヒート・アライブ ④

「最短コースで本体を叩くわ、()()()()()()()()ゴルドちゃん!」

 

その台詞を聞いた時、彼女の覚悟を理解した。

傍らのバンクをテディの腹へと詰め、命綱のように抱きしめていたシートベルトを外す。

あとはタイミングだ、可能な限り高く、それでいて銃弾による妨害が入るギリギリのライン。

 

『タイミングはこちらで伝える、連れて行って』

 

膝の上に抱えたデバイスからツヴァイの声が響く、彼女もこの後の展開を察したのだろう。

一瞬迷ったが、戦闘力の無い彼女を車内放置するよりは連れて行った方が良い。

USBを抜き取り、再度コウモリ型の機械へと挿入した。

 

『――――カウントダウンを始める。 0と同時に行動を、5……4……』

 

覚醒したコウモリへとツヴァイの声が移り、休む暇もなく作戦開始のカウントを取り始める。

ジャンプ台は既に目前、ドアへと手を掛けてゼロのコールを待つ。

荒れた斜面を登り、揺れる車体。 そして嫌な浮遊感と共に宙へと飛び立つ。

 

『2……1……ゼロ!』

 

コウモリのカウントが尽きると同時にドアを開け放ち、体一つで大空へとダイブする。

同時に背後では重低音を鳴らして弾かれた車体が墜落していくが、振り返ってはいけない。

高度は十分、目標のビルは直線距離で目と鼻の先、あとはどうやってあそこまで手を掛けるか。

 

「バンク、良い道具頂戴ヨ!」

 

『モッキュ!!』

 

テディの腹へと手を突っ込み、出てきたのは大型のカイトだ

三角形を描く翼を広げたそれは、片手で握る私をぶら下げたまま緩やかに宙を滑空する。

高度の低下は緩やか、それどころか向かい風を受けてむしろ上がるほど。 ハンマーやかんしゃく玉に並んで訳の分からない高性能っぷりだ。

 

「だけどこれじゃ何時撃ち落とされるか分からないネ、神頼みかな……!」

 

『無問題、ツヴァイシスターズは1人じゃない』

 

「……?」

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

「……なるほど、バンクか。 支部に置いてきたはずだけどどうやって連れて来たのやら」

 

ゲームチェンジャーの画面越しに、撃ち落としたはずの車体から飛び出した影を目で追う。

広げているのは大型の凧か、通常ではありえない浮力。 ゴルドロスの杖でもあんな代物は引き出せない、彼女の能力はあくまで地球上に存在する物品を引き出すだけだ。

 

その“タガ”を外したのがバンク、未だ謎の多いイレギュラーな存在。 だからこそ東京に連れてこないように置いて来た。

だがまあ、居るなら居るで仕方ない。 幸い凧の滑空にそこまでの速度はない、猛スピードで疾走する車体よりは撃ちやすい獲物だ。

スコープを覗く小人に合わせてチェンジャーを構える。 狙いを定め、引き金を絞――――ったその瞬間、地上から屋上の縁を掠めて飛来した銃弾がスコープを覗く小人の頭を貫いた。

 

「っ――――」

 

頭部を失い、消失する小人を尻目に弾が飛んで来た方角を睨みつける。

目に映る範囲に敵はいない、スピネか? いや、ボクを裏切る理由がない、それに銃弾の質が違う。

小人が喰らった手応えからして、今のは鉛玉というよりエネルギー塊に近い。

射線からしてゴルドロスはあり得ない、まだ見ぬ新たな魔法少女……

 

「……参ったね、これ以上の深入りは危険か」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『――――園、こちらは片付きましてよ。 ()()()()()()()()()、それとスナイパーは退けましたわ!』

 

コウモリからスピーカー越しの声が響く、USBに魂を乗せた少女とはまた別の声、通話機能もあったのか。

それに今、ロウゼキさんと合流したといわなかっただろうか。

 

『最良、詳しい話は後で。 こちらを片付けてから行く、ゴルドロス』

 

「っと、そうだネ! 覚悟しなヨこのネズミ男!!」

 

『――――――っ』

 

たった今ぶち抜いた穴以外、一切の光源がない部屋の中央にペストマスクを被った不気味な男が佇む。

カビと獣臭に混じり、この東京の中でも臭ってくる魔力の気配、間違いない。 

目の前にいるコイツは魔物……いいや、人型のそれは魔人と形容する方が正しいか。

その魔人が私たちの姿を見るや否や、踵を返して駆けだす。 その先にはこの部屋唯一の出入り口。

 

「逃がすかヨ、バンク! 何かいい武器―――」

 

『待って、油断は禁物!』

 

逃げる背を追いかけながらバンクに向けて下げた視線を上げる。

室内に空けた大穴の陰になる部屋の隅、そこに赤く輝く無数の点が浮かび上がる。

これまでに何度も見て来たネズミの瞳、一つ違うことがあるとするなら飛び掛かってきたその背に導火線を引いた筒状の“何か”が括りつけられているというところか。

 

「ダイナマ―――――!!」

 

気づいた時にはもう遅い、暗い部屋が一瞬輝き、遅れて連鎖的に無数の爆発が轟いた。

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

爆音が鳴り渡り、続いて瓦礫が倒壊するガラガラという音が聞こえてくる。 

部屋に取り付けられた唯一の扉からはもうもうと煙が立ち込め、中の様子はうかがえない。 ネズミ共は上手く爆ぜたか。

あれの中身は東京中に蔓延る魔物たちの角や殻、自然と脱落したものをネズミたちに集めさせて詰め込んである。

爆弾自体は効かなくとも爆風に乗った異物が容赦なく肉を抉る、多少なりとも効果はあるはずだ。

流石に死にはしないだろうが、まあどちらでもいい。 瓦礫に呑まれて下まで落ちてくれるなら。

 

そしてまた昇ってくるまでに姿を隠そう、また影からネズミ共を使って追い詰めれば良い。

もう一度だ、そしてもう二度と会うことはないだろう。 さよならだ黄金の魔法少女。

 

 

『―――――早く、長くは持たない……!』

 

「Thanks! おかげで届いたヨ!!」

 

……二度と聞きたくなかったはずの声が背後から聞こえてくる。

幻聴だと思いたかった、気のせいだと思いたかった。 しかし振り返った先の景色がその願いを否定する。

開け放たれた扉のすぐ下、ぽっかりと開いた床の穴から土汚れと血糊にまみれた魔法少女が這いあがっているではないか。

戦闘力の無いオマケと無視していたはずのコウモリもどきが、彼女の背を掴んで忙しなく羽ばたいている。

 

余計な真似を、と毒づく隙も無く俺は長い廊下を駆けだす。

焦るな、状況はまだこちらが有利だ。 魔法少女も無傷ではない、まだチャンスはある。

ランタンを振るってネズミを呼び込む、発火・催涙性の高いガスを撒いて追手を封じる。

俺が上で奴らが下だ、死ぬのは奴らだ。 

 

「これ以上逃がさないヨ、バンク!!」

 

『もっきゅー!!』

 

獣の鳴き声を放つぬいぐるみに手を突っ込み、魔法少女が謎の球体をいくつか取り出して床へと叩きつける。

またかんしゃく玉か? いや違う、それは床に衝突すると景気よく跳ね上がった。

そのまま天井、壁、床、天井、床、壁、壁、天井。 無尽に反射し続けるその球体は止まるところかむしろ加速しながら通路内を暴れ回る。

やがて逃げる俺に迫った一球が、この手に握ったランタンを強かに弾き飛ばした。

 

まずい、あれがないとネズミたちの統率が取れない。 慌てて拾おうと手を伸ばした背に、二球三球と堅いゴム質の球体がめり込んだ。

あまりの威力にもんどりうって床を転がる。 何故だ、何故俺がこんな目に合うんだ。 

 

魔法少女め、黙って爆発に飲まれて墜ちればよかったんだ、それ以前にネズミに呑まれて死ねば良かったんだ。 こんなことは想定外だ。

まだ下層からネズミ共は集まっていない、あの部屋に集めたネズミは皆爆散した。

手がない、手が―――――誰か、誰か俺を助けろ。

 

『前方にガス、気を付けて』

 

「知ってるヨ、突っ切るッ!!」

 

背後から、口元を覆って無理矢理ガスの壁を突破した魔法少女が迫る。

その手にはどこから取り出したのか物騒な機関銃が握られ――――床に転がる俺の顔へと容赦なく突きつけられた。

土埃の茶色と傷口から滲む赤に汚れても、依然として輝くほどの黄金が俺を見下す。

ガスを突っ切ったせいで涙の浮かんだ瞳はそれでも強い光を宿している、やめろ、俺を見下すな。 そんな目で見るな。俺は、俺は―――――!

 

「―――――バイバイ、ペストマスク。 皆の分も合わせてお返しするヨ!」

 

迷いなく引かれた引鉄、そして俺の左目を貫く弾丸。

獰猛な獣のような唸り声を立てて無数の銃弾を吐き出すそれは、俺を絶命に至らせるには十分なものだった。

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