俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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クソッタレな神様へ ②

殺さずに戦う、ということはとても難しい事だ。 当たり前だが刀は何かを殺すためのもの。

峰を当てるように振るう刀はいつもより鈍く、重い。

オマケに刃の裏表が関係ない突き技が制限される、当然いつも通りの立ち回りなんてできやしない。

 

魔物は殺すが人は殺さない、我ながらよく分からない線引きだ。

それでも目の前の彼女は殺さない、殺せない。 確かに手段こそ分かり合えないが、根底にある思いは決して魔物のような悪意に満ちたものではないのだから。

私が振るうべき刀は彼女ではない――――だから身を翻して、我が宿敵の頭を踏み砕かんとする、その騎士目掛けて一歩を踏み出した。

 

「……クソ、俺が2人とも相手できれば良かったんだ」

 

「無茶を言わないでください、相手が2人ならこちらも2人ですよ。 ()()()()

 

横をすり抜ける時、謝るような声で彼女が呟いた。

一人で何でも解決しようとする、出来なければ全部自分のせいだと抱え込むその悪癖はいつか矯正すべきだ。

しかしそれは今ではない、今に限り宿敵ではない白マフラーを見送りながら騎士の足元へと滑り込む。

 

幾多にも刻まれる切り傷、だがそのどれもが浅い。 脚の合間をすり抜ける間に何事も無かったかのように塞がってしまう。

堅い鎧に守られていない脚部は弱点と踏んだが、たとえ生身でもこれか、骨が折れる。

 

「ラピリス、無茶すんなよ! そいつは独りじゃ無理だ!」

 

「何処見てんだよ、あんたの相手はアタシだろッ!!」

 

背後から飛ぶ激励に答える余裕もない、ブルームだってそのはずだ。 私を気にかける暇があるなら自分の方を何とかしてくれ。

その間、私はこいつを倒して待っているから。

 

『……退け、貴様の相手をしている暇はない』

 

「おや、ブルームの方がお好みでしたか。 それとも弱い者いじめが好きな方ですか?」

 

『貴様――――』

 

「誰が弱いもんだ、ラピリスお前後で覚えとけよ!」

 

「いちいちうるさいですね貴女は! そっちに集中してないと死にますよ!!」

 

私達の漫才を断ち切るがごとく、膨れ上がった騎士の殺気に髪がはためく。

緊張感のないやり取りが癇に障ったか、それとも単に侮辱されたのが気に食わなかったか。

まあいいか、さて片足だけでどこまで行けるか。

 

『思い上がるな、刀一つ失ったお前に何ができる』

 

「手始めにあなたを倒します。 主を想うのであれば、大人しくそっ首差し出しなさい」

 

『断るッ!!』

 

一層苛烈さが増した騎士の猛攻が襲い掛かる。

その馬脚で地面を砕き、こちらの足場を奪ったうえで槍の一突き。

流石に怒りに任せて雑な攻めになる事はないか、これに関しては私も見習わなくては。

 

「なにせ、私も、私も内心腸が煮えくり返っていますからね……!」

 

ブルームスターをあそこまで痛めつけたのはこいつだ、何故かその事実に酷くむかっ腹が立つ。

彼女を倒すのは私の役目だというのに、よくも叩きのめしてくれたなという怒りだろうか。

分からない、分からないが……とにかく目の前のこいつ(とブルームスター)は一発殴っておかないと気が済まない。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「死、に……晒せぇ!!」

 

景気よく弾を吐き出す銃身を横から払いのけ、がら空きの胴体へ身体を差し込んで強引に肉薄する。

俺にラピリスの様な照準を振り切るような速度は出せない、距離を開けてしまえばハチの巣になるだけだ。

 

「いい加減にしろスピネ! その身体じゃ俺は倒せても他の魔法少女まで持たないだろ!」

 

「知った事かよ、くっつくんじゃないよ乙女の柔肌にさぁ!!」

 

スピネが銃を反転させ、身体に密着した俺へと銃口を向ける。

無理をした姿勢からの射撃だ、躱そうとすれば十分躱せるが……

 

「良いのかな、避ければアタシに当たるけどさぁ!!」

 

「っ……!」

 

射線上には俺を挟んでスピネがいる、まさか自分を人質にして脅してくるとは。

捕まえていたつもりが掴まっていたのは俺の方だ、苦し紛れに腕を挟んで銃弾を防ぐ。

肉を抉って骨にめり込む痛烈な感覚、歯を食いしばって堪える。

 

「ぐっ……!」

 

「キヒッ! 優しいねえ、馬鹿みたいだぁ!!」

 

怯んだ俺の隙を逃さず、大きくのけ反ったスピネに勢いを乗せたヘッドバットを叩きこまれる。

脳を揺らす一撃が一瞬俺の意識を飛ばし、僅かながらスピネの拘束を緩める。

 

「大変だね正義の味方、守るものが多くってさ!」

 

「ああ本当にな、だからいい加減な覚悟決めてないんだよ!!」

 

俺の身体を引き剥がし、距離を取ったスピネが再度銃を構える。

だがその細い指が引き金を引くより早く、俺は構えた箒を盾にしてスピネへと突っ込んだ。

盾とは言っても所詮箒、防ぐ面積はさほど大きくはない、あくまで最低限の急所だけ。

容赦なく、かつ冷静な弾丸が腕や足に突き刺さるが知った事か、突っ込んだ勢いそのままスピネごと倒れて地面を転がる。

 

「んなぁ!? この、離せよすけべ!!」

 

「ちょっと、そっち見る余裕ないんですが何やってんですかブルーム!!」

 

「人聞きの悪い事いうな! もう逃がさねえからなこの野郎!!」

 

確かに体勢は倒れ込んだスピネに覆いかぶさる、いわゆるマウントポジションだが命懸けの現場で変態扱いされるいわれは断じてない。

銃を握った腕は完全に抑え込んでいる、もはや脱出できる余力は残っていないだろう。

……いや、それは俺も同じか。 いつまで抑え込めるか分からない、お互いに体力勝負だ。

 

「終わりだスピネ、もう終わりだ! 東京は……死んだ人間は蘇らない!」

 

「うるさい! お前に何が分かる、何も試してもいないくせにアタシたちの10年を否定すんなよ!」

 

「失敗したらどうする気だよ。 魔法少女の命を使って、何も成果はありませんでしたってどの面下げて語る気だ!?」

 

「それ、は……」

 

詳しい事情は分からない、だがこれまでの彼女達が語った内容からある程度の推測はつく。

魔法少女を殺して得られる何らかのリソース、それを使ってこの汚染され切った東京を浄化……いや、時間すら巻き戻して見せるというのだ。 そんな大それた真似、この地にいる数える程度の魔法少女たちを捧げた所でどうにかなるとは到底思えない。

 

分かるよ。 縋りつきたいよな、“もしかしたら”なんて可能性を抱きしめて、悲観も後悔も全部投げ出してしまいたくなるよな。

でも駄目だ、駄目なんだ。 死んだ人間は蘇らない、そんな方法があるなら、もしあの時の悪夢を拭いきれるなら。

 

「……そんな真似ができるなら、とっくに俺が見つけてる」

 

「……? ブルームスター、まさかお前も……」

 

スピネの問いに対して、俺は沈黙で応える事しかできなかった。

だけど俺たちの間にはそれだけで伝わる、家族を失った痛みを知る者同士なら。

 

「今なら間に合う、銃を捨てて投降しろ。 頼むよ、スピネ!」

 

「キヒッ……残念だね、ああ残念だよブルームスター! 同じ痛みを知っておきながら、分かり合えないなんてさぁ!!」

 

「お前、何を……ぐっ!?」

 

抑え込まれた体勢から無理矢理脚を外したスピネが、俺の腹を蹴り飛ばす。

今度は一人で無様に地面を転がる身体、その上からスピネの脚が踏みつけ、撃鉄を起こした得物を突きつける。

 

「ブルーム!?」

 

「終わりだブルームスター! その頭ぶちぬいてやる!!」

 

ラピリスとスピネの叫びが重なる。 まずい、防御――――何でもいい、とにかく箒を。

銃弾を防ぐだけの素材、瓦礫じゃ心もとない。 せめてもっと堅い、何かないか……?

 

ふと、瓦礫とは違う鋭い感触が指先に触れる、これは確か――――

 

「ええい、ままよ!!」

 

考える余裕はない、イチかバチか掴んだ“それ”で銃弾を防ごうと構える。

そして尾を引く銃声が響き、2人の得物がぶつかり合った。

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